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Moonlight、エンジニア1万人・サブスク月商150万円。コロナ禍に「調達でなく売却」を選ぶまで

登録エンジニア1万人・企業数千社のリモート開発者マーケットプレイスMoonlightは、サブスク月商1万ドルの段階でPullRequestへ売却された。転機は2020年3月のコロナ禍で、追加調達か出口かの二択から後者を選んだ。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

Moonlight、エンジニア1万人・サブスク月商150万円。コロナ禍に「調達でなく売却」を選ぶまで

月商150万円は、月商を公開している掲載227件のうち下から49%。掲載全体の月商中央値は157万円です(データ集計)。

(この記事のドル金額は、1ドル150円で換算した概算を併記している)

自分たちが世界を移動しながら働きたい。その動機だけで作られたマーケットプレイスが、3年後に買収されるまでの話である。Emma LawlerとPhilip Thomasが2017年に始めたMoonlightは、リモートで働きたいソフトウェアエンジニアと、開発力を必要とする企業を結ぶプラットフォームだった。2020年時点で登録エンジニア約1万人、利用企業は数千社、サブスクリプション収益は月$10,000、プラットフォームを通過して開発者へ渡る金額は月$55,000。そこでコロナ禍が来て、二人は追加調達ではなく売却を選んだ。

3年間の推移

時期出来事
2017年サンフランシスコ在住のカップル2人がMoonlightを創業
創業〜2019年約3ヶ月ごとに移住しながら運営。メキシコシティ、ブエノスアイレス、バルセロナ
2019年米国へ帰国し、プレシードラウンドを調達(金額非公開)
2020年登録エンジニア約1万人、利用企業数千社、チーム5名+契約社員3名
2020年サブスク収益 月$10,000/パススルー 月$55,000
2020年3月コロナ禍。投資家と相談し、追加調達ではなく売却の方針へ
2020年投資家の紹介でPullRequestへ売却(現金+株式、金額非公開)

自分の問題を解くために作られた市場

創業の動機は、市場調査ではなく自分たちの生活設計だった。「多くの人がオースティンのような、より“暮らし寄り”の場所へ移っていた。僕たちもそうしたかったが、質の高い仕事へのアクセスは手放したくなかった」とLawlerは説明する。移動しながら良い仕事を取り続ける仕組みが要る。それを他人にも売れる形にしたのがMoonlightだった。

供給側の集め方が特徴的だ。二人はシリコンバレー以外の都市を狙った。「ソフトウェア開発やスタートアップのコミュニティは既にあるのに、テックの街としてはまだ知られていない都市を選んだ」。その地には既に優秀なエンジニアがいるが、彼らには質の高いリモート案件へアクセスする経路がない。需要はサンフランシスコに、供給は他都市に偏っている、という歪みに賭けた形である。

そして手段が極めて泥臭い。二人は移り住んだ各都市で毎週テックワーカー向けのミートアップを開き、ニュースレターを発行した。「リモートワークの大きな問題のひとつはコミュニティの喪失だった。お金を捨てているように見えるけれど、スケールしないことをやると、人は本当にそれを覚えている」。広告で登録者を買うのではなく、現地に住んで顔を出す。3ヶ月ごとの移住は、遊びであると同時に営業活動だった。

収益モデルの転換と、その代償

当初のMoonlightは企業側から支払額の10〜15%を手数料として取っていた。これをのちに定額サブスクリプションへ切り替え、時間単価から抜くのをやめている。買収時点の構造は、自社に残るのが月$10,000、開発者へ通過するのが月$55,000だ。

この転換は、マーケットプレイスとしての性格を変えている。手数料方式なら流通額の増加がそのまま収益に効くが、定額制では企業数が増えない限り収益は伸びない。一方で企業側は使うほど得になるので、大口の利用が離脱しにくくなる。仮に流通額$55,000に旧来の10〜15%を掛ければ月$5,500〜8,250、つまり切り替え後のほうが取り分は大きい計算だが、これは「よく使う企業が定額を払っている」状態に依存した数字でもある。伸びしろを手数料の青天井から企業数の積み上げへ移した判断だと読める。

