海外事例 売却済み

Fomo、MRR $10,000のウィジェットを売り手分割払いで買って最高月$154,000。6年後に7桁ドルでRelay Commerceへ

Ryan Kulp氏は2016年にMRR約$10,000のウィジェットNotifyを買い、Fomoとして39か月連続で伸ばして最高月$154,000に届いた。売却時の月商は$107,200、2022年にRelay Commerceへ7桁ドルで売却。買値も売値も非公開のまま、間の数字だけが残っている。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

Fomo、MRR $10,000のウィジェットを売り手分割払いで買って最高月$154,000。6年後に7桁ドルでRelay Commerceへ

月商1,608万円は、月商を公開している掲載259件のうち上位14%。掲載全体の月商中央値は225万円です(データ集計)。

Fomoの売却時の月商は$107,200、ARRは$100万超。frontmatterの円換算では、当サイトで月商を公開しているSaaS 97件の中央値の2.2倍にあたる。売却額は「7桁ドル」とだけ開示されていて、実額は買い手も売り手も出していない。2016年にこの事業を買ったときの価格も、売り手との約束で非公開のままだ。つまりこの事例は、入口と出口の両方が伏せられている。

それでも書く価値があるのは、間が全部出ているからだ。買ったときのMRRは約$10,000。最高の月は$154,000で、そのうちリカーリングは約$112,000。39か月連続で増収した。

買収で事業を伸ばす話には、買い手側に資金が要るという前提が付いて回る。ところが、Ryan Kulp氏はそれを持っていなかった。サンフランシスコのVCファンドに勤める会社員で、本人の言葉では「2015年から2016年にかけて家賃で金を使い果たしていた」。現金要件を下げたのは交渉術ではなく、売り手の側の事情だった。

数字の並び

時期出来事・数字
2016年3月Kulp氏とJustin Mares氏がNotifyを買収。買収時のMRRは本人の説明で約$10,000
2016年8月9日Fomoとして公開。サンフランシスコのカフェからProduct Huntに投稿し、その日の支出はコーヒー代$50
2016年後半ローンチ月の新規MRRは約$300。無料プランを数か月後に廃止(既存ユーザーは据え置き)
2016〜2017年経費をChase銀行の0% APRカードで約$50,000まで積み、初年度に2倍以上成長して無利息のうちに完済
2017年夏Kulp氏が本業を辞めてFomoに専念
2019年リカーリングの最高月が約$112,000。全体の最高月は$154,000
2020年1月ポッドキャストで「いまは$100,000前後」と説明。39か月連続の増収がここで語られている
2020年9月Kulp氏がCEOを退任。後任はHideko Tachibana氏
2022年6月ネイティブ連携103本。有料プランの顧客は数千社
2022年7月Relay Commerceへ売却。月商$107,200、ARR $100万超、売却額は7桁ドル

現金要件を下げたのは、買い手ではなく売り手だった

きっかけは通販サイトの通知だった。Kulp氏はビーフジャーキーの定期便にログインした際、「5分前に誰かが購入した」という表示を見てHTMLを調べ、Notifyというツールだと突き止めた。VCの人間として出資を持ちかけたところ、創業者は資金調達に関心がなく、売りたいと答えた。同席していたJustin Mares氏が「買えばいいのでは」と言い、30日足らずで所有者が変わった。Mares氏が運営するKettle & FireにNotifyを入れると成約率が40%上がった、とTheyGotAcquiredは伝えている。

取引の構造は本人がポッドキャストで説明している。売り手は2つの条件を出した。プロダクトの将来に期待して持分を一部残したいこと、そして一括より分割で受け取るほうが自分の事情に合うこと。この2つが重なった結果、買い手が用意する現金は二重に減った。毎月の支払額は「当時の売上と同じくらい」に設定された。金持ちの友人を回る必要は消え、Kulp氏はVCの職を続けたまま夜と週末でFomoを動かすことになる。

ここは率直に書いておきたいが、この取引の再現性を支えているのは買い手の能力ではなく、売り手が現金を急いでいなかったという偶然のほうだ。Kulp氏自身、後年のファンド運営で「副業として作られたプロダクトの売り手は現金を必要としていないので、評価額の最大化に関心が向く」と整理している。

連携103本は、機能ではなく配布面だった

買った時点のNotifyはShopify専用で、コードが硬く他のプラットフォームに広げられなかった。そこで作り直す。マーケター出身でコードが書けなかったKulp氏は、夜と週末にオンライン講座を受け、開発会社が寝ている間に小さなバグを直しながら、売上を全額プロダクトに戻した。再構築後は新しい連携を3時間で足せるようになり、2022年6月時点で103本に達している。

ここが分かれ目だ。連携は機能として売られたのではなく、共同マーケティングの口実として使われた。Mailchimpとの連携を作ると、Mailchimp側のパートナーディレクトリのトップにFomoが数か月掲載された。連携先を増やすたびに、相手の配布面を1つ借りられる。Fomoが増やしていたのは機能の数ではなく、自社名が置かれる他社サイトの数である。

