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MENTA、30個目の個人開発が月商140万円でランサーズへ株式譲渡。入江慎吾氏の全経緯

オンラインメンターサービスMENTAは入江慎吾氏の30個目の個人開発。初日流通9万円から、プログラミング特化への転換を経て月間流通900万円・売上140万円へ。2018年6月開始、2020年10月にランサーズへ株式譲渡した。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

MENTA、30個目の個人開発が月商140万円でランサーズへ株式譲渡。入江慎吾氏の全経緯

月商140万円は、月商を公開している掲載259件のうち下から41%。掲載全体の月商中央値は225万円です(データ集計)。

個人開発のイグジット事例は国内にいくつかあるが、初日の売上から失敗した施策、チーム化の手順、譲渡後の組織変化まで一次情報が揃っている例はMENTAをおいて他にない。入江慎吾氏本人のnote、ライフハッカーのインタビュー、譲渡先であるランサーズのエンジニアブログという立場の異なる3つの公開情報から、「30個目の当たり」の中身を分解する。

事業の歩み

時期出来事数字
2018年4月受託開発をやめ、サービス開発に専念を決断—
2018年6月3日2ヶ月の開発を経てMENTA正式オープン初日アクセス約8,000人・流通9万円(売上1.5万円)
2018年6月初月流通約70万円・売上約12万円
2018年7月2ヶ月目、流通が横ばいに流通約70万円
2018年秋5ヶ月目月間流通100万円突破
2019年1月プログラミング領域への特化を決断ここからPMF
2019年5月メンターが記事を公開できる「投稿」機能SEO流入の装置に
2019年9月登録ユーザー1万人—
2020年1月記事執筆時点月間流通900万円超・売上140万円
2020年10月ランサーズへ株式譲渡、グループ入り譲渡額非公開
2020年12月別サービスCLOUD PAPERもM&Aで売却—
グループ化から1年体制移行が完了社員10人体制・登録者3万人

月間流通額の推移(万円)

70万 2018/6 70万 2018/7 100万 2018秋 900万超 2020/1 2019/1 プログラミング特化
本人公開の数字より。70万円で足踏みした流通額は、2019年1月のプログラミング特化を経て2020年1月に900万円超へ。

何をやっていたのか

MENTAは「だれかの先生になったり、生徒になれる」オンラインメンターサービス。月額課金で現役エンジニアなどに直接相談できるマッチングの場で、メンター登録は4,000人規模まで成長した。設計の核は、ココナラやタイムチケットに代表される単発スポット相談ではなく「質問し放題の継続的な関係」を商品にした点にある。入江氏自身がプログラミングを学んだとき、そばで教えてくれる恩師の存在に助けられた——MENTAはその原体験の商品化だ。本人は「自分の原体験に結びついているほどリアルにユーザーを想像できるため、的を外さない」と語っている。

プラットフォームの収益は流通額に対する手数料で、2020年1月時点の公開数字(流通900万円超・売上140万円)から逆算すると、取り分はおよそ15%前後になる。料率そのものは公表されていないので、これは編集部の逆算値だ。

30個目に至るまでの12年

入江氏は1982年生まれ、長崎・五島列島の出身。2008年に最初のサービスを作り、2011年にフリーランスとして独立した。独立初期には10個のアプリをリリースしてすべて不発に終わっている。ただし「アプリを見た人から受託開発の問い合わせが入った」ことで、失敗作がそのまま営業資産として機能したという。

2018年4月、受託の蓄えを「最悪1年間収入がなくても持つ」と見積もったうえで受託開発を止め、サービスに専念。MENTAは通算30個目のプロダクトだった。オープン準備も周到で、Twitterでテストユーザーを50名募集したところ約200名が応募し、オープン前からメンター200名を確保している。マッチングサービスの生命線である供給側の在庫を先に積んだことが、初日8,000アクセスを流通9万円という実売につなげた。

汎用から特化へ — PMFの実際の手触り

オープン当初のMENTAはジャンルを限定しないメンターサービスだったが、初月流通70万円のあと2ヶ月目も70万円と早くも足踏みする。転機は2019年1月のプログラミング特化だ。ただしこれは机上の戦略転換ではない。実際には、登録メンターの大多数がすでにプログラミング系で占められ、Twitter上では「Progateで基礎→MENTAで実践」という学習パターンがユーザーの側から語られ始め、「スクールの30分の1のコスト」という評判が立っていた。入江氏がやったのは、その事実を追認してトップページをプログラミング初心者向けに書き換えることだった。この後「自然な流れで流通額が増えていった」、ここがPMFだった、と本人は振り返る。編集部の読みも本人の総括と一致するが、ここで評価すべき技術は特化の着想ではなく判断の順序で、市場に先に答えを言わせてから、月70万円の流通がある汎用を捨てた点だ。

