事例 撤退

開業1ヶ月目は時給400円だった。キッチンカー4ヶ月の売上全公開と、コロナで止まった5ヶ月目

キッチンカー開業4ヶ月の月別実データ。初月は8日出店で売上6.4万円・利益2.8万円(本人いわく時給400円)、4ヶ月目には売上38.4万円・利益33.4万円まで改善。最高日商5万円。しかし5ヶ月目、コロナ禍で出店先が消えた——立ち上がりと脆さの両方が記録された稀有な公開データ。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

開業1ヶ月目は時給400円だった。キッチンカー4ヶ月の売上全公開と、コロナで止まった5ヶ月目

月商38.4万円は、月商を公開している掲載259件のうち下から25%。掲載全体の月商中央値は225万円です(データ集計)。

キッチンカーの開業情報は、フランチャイズ本部や車両業者といった「夢を売る側」が発信源になりがちで、初月から黒字が出る前提の収支計画が出回っている。本記事で扱うのはその対極にある一次情報だ。2019年12月に開業したクレープのキッチンカーが、4ヶ月分の売上・出店料・材料費・利益をすべて公開し、しかも5ヶ月目にコロナ禍で止まるまでの顛末を記録している。立ち上がりの曲線と事業の脆さが、同じ一つのデータに写っている。

初出店 — 目標100食、結果8食

書き手は消防士からの転身で、2019年11月30日に初出店した。「1日で100食を売る」という意気込みで仕込んだが、初日に売れたのは8食・売上4,000円。翌日の出店でも25個・12,500円だった。本人は後に「初出店で張り切る気持ちは分かりますが、冷静に考える必要があるなと思いました」と書いている。

つまずきはもう一つあった。開業前に思い描いていた出店先(ショッピングモールや公園)は「そのほとんどが出店できない場所、もしくは高額な場所」だったという。キッチンカーの参入障壁は調理でも営業許可でもなく、出店枠の確保にあることを、開業初月に思い知らされている。

月次実録 — 経費まで全公開

月出店日数売上出店料材料費利益
12月(開業)8日63,500円19,350円15,875円28,275円
1月17日273,780円38,500円70,000円165,280円
2月17日424,370円34,600円80,250円309,520円
3月16日383,650円28,140円95,491円333,828円
  • 4ヶ月合計: 売上1,145,300円・利益836,903円
  • 最高日商: 50,800円(道の駅もてぎ・約4時間で87個販売)
  • 経費構造: 出店料は売上の15%前後、原価率は25〜30%に設定、車両ローン月54,000円
  • 専業でも出店できるのは月17日が上限(体力と天候の制約)
  • 5ヶ月目(2020年4月): コロナ禍で出店先が消滅し、休止

初月の総括を本人はこう書いている。「利益2.8万円。1日あたり3,500円、時給にすると400円くらい」。

出店料率の推移が語ること

表を縦に読むと、もう一つの曲線が見える。売上に対する出店料の比率は、12月が約30%(19,350円/63,500円)、1月が約14%、2月が約8%、3月が約7%と急降下している。初月は「売れない場所に相対的に高い出店料を払う」状態だったのが、実績を積むにつれて費用対効果の良い出店枠を選べるようになった。利益12倍の主因はメニューの改良ではなく、出店場所の質の改善であることが、経費側の数字から裏付けられる。道の駅のような集客力ある場所の枠は、実績と信頼の蓄積がないと回ってこない。

材料費率も見ておく。12月25.0%→1月25.6%→2月18.9%→3月24.9%と、設定レンジ(25〜30%)の下限近くで最初から安定している。つまり原価管理には初月から改善余地がほとんどなく、利益を動かす変数が場所側に集中していたことが、費目の分解からも確認できる。

売り方の調整も効いた。客足が止まった時期に200円の小さいクレープを出したところ、「200円で小さいクレープを売り始めてから全ての商品が売れるようになりました」という。低価格品が心理的な入口になり、主力商品まで動き出す構図だ。場所によって価格を変える運用もしていた。本人の実感として「3ヶ月目でかなり慣れてきます」とあり、習熟の時定数はおよそ一四半期だった。

日商の分布と、この業態の天井

3月の平均日商は約24,000円(383,650円÷16日)。最高日商の50,800円はその2倍強で、道の駅という特異点が月の数字をどれだけ押し上げるかが分かる。逆に上限も見積もれる。仮に全出店日が最高日商並みでも月商は約86万円(50,800円×17日)。専業でも「月17日」が体力と天候の壁である以上、1台+1人で回す限り月商100万円には構造的に届きにくい。この業態でスケールを狙うなら2台目か雇用が必要になる、という損益構造が4ヶ月分のデータから逆算できる。

うまくいかなかったこと

  • 初出店の仕込み過剰。100食想定に対して8食で、意気込みがそのまま在庫ロスになった
  • 開業前にリストアップした出店先候補は大半が「出店不可か高額」で、机上の出店計画はほぼ機能しなかった
  • そして5ヶ月目、コロナ禍でイベント・出店先そのものが消えた。本人は「1年間くらいの実績を残したかった」と悔いを書き残している。キッチンカーは春が稼ぎ時とされ、まさにその直前で事業が止まった

止まった月に何が残るか

この事例で最も重い数字は、売上でも利益でもなく車両ローン月54,000円だ。出店できない月もこれは出続ける。月33万円の利益が出ている間は誤差だが、売上ゼロの月には生活費と並ぶ固定支出になる。

構造を整理すると、(1)車両は中古市場で売却できる(完全な沈没費用ではない)、(2)営業許可・出店実績・出店先との関係は再開時に活きる、(3)ただしローンは残債として残る。初期投資を「失う額」ではなく「止まったときの月額負担」で見積もると、この種の事業のリスクは正確に測れる。

ストックフォトが放置でも年5万円入り続けたのと対照的に、キッチンカーは自分か市場が止まればゼロになり、ローンだけが残る。せどりの「動けない月は売上が落ちる」のさらに極端な形だ。

再現の条件

どの地域で始めても変わらないのは、オフライン移動販売の立ち上がりが「場所の獲得曲線」で決まるという構造だ。腕前や商品はほぼ同じでも、12月と3月で利益は12倍違う。飲食移動販売の実力とは調理ではなく、良い出店枠を取る営業力と人間関係であり、その獲得には3〜4ヶ月の実績蓄積が要る。初月の時給400円は失敗の証拠ではなく、この曲線の始点にすぎない。

一方で、初期投資は数百万円で済み、月33万円の利益までは4ヶ月で到達できた。内装だけで数百万円かかる固定店舗の飲食開業との比較でリスクが小さいのは事実で、数字はその「小さく試す」価値を裏付けている。ただし本件の月次データはコロナ以前の環境のもので、出店料相場やイベントの数は地域と時期に強く依存する。金額そのものより、出店料率と原価率を月次で記録し、場所の質を数字で評価するという運用の型こそが持ち帰れる部分だ。

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出典

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