運用も細かい。連携先の要望は、ランディングページの検索ボックスに保存された検索語から拾った。1週間にSquarespaceが5回検索されていれば、誰にも頼まれていなくても作る。逆に個別の要望には「先に年額プランへ上げてくれるなら作る」という条件を付けた。開発は5〜6時間、数百ドルの原価で、年額課金が先に入れば他の誰も使わなくても損はしない。

本人が最大の成長要因に挙げるのは連携ではなく、ソーシャルプルーフそのものだ。Shopify・Capterra・G2・BigCommerceなどにレビュー窓口を作り、公開スプレッドシートでレビューを台帳化し、300件超のレビューと100本超の事例記事を積んだ。社会的証明を売る会社が社会的証明で伸びるのは筋が通っている。ただし数字の並びを見る限り、$10,000から$100,000へ押し上げたのは連携経由の共同マーケティングのほうだと編集部は読む。

外れた施策のほうを数える

この事例の学びは、当たった施策より外れの数に出ている。

Kulp氏は2016年以降、フルタイムのマーケターを5人採用して5回とも機能しなかったと書いている。最終的に組織をエンジニアだけにし、数か月おきにエンジニアへマーケティング施策そのものを割り当てる運用に切り替えた。マーケターと開発者の間を取り持つ仕事が新しく発生していたことが、採用が続かなかった理由として挙げられている。

無料プランも外れている。ローンチ週にほぼ全員が無料プランへ流れ、初月の新規MRRは約$300だった。数か月後に無料プランは廃止されたが、当時登録した数百人は今も据え置きのままだという。

最初の20か月ほど、2人は自分たちに給与を払っていない。会社のMRRが$15,000、$20,000、$22,000と積み上がっていく間、創業者の手取りはゼロだった。Kulp氏は「MRRを見て創業者が金持ちだと思いがちだが、実際には$0だ」と言っている。

買い手に当てた5つの物差し

売却を考え始めたのは買収から5年の2021年初め。友人のNick Gray氏が社名を伏せた「SaaS Company For Sale」という投稿を出し、反応はあったが腹が決まらず数か月中断した。再開後に起用したのはNeil Soni氏で、ブローカーではなく企業への売り込みのプレイブックを書いた知人にあたる。

Kulp氏が買い手に求めた条件は5つ。マーケティング技術を理解していること、ブランドと知財を評価すること、チームを現状のまま残すこと、Fomoを独立して運営させること、成長志向(=マーケティング予算)を持っていること。12月に一度は成約寸前まで行きながら、相手が条件に合わないとして降りている。最終的にSoni氏の人脈からRelay Commerceが現れ、初回オファーと最終オファーは7〜10日のうちに出た。

後悔として挙げているのは、決めきらないまま1年近く「売る気はある」という態度でいたことだ。半端なオファーに対応する時間を成長に使えばよかった、と。

見えていない数字と、この型の限界

2020年1月の時点で$100,000前後だったMRRは、2022年7月の売却時に月商$107,200。約2年半、ほぼ横ばいで出口に入っている。本人もこの期間の主題は利益率と業務フローの最適化だったと書いており、売却は成長の頂点ではなく、平らな区間の途中で決まった。

利益率の数字は資料によって割れる。本人は売却前後の記事で65%以上と書き、TheyGotAcquiredの取材では約70%と答えている。買収時のMRRも噛み合わない。本人はポッドキャストで約$10,000と語る一方、同メディアは買収から90日で月$30,000に達し「買収時点から50%増」と書いていて、逆算すると起点は$20,000になる。解約率、広告費の総額、7桁ドルの実額は、どの資料にも出ていない。

「作らずに買って伸ばす」型では、$10,000で買って1年後に$20,000で売ったRecordJoy、$20,000でGitHubリポジトリを買ってARR $150万まで伸ばしたDamon Chen氏、マイクロSaaSを4本買って合計MRR $120,000にしたNoosa Labsを掲載している。Fomoはこの並びの中で、買値がいちばん見えない1件になる。

  • 売り手ファイナンスで現金要件が下がるのは、売り手にとってその事業が生活費の出どころではなく、評価額の最大化のほうに関心があるときだけ
  • 連携を増やす行為がマーケティングになるのは、連携先が自社のパートナーディレクトリやニュースレターという配布面を持っていて、そこに載る余地があるときだけ
  • レビューの台帳化が獲得につながるのは、買い手がアプリストアやレビューサイトを経由して比較検討する商材のときだけ

限界も置いておく。Kulp氏はVCファンドの従業員としてこの案件に出会っており、買い手候補を紹介できる人脈と、売り込みのプレイブックを書いた知人が最初から周囲にいた。技術面では、コードが書けない状態から夜と週末で学び直す時間があったことが前提になっている。そして買値が非公開である以上、この取引が投資としてどれだけ良かったのかは、外からは検証できない。倍率の計算に必要な2つの数字が、どちらも伏せられたままだからだ。

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