決定打は2020年3月だった

軌道が変わった瞬間は特定できる。コロナ禍の到来である。「資金調達をするには奇妙な時期だった」とLawlerは振り返る。彼らの選択肢は二つしかなかった。次のラウンドを調達するか、出口を探すか。投資家と話し合った結果、後者を選ぶ。判断の基準は自分たちのリターンだけではなかった。不確実な時期にプラットフォーム上のメンバーが仕事へのアクセスを失わないようにすること、それが優先事項だったと本人が語っている。

買い手はコードレビューサービスのPullRequestで、投資家の紹介で話が始まった。PullRequestの創業者Lyal Averyは、Moonlightの1万人の開発者ネットワークを、コードの誤りを修正する人的リソースとして、また機械学習の学習に使える資産として評価した。マーケットプレイス単体の収益ではなく、買い手の本業に流し込める供給網としての値付けである。対価は現金と株式の組み合わせで、金額は開示されていない。

交渉が滑らかに進んだ理由

Lawler自身が挙げる要因は身も蓋もない。「実際の収益があり、何が起きているのかが正確に見え、データがすべて整理されていた」。サブスク$10,000とパススルー$55,000を分けて説明できる、つまり自社の収益と流通額を混同していない財務の作り方が、そのまま説明コストの低さになった。少人数のマーケットプレイスが数字を盛る手段はいくらでもあるが、彼らはそれをしていなかった。

もう二つ、条件がある。一つはLawlerがFitStar(のちにFitBitが買収)の初期社員として売却プロセスを内側から見ていたこと。買収がどう進むかを知っている売り手は、相手のペースに飲まれにくい。もう一つは投資家の存在で、彼らは「調達か出口か」を相談する相手であると同時に、買い手を連れてくる経路そのものだった。ブートストラップの事業であれば、この二役はどちらも自分で埋めなければならない。

手放しでは語れない部分

買収後、二人はしばらく従業員として残った。Lawlerはその期間を率直に評価していない。「創業者から他社の従業員になるのは本当に奇妙だ。3年間この事業を作ってきて、完全な自律性を持っていたのに、上司がいて他人のマイルストーンを気にする状態に戻る」。恋人であり共同創業者でもあったことについても「もう一度やるかというと、たぶんやらない。一度に抱えることが多すぎた」と述べている(なお二人の関係自体は続いているという)。

事業条件の面でも留保が要る。売却額は非公開で、対価に株式が含まれる以上、実際の手取りは買い手のその後に左右される。売却の引き金は成長ではなく資金環境の悪化であり、月$10,000のサブスク収益は3年運営したマーケットプレイスとしては小さい。これは「高値で勝ち逃げした事例」ではなく、「外部環境が閉じたときに、収益とデータの整備が選択肢を残した事例」として読むほうが実態に近い。

移植できるもの、できないもの

再現しやすいのは、まず数字の作り方だ。自社収益と流通額を分けて記録し、いつ誰に見せても説明できる状態にしておくこと。これは売却を予定していなくても、資金調達の可否が外部要因で急に変わる局面で効く。次に、供給側の集め方。需要が集中している場所と供給が眠っている場所のズレを見つけ、そこへ物理的に入り込む。スケールしない手段の価値は、この事例では登録者1万人という形で回収されている。

再現しにくい条件も明確だ。ベイエリアの人脈があったから初回の資金調達にたどり着けたこと(本人も「初めての資金調達は本当に大変だった」と認めている)、買収経験のある投資家が紹介経路として機能したこと、そしてLawlerが過去に売却を経験していたこと。さらに、パンデミックという外部ショックが「今決めろ」という締切として働いた点も、意図して作れるものではない。彼女の言葉は最終的にこう着地している。「事業を前に進める唯一のものは、片足をもう一方の前に出して進み続けることだ。他の誰もやってはくれない」。

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出典

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