Instatus、ステータスページ一本でMRR $48K。有料顧客ゼロの「Sup」を捨てて大企業向けに値上げ
初代版「Sup」は有料顧客ゼロ。創業者Ali Salah氏は名前もブランドも捨て、大企業向けに位置づけ直して値上げした。2022年2月にMRR $5K、公開中のメトリクスページによれば直近でMRR $48,017・有料顧客1,248。指標を全公開しながら伸びる、ステータスページ専業のソロSaaSだ。
執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)
「障害が起きたとき、顧客にどう知らせるか」。この一点だけを解決するステータスページを売るSaaSが、MRR $48,017・有料顧客1,248社まで伸びている。Instatusは自社の経営指標を公開ページで開示しており、この数字は誰でも確認できる(2026年8月閲覧時点、5月29日更新表示。ARRは$576,208、総ユーザーは62,261)。
このプロダクトの前身を知ると、数字の意味が変わる。創業者のAli Salah氏が最初に作ったバージョンは「Sup」という名前で、有料顧客が一人も付かなかった。現在のInstatusは、同じ課題領域で名前・ブランド・価格・想定顧客をすべて置き直した「2周目」である。プロダクトを作り直すのではなく、売り方を作り直したら立ち上がった——この順序が、本事例の中心にある。
数字の整理
| 時点 | 数値・出来事 |
|---|---|
| 初代「Sup」期 | スタートアップ向けの気さくなブランドで展開。有料顧客ゼロ、獲得したユーザーも解約 |
| 改名・転換 | 大企業向けに位置づけ直し、値上げし、「Instatus」として再出発。TwitterとProduct Huntでローンチ |
| 2022年2月 | MRR $5,000到達をIndie Hackersで報告。ダウン検知サービス「Instatus Now」等の拡張を計画 |
| インタビュー時点 | MRR約$15K。初のパートタイムエンジニアを採用 |
| 直近(公開ページ) | MRR $48,017・ARR $576,208・有料顧客1,248・総ユーザー62,261・非営利アカウント93 |
失敗の原因はプロダクトではなく「客の選び方」だった
Salah氏の振り返りで一貫しているのは、Supの失敗を機能のせいにしていないことだ。Supはスタートアップ向けに作られたが、創業初期の会社はそもそもステータスページを必要としていなかった。顧客が少なければ障害を「知らせる相手」がおらず、ページを整える優先度は限りなく低い。課題が実在しない層に、感じのいいブランドで売っていたわけだ。
Instatusへの転換は、この診断への処方箋になっている。ステータスページを本当に必要とするのは、顧客数が多く、障害時の問い合わせがコストになり、SLAへの説明責任を負う規模の企業だ。だから想定顧客を大企業側へずらし、その層に合う信頼感のあるブランドへ改め、価格も引き上げた。安くして裾野を広げるのではなく、高くして「課題が切実な層」だけに絞る。方向としては、Deep Researchの価格転換の事例と同じく、値付けを機能改善より先に動かした型である。
B2Bの道具は、買い手の社内で「これを使う理由」を説明される。そのとき、気さくなブランドは説明の邪魔になり、堅い名前と十分な価格はむしろ通りやすさになる。Supの失敗が示すのは、同じ機能でもブランドと価格が「誰の稟議を通れるか」を決めるという、地味だが決定的な変数だ。
集客と「公開する」という戦略
再出発のローンチはTwitterとProduct Huntで行われ、Salah氏は「Twitterのフレンドたちが本当に広めてくれた」と語っている。その後の成長施策として本人が挙げるのは、機能追加と上位プランの新設、Embarque.ioと組んだブログコンテンツ、そして/nowページやGitHubリポジトリのような小さなサイドプロジェクト群だ。どれも派手さはないが、開発者・技術系の意思決定者が通る場所に露出を置く施策で一貫している。
経営指標の全公開も、この文脈では露出装置として働く。MRRから有料顧客数、非営利アカウント数までを公開する「オープンページ」は、それ自体が話題になり、リンクされ、本記事のような検証可能な記録を残す。指標公開で先行したPlausibleの$1M ARRと同様、開発者向け商材では「隠さないこと」が信頼とマーケティングを兼ねる。
成長のペースも記録しておく価値がある。2022年2月の$5Kから直近の$48Kまで、およそ4年で10倍。月次で均せば派手な跳ねのない、B2Bサブスクらしい複利の曲線だ。MRR $5K時点の計画(ダウン検知のInstatus Now、監視、インシデント管理)を見ると、単機能から周辺機能への拡張を段階的に進めてきたことも分かる。
公開ページの数字は、収益の構造も透かして見せる。総ユーザー62,261に対して有料顧客は1,248。比率にして約2%で、大半は無料利用だ。それでもMRR $48Kが成り立つのは、有料側の単価が平均で月$38前後(MRR÷有料顧客数)と、無料ツールの相場より明確に高いからで、「無料で裾野を広げ、切実な層にだけ高く売る」という転換後の設計がそのまま数字に出ている。非営利団体向けの無償アカウントが93あることまで開示されているのは、この公開方針の徹底ぶりを示す細部だ。
リスクと弱点
この事業の構造的な位置は「大手の一機能」である。ステータスページはAtlassian(Statuspage)のような大手が同種製品を持ち、監視SaaSが機能の一部として同梱することもある領域だ。単機能専業の防御は、その一点での完成度と価格弾力に依存する。また、Salah氏はソロ創業で、初のパートタイムエンジニアを雇ったのはMRRが伸びてからだ。監視や障害対応に関わるインフラ的な商材を実質1〜2人で支える体制は、コスト構造としては強みだが、可用性への期待という点では常に張り詰めた綱でもある。同じ緊張を10年単位で運用してきたHealthchecks.ioの一人SaaSが、この型の先行例だ。
なお、公開メトリクスは本人運営のページであり、第三者監査を経た数字ではない。検証可能性は高いが、その性質は「継続的な自己申告」である点も付記しておく。
改名と値上げは、大企業側にあった需要を見つけただけ
Sup→Instatusの転換が効いたのは、ステータスページという課題が大企業側に実在したからで、値上げと改名はその需要を「発見」しただけだ。障害時の問い合わせがコストになり、SLAへの説明責任を負う会社は、Supを作った時点でもすでに存在していた。Supは、その会社たちに届く名前と価格を持っていなかった。需要のない領域で同じ操作をしても結果は変わらない。
指標公開の効き方も、時期の条件付きで読む必要がある。MRRから非営利アカウント93件までを出すオープンページは、模倣コストの低い施策になったため、いまや差別化としては弱く、当時ほどの話題性は期待できない。それでも編集部は、有料顧客1,248・平均月$38前後という公開値を、転換後の設計が数字として実際に回っていることの記録として評価する。Supの有料顧客ゼロから4年で10倍という曲線は、作り直したのが製品ではなく売り先だったことを、外から確かめられる形で残している。
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出典
- 本人公開Instatus公式のオープンメトリクスページ(MRR $48,017・有料顧客1,248。2026年8月閲覧時点、5月29日更新表示)
- 本人公開創業者Ali Salah氏のIndie Hackersマイルストーン投稿「Just hit $5K MRR」(2022年2月14日、同年の計画も記載)
- 本人公開創業者Ali Salah氏インタビュー(BoringCashCow。Sup時代の失敗、改名・値上げの経緯、当時MRR約$15Kと成長施策)