源氏リーインカーネイション、Steam初販売は1ヶ月で32本。宣伝費2万円が売上を上回った
宇佐城氏が約3年かけて作ったビジュアルノベル『源氏リーインカーネイション』のSteam初販売は、1ヶ月で32本(返品1本)。Steamの送金基準$100に届かず入金はゼロ。プレスリリース10件、広告25,200インプレッション、キー配布の有効化24本という施策別の実数が全部公開されている。
執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)
発売から1ヶ月の販売本数は32本、返品1本を差し引いて実質31本。Steamは開発者への送金を売上$100から行うため、宇佐城氏の口座には1円も入っていない。当サイトが掲載しているコンテンツ販売28件の月商中央値は27万円だが、この事例はその母集団に入らない。入金そのものが発生していないからだ。
32本という数字だけを見れば、原因は宣伝不足に見える。ところが氏が公開した記録はそう言っていない。プレスリリース、トップページ広告、インフルエンサーへのキー配布、キャラクターPV。個人開発者が単独で打てる手はひと通り打たれていて、しかも金額が出ている施策だけで約2万円かかっている。店頭価格で計算した売上の上限15,500円より、宣伝費のほうが大きい。さらに言えば、この32本は本人の予想を上回った数字でもある。Steam Next Fest直後の氏は「このままではリリースしても一本しか売れない可能性が高い」と書いていた。
3年かけて作り、2ヶ月かけて審査に通した
| 時期 | 出来事 | 数字 |
|---|---|---|
| 2023年頃〜 | 制作開始 | 制作期間 約3年 |
| 2025年6月後半 | Steamストアページの審査を申請 | 落ち続ける |
| 2025年8月中旬 | ストアページ公開 | 申請から約2ヶ月 |
| 2025年8月末 | 体験版公開 | |
| 2026年2月 | Steam Next Fest参加 | 体験版プレイ6人・ウィッシュリスト追加1人 |
| 2026年3月9日 | 発売前のウィッシュリスト | 約180 |
| 2026年3月24日 | 発売 | 500円(3月31日まで20%オフの400円) |
| 2026年4月30日 | 発売1ヶ月の報告 | 32本(返品1本)・レビュー1件 |
| 2026年6月27日 | サマーセール | 30%オフの350円。「まだ作者にお金が一銭も入ってない」 |
作品は源頼朝・源義仲・源義経の生まれ変わりだと知った新聞部の女子高生3人が、学校の七不思議を使って殺し合う伝奇ビジュアルノベル。全7エンド、クリアまで約6時間。日本語と英語に対応し、開発・販売元はどちらもMOON USAGI名義の本人だ。
審査の2ヶ月は本人が別の記事に全部書いている。センシティブなコンテンツを含む作品はビルドの審査が必須になること、「レビューの準備完了」ボタンを押さなければ審査が始まらないこと、カプセル画像の英題が「Gengi」、ストアページが「Genji」になっていた表記ゆれ。相談相手がAIしかいなかったため、押すべきボタンではなくビルドの中身を疑う方向へ2回誘導されている。率直に言えば、この2ヶ月は作品の出来とは何の関係もない事務の遅延で、個人開発の総コストとして最も見落とされやすい部分だ。
32本は、本人の予想の32倍だった
Next Fest期間中に体験版を遊んだのは6人、そのうちウィッシュリストに入れたのは1人。氏はここから「一本しか売れないかもしれない」と結論し、あわせて「ウィッシュリストの内実際に売れる数は100分の1なんて言われる」という業界の言い伝えを引いている。
実際の数字を並べると、この言い伝えは外れている。3月9日時点のウィッシュリスト約180に対して、発売1ヶ月の販売は32本。単純に割れば約18%で、100分の1の18倍にあたる。予想本数との比較では32倍だ。
予想の32倍売れても、Steamの$100には届かない。
ここが小規模タイトルの構造で、伸び率がどれだけ良くても母数が3桁なら絶対額は動かない。31本に店頭価格500円を掛けても15,500円で、しかも最初の8日間は20%オフの400円だったから実際の店頭売上はこれより低い。そこからプラットフォームの取り分を引いた開発者の取り分が、本人の報告どおり$100に届かなかった。パーセンテージで改善を語れる規模と、金額で生活を語れる規模のあいだには、埋めようのない段差がある。
効かなかった施策を、金額と本数で並べる
宇佐城氏は施策ごとの結果を数字で出している。これが記録として一番価値のある部分だ。
| 施策 | 投入 | 結果 |
|---|---|---|
| プレスリリース | 約10件送付 | 掲載2件(GAMER・ゲームパビリオンjp) |
| ゲムぼく。トップページ広告 | 約3週間 | 25,200インプレッション |
| Keymailer | 約2万円。インフルエンサー250・メディア150にキー配布 | 有効化24本 |
| Steamキュレーター | 1件に依頼 | 「おすすめ」掲載 |
| キャラクターPV | YouTubeに3本 | 「売上には貢献しませんでした」 |
