Oh Dear、2人・従業員ゼロでARR $1M。広告費は「他に使ったほうがましだった」
Mattias Geniar氏とFreek Van der Herten氏が2017年に副業で始めたサイト監視SaaS。従業員ゼロ・調達ゼロの2人のまま2025年9月にARR $1M超。初日は約500人のリストから約20人が課金して月商約$1,500だった。
執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)
月商1,250万円は、月商を公開している掲載260件のうち上位17%。掲載全体の月商中央値は225万円です(データ集計)。
2025年9月時点のOh Dearは月$83K超、ARR $1M超。創業から8年が経って、従業員はゼロ、調達もゼロ、動かしているのは最初からの2人だけだ。frontmatterの円換算では、当サイトで月商を公開しているSaaS 97件の中央値の1.7倍、月商を公開している251件全体でも中央値の5.6倍にあたる。
20年分の読者を持っている開発者にとって、売る相手を見つけることはもう済んだ問題のはずだ。ところがMattias Geniar氏は2026年のインタビューで、この事業で一番難しいのは何かと聞かれて「配布(distribution)。断トツで」と答え、続けて「ARR $1Mに来てもなお、配布がうちの最大の課題だ」と言っている。同じ取材で挙げた最大の後悔は、有料広告に注ぎ込んだ金額の全部だった。
本業を辞めないまま、500人のリストに売った
| 時期 | 出来事 | 数字 |
|---|---|---|
| 2017年頃 | 2人とも本業を持ったまま、夜と週末に開発を開始 | どちらも退職していない |
| 2018年 | 公開。事前にX(当時のTwitter)でスクリーンショットやコードを出して集めた名簿へ告知 | 名簿約500人、うち約10%が課金。初日ほぼ20人・月商約$1,500 |
| 2019年 | ステータスページ機能を追加。status.laravel.com等が採用 | 「2019年にMRRを倍にした」(共同創業者ブログ) |
| 2025年9月 | Indie Hackersが取材 | 月$83K超・ARR $1M・2人 |
| 2026年4月 | SaaSRatが取材 | ARR $1M超、従業員0・調達$0、1日100万件超の監視ジョブ |
Geniar氏はマネージドホスティングのシステム管理者、Van der Herten氏はWeb制作会社のパートナーだった。顧客のSSL証明書が切れたことを監視ツールではなく客からの苦情で知る、デプロイで内部リンクが200本壊れても数週間誰も気づかない。この2つが出発点で、当時の監視ツールは「ホームページにpingを打って生きていると教えてくれるだけ。ウェブサイトに起こりうることの1割くらいだ」と氏は言う。最初のバージョンに入れた差別化は、検索エンジンのようにサイト内の全リンクを辿るクローラーだった。
成長の形を本人は「遅い。何年も、とても遅かった。それから上向いた」と表現する。数字で裏が取れるのは2019年のMRR倍増までで、そこから2025年の$83Kまでの中間点は公開されていない。
無料プランを置かず、全機能を全プランに入れた
料金は監視サイト数だけで決まる10段階で、2サイトのSoloが月$17、200サイトのScaleが月$439、それ以上は個別見積もり。上位プランでしか使えない機能は無く、ユーザー数も無制限。無料プランは無く、10日間のトライアルだけが入口になる。年払いを選ぶと2ヶ月分が無料になる。
理由として氏が挙げるのは原価だ。「無料ユーザーはコストがかかるうえ、めったに課金しない。監視ひとつ動かすたびにサーバー資源と帯域とストレージを使う。試してみて払う気にならない人は、6ヶ月目にも払わない」。そして機能で段を切らないことが転換率を助けているとも言う。「どのプランを選ぶべきかを考えずに済むから」。
この設計はこう読むのが正しい。無料プランを置かない判断は思想ではなく原価計算だ。監視SaaSの変動費はユーザー数ではなく実行したチェックの回数で決まるので、無料ユーザーは登録した瞬間から線形に原価を積む。1日100万件超のジョブを回す側から見れば、無料枠は「機能制限で我慢してもらう場所」ではなく「請求書が立たないまま同じサーバーを使われる場所」になる。同じ2人組でも、ベルギーのTallyは機能の99%を無料で配って4年でMRR $150Kに届いているが、あちらはフォーム作成で1回の送信あたりの原価が桁違いに軽い。
効かなかった3つのチャネルと、効いたことにされているもの
有料チャネルの結果は、金額こそ出ていないが評価がはっきりしている。
| チャネル | 本人の評価 |
|---|---|
| Google Ads | 「大枚をはたいた。意味のある違いは何も生まなかった」。監視ツール市場は飽和しており、クリックが来ても転換が悪い(広告を踏む人はまだ調査段階で購入段階ではない) |
| 有料のSEO記事 | 「大半がゴミだった」。開発者やDevOpsの人間は外注されたマーケティング文をすぐ嗅ぎ分ける |
| Reddit Ads | 「この中では一番まし」。多少は効いたが、自然発生の口コミには遠く及ばない |
後悔を聞かれた氏の答えは「有料広告に使った金だ。Google Adsと外注コンテンツに入れた1ドル残らず、他の何に使ってもそのほうがましだった。カンファレンスの協賛でも、デザインの改善でも、1週間休むことにでも」。
では何が効いたのか。本人の答えは「公開しながら作ること(building in public)。以上」で、SaaSRatの記事もその線でまとめている。ここは編集部の読みが違う。初日の約20人と月商$1,500を連れてきたのは、Oh Dearの8年間の公開ではない。その前にあった蓄積のほうだ。氏自身が同じ回答の中で「Freekも私も、Oh Dearが存在する前から20年ほどオンラインでの存在があった。ブログを書き、ツイートし、カンファレンスで話し、オープンソースに貢献してきた」と言っている。