もう一つの成長装置が2019年5月の「投稿」機能だ。メンターが記事を公開してスキルを可視化し、学ぶ側も「メンター募集」を投稿できる。ユーザーが生むコンテンツが検索流入を連れてくるCGM構造で、広告費をかけない集客が回り始めた。

空振りに終わった施策

右肩上がりの曲線の裏で、入江氏は不発だった施策も具体的に開示している。「教えた生徒数が多いメンターに賞金10万円」という企画は、参加条件が曖昧で行動につながらず不発。停滞期の焦りから開いたオンライン飲み会は気まずい空気のまま終わり、Polcaを使った奨学金企画は支援者1人にとどまった。ここから得た教訓は二つある。「ツイートするだけでクーポン」のようにアクションが一義に決まる単純な施策しか動かないこと。そして、焦って新規獲得に走るより既存ユーザーの深掘りが先だったという反省である。

一人の限界、チーム化、そして売却

2019年後半、開発速度の限界を感じた入江氏は業務委託でチームを組む。メンバーのほぼ全員がMENTAのメンターという調達方法で、開発・デザイン・顧客対応・サーバー管理を委ね、自身は戦略と施策立案に回った。この時点で打ちたい施策は30個が実装待ちだったという。

2020年10月、株式譲渡によりランサーズグループへ参加した(譲渡額非公開)。決め手として語られるのは「MENTAで学んだ人がランサーズで働く、という流れが自然だった」こと。個人開発の域を超えたリソース不足を、スキルシェア市場で送客力を持つ相手と組んで解く判断である。グループ化後は業務委託中心から社員10人の体制へ移り、インフラはさくらのクラウド1台からAWS(ECS/Fargate)へ移行、リリースはCircleCIで自動化された。登録者は3万人に到達。入江氏自身は開発の手を離れて企画と判断に専念する役割になり、同年12月には自身のクラウド見積・請求サービス「CLOUD PAPER」も売却している。30個のプロダクトのうち2個をM&Aに至らせた計算だ。

数字の裏を読む

29個の不発があって30個目が当たった。ヒット率3%は正常値。 入江氏は12年間で30個のサービスを作り、事業として大きく育ったのはMENTAだった。この打率は「70個作って当たりは4個」と公言するPieter Levels氏(約5%)とほぼ一致する。本人も「挑戦回数の多さが鍵。ピカソは1万3,500点、北斎は3万4,000点を残した」と量の意義を語る。個人開発の成功は狙撃ではなく試行回数のゲームであり、1個の失敗で撤退する人には構造的にヒットが出ない。この事例を貫くのは、29個の不発が、30個目の初日8,000人を連れてきたという一文だ。外れを公開し続けた12年の発信が観客を積み、当たりの初速そのものを作っている。

「作る力」より「捨てる決断」がPMFを生んだ。 MENTAの数字が動いたのは機能追加ではなく、対象領域を捨てて絞った瞬間だった。月70万円の流通がある状態で領域を絞るのは怖い判断だが、絞った後に流通は10倍以上になった。しかも特化の根拠は思いつきではなく、メンターの構成比とユーザーが自然に使い始めた語彙という観測データにあった。伸び悩みの原因は機能不足ではなく「誰のためのサービスか」の曖昧さ。これはBannerbearが「ニッチにすべきは課題ではなくターゲット市場」と気づいて伸びた構図と完全に同型である。

譲渡先は「高く買う会社」ではなく「流通を持つ会社」。 ランサーズはスキルシェアの顧客基盤とブランドを持つ。プログラミング学習者は年間約40万人、その挫折率は90%とされる市場で、MENTAの成長ボトルネックが認知獲得にあった以上、資金より送客がほしい局面での株式譲渡は合理的だ。Zennがマネタイズを急がないクラスメソッドを選んだ判断と並べると、譲渡先選びの軸は「自分のサービスの一番の欠乏を埋める相手」だとわかる。

「売っても作り続ける」型の出口が国内では主流。 入江氏はグループ入り後もMENTAの企画・判断に従事し、その後も個人開発やYouTube(登録6,000人超)での発信を続けている。売却は引退ではなく、資金と時間を確保して次の試行回数を買う行為。「稼ぐ→売る→また作る」のループが個人開発FIREの実像だ。

どこまで再現可能か

  • 再現しやすい点: 「オープン前に供給側(メンター200名)を集めておく」「伸び悩んだらユーザーの実態に合わせて領域特化」「施策はアクションが一義に決まる単純なものだけにする」という3つの型は、マッチング系サービス全般に適用できる
  • 限界: 初日8,000アクセスは入江氏の長年の発信による観客(フォロワー)があってこそで、無名の状態で同じ立ち上がりは再現できない。「最悪1年無収入でも持つ」だけの蓄えという前提条件も見落とせない。また譲渡額が非公開のため、2年半の投下時間に対する経済的評価は最後まで不能である

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