キー配布の落差が一番大きい。400本分の配布枠を買い、類似作の実況歴がある相手を選んで送り、有効化されたのは24本。さらにそこから実況に至った数人も「大抵序盤を少しだけやって、それも楽しんでいる風ではない」。氏の総括は「ハッキリ言って、プロモーションとしては完全に失敗しました」だ。
編集部の読みは少しだけ違う。失敗したのは施策の実行ではなく、施策を当てる先の設計のほうだ。プレスリリースの掲載率2割もインプレッション25,200も、無名の個人が単独で取った数字としては低くない。効かなかったのは、それらが全部「作品を知らない人に知らせる」方向にしか働いておらず、知った人を買う気にさせる材料がどこにも積まれていなかったからだ。ウィッシュリスト180に対して体験版プレイ6人という数字は、発売前からその欠落を示していた。
唯一残ったのは、売上ではなく英訳だった
Keymailerで配ったキーから、予定外の成果がひとつ出ている。最後までプレイした実況者の1人が、英語が不自然だと指摘したうえで校正を無償で手伝うと申し出てきた。英訳はもともと機械翻訳で、氏はいまその修正を受けている。本人は「Keymailerは宣伝としては失敗だったんですが、(中略)プロモーション自体はやって良かったなと思いました」と書く。
ここからは推測だが、この1件が生まれたのは配布数が多かったからではなく、作品が最後まで遊べる出来だったからだ。24本の有効化のうち完走した相手にしか、この申し出はできない。唯一ついたレビュー1件も、Xのフォロワーによる「非常に高評価」だった。売れていないことと、面白くないことは、この事例では一致していない。
公開されていない数字
売上の実額、ウィッシュリストのその後、国別の内訳、ゲムぼく。広告の出稿費は公開されていない。前作『Zarie: The Story of Sin』は無料配布でレビュー45件・好評という実績があり、氏はそれを「イケる」と判断した根拠に挙げているが、無料作品のレビュー数と有料作品の販売数のあいだに関係があるかは、この1件だけでは分からない。2026年9月時点のSteamストア上のレビューは3件で、スコアが付く水準に達していない。
どこまで持ち帰れるか
同じ「数百円の買い切り個人ゲーム」でも実数は5桁違う。470円の8番出口は1年余りで140万本、790円のめっちゃカメレオンは約2ヶ月で2,000万本、そして本作は500円で32本。プラットフォームの最低支払額に届かない話も本作だけではなく、ゲーム13本で累計700円・初振込8,000円まで4年かかった事例を掲載している。
- プレスリリースと広告が販売に届くのは、受け手がその作品を既に少しでも知っているときだけで、初出の告知として使うと掲載2件・25,200インプレッションでも本数は動かない
- インフルエンサーへのキー配布が機能するのは、配布数ではなく完走してもらえる長さと出来が先にあるときだけ(本作で残ったのは売上ではなく英訳の申し出だった)
- ウィッシュリスト数から販売本数を見積もる計算が成り立つのは母数が4桁以上のときで、3桁では転換率が18%でも絶対額は$100に届かない
限界も書いておく。この記録は発売1ヶ月と、その約2ヶ月後のセール時点までしか追えていない。ビジュアルノベルという相対的に実況向きでないジャンル、日本史を題材にした海外訴求の難しさ、機械翻訳のままリリースした英語版という条件が重なっており、施策の効き目だけを切り出して他ジャンルに当てはめることはできない。そして氏はまだ畳んでいない。英訳の修正が終わったあとのセールで数字がどう動くかは、この記事の時点では出ていない。
出典
- 本人公開宇佐城氏のnote「個人開発者がsteamで初めてゲームを売った結果 ~ 一カ月の売れ行きとプロモーションの効果など」(2026年4月30日)。販売32本・返品1本、$100の送金基準に未達、プレスリリース10件中2件掲載、ゲムぼく。広告3週間で25,200インプレッション、Keymailer約2万円で有効化24本、キャラクターPV3本の結果
- 本人公開同氏のnote「SteamNextフェスの結果ゲームが一本しか売れないかもしれないという話」(2026年3月9日)。体験版プレイ6人・ウィッシュリスト追加1人、ウィッシュリスト約180、発売日3月24日
- 本人公開同氏のnote「源氏リーインカーネイション -白旗高校七不思議-配信開始」(2026年3月24日)。制作期間約3年、通常500円・3月31日まで20%オフの400円、全7エンド・約6時間
- 本人公開同氏のnote「steamの審査に落ち続けてストアを公開して体験版を出すのに二カ月かかった話」(2025年8月28日)。6月後半に審査申請、ストア公開8月中旬、体験版8月末。審査落ちの原因
- 本人公開同氏のnote「Steamサマーセール2026おすすめ10選&自作のセール情報」(2026年6月27日)。サマーセールで30%オフの350円、「まだ作者にお金が一銭も入ってないくらいに売れてない」
- 本人公開Steamストアページ。開発・販売元 MOON USAGI、2026年3月24日発売、価格500円、日英対応
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