効いたのは8年の公開ではなく、その前の20年の残高だ。
この区別が実用上いちばん重要になる。公開しながら作ることは誰でも今日から始められるが、それが初日に20件の課金に化けるかどうかは、始める前に積んであった信用の量で決まる。氏が「オーディエンスを持たない創業者はどうすればいいか」と聞かれて出した答えが「今から作り始めろ」になるのは、そういうことだ。ここからは推測だが、有料広告が効かなかった本当の理由も市場の飽和ではない。20年かけて作った「知っている人からの推薦」という入口と比べたとき、広告経由の訪問者は同じ製品に対して別の判断基準で来ているからだ。
ARR $1Mに達しても、配布がいちばん難しい
2人の分担は、Geniar氏がサポート・管理業務・監視まわりの開発・検証、Van der Herten氏がPHPの中核開発・リファクタリング・クローラー。採用は8年間考え続けて踏み切っていない。「人を入れると全部が変わる。給与、管理、コミュニケーションの負荷、法的な義務」。
技術構成は意図的に退屈にしてある。Laravel、PHP、MySQL、Redis、分析用のClickHouse。ディスパッチはベアメタル、世界各地からの監視はDigitalOcean・Vultr・AWSに散らした約50台のVM。「製品そのものが信頼性と稼働の話なんだから、不安定さを持ち込む最先端のスタックこそ最後に欲しいものだ」。
最も重い一言は最速質問のところに出てくる。最良の経営判断は何かと聞かれて、氏は「ソロでやらなかったこと」と答えた。「共同創業者がいたから、遅い年月を通じて互いに責任を持ち続けられた。私が燃え尽きたときはFreekが前に進め、彼が燃え尽きたときは私が進めた。うちの状況でソロの創業者だったら、3年目で辞めていた」。ARR $1Mの事業の勝因として本人が最初に挙げたのが、機能でも価格でもチャネルでもなく撤退しなかったことだという点は、記録しておく価値がある。
出ていない数字と、出典の立ち位置
顧客数、解約率、利益、広告に使った実額、2019年から2025年までの推移は公開されていない。ARR $1Mは本人の申告で、第三者の監査はない。監視ジョブ1日100万件超という規模の数字は出るが、それが何社何サイトに対応するかは出ていない。
出典の性格も書いておく。もっとも詳しいSaaSRatの記事はソフトウェア比較サイトが自社ブログで出したもので、本文の途中に自社への誘導が挟まっている。Indie Hackersの記事は本文が有料のため、本稿では無料で読める導入部の数字しか使っていない。2019年のMRR倍増だけが共同創業者本人のブログという一次情報で、残りの経路は二次資料に依存している。
どこまで持ち帰れるか
「少人数で開発者向けSaaSを回す」型は、掲載事例のあいだでも幅がある。Instatusはステータスページ一本でMRR $48K、Oh Dearが月$83K、Plausibleは広告費ゼロ・4人でARR $1M。3件とも有料広告をほぼ使わず、開発者コミュニティの中で名前が回っている点が共通する。
- 無料プランを外す判断が正しく働くのは、変動費が登録者数ではなく処理回数に比例していて、かつ試用中に価値が伝わりきる製品のときだけ
- 「公開しながら作る」が初日の売上に変わるのは、公開を始める前にその分野で数年以上の発信の蓄積があるときだけで、公開そのものは残高を引き出す動作にあたる
- 2人・従業員ゼロの構成が8年もつのは、担当領域が重ならずに割れていて、片方が止まった期間をもう片方が引き受けられるときだけ
限界も書いておく。Oh Dearが立った位置には再現しにくい条件が揃っている。Laravel/PHPという明確なコミュニティがあり、共同創業者はそのエコシステムで広く知られたオープンソース開発者で、監視という領域は一度入れると外しにくい。開始が2017年で、監視ツールの価格競争がいまほど激しくなかった時期にあたる点も無視できない。そして解約率が出ていない以上、$83Kという月商のうちどれだけが毎月の新規獲得で埋めているのかは、外からは判定できない。
出典
- 報道SaaSRatによるMattias Geniar氏のインタビュー「Oh Dear Founder Interview: $1M ARR, No Free Tier, No VC Money」(2026年4月8日公開・4月30日更新)。ARR $1M超(月$83K超)、2017年に副業で開発開始、従業員ゼロ・調達$0、メーリングリスト約500人の約10%が初日に課金してほぼ20人・月商約$1,500、Google Ads・有料SEO記事・Reddit Adsの結果、1日100万件超の監視ジョブ
- 報道Indie Hackers「Growing a web monitoring tool to $1M ARR by building in public」(2025年9月13日、James Fleischmann氏による取材)。無料で読める導入部に、月$83K超、8年前の創業、2人体制、クローラーで全ページを巡回する設計が記されている。本稿は無料部分のみを使用
- 本人公開共同創業者Freek Van der Herten氏のブログ「A recap of 2019」(2019年12月8日)。「2019年にMRRを倍にした」、ステータスページ機能の追加、status.laravel.com等での採用
- 本人公開Oh Dear公式の料金ページ。監視サイト数で決まる10段階(Solo 2サイト$17〜Scale 200サイト$439、200超は要相談)、全プラン同一機能、無料プランなし・10日間トライアル、年払いで2ヶ月分無料
- 本人公開Oh Dear公式のAboutページ。Freek Van der Herten氏(開発)とMattias Geniar氏(インフラ・セキュリティ15年)の2人で2018年に開始。稼働・SSL・DNS・ドメイン期限・cron・リンク切れ・Lighthouse等の監視項目
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