23歳・5坪のクレープ店が月商100万円超。黒字なのに店主が「失敗だった」と書いた理由
2021年11月、23歳が品川区大崎で5坪のキッチンを借りワンオペでクレープ店を開業。12月の売上は店頭・デリバリー・EC合計で約50万円、4〜5月には月100万円を超える月もあり、8ヶ月で初期費用を回収した。それでも店主は事業を「失敗」と書いた。
執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)
月商100万円は、月商を公開している掲載227件のうち下から41%。掲載全体の月商中央値は157万円です(データ集計)。
黒字の飲食店が「失敗だった」と書く投稿は珍しい。2021年11月20日、品川区の大崎駅近くに5坪のキッチンを借りてクレープ店「おおさきっちん」を開いた当時23歳の店主が、開業8ヶ月の時点で公開した振り返りがそれである。売上は伸び、初期費用も回収できている。それでも本人は事業判断としてこれを失敗と位置づけた。数字と、その評価のずれを追う。
開業から8ヶ月の推移
| 時期 | 出来事 | 売上・稼働 |
|---|---|---|
| 2021年11月20日 | 品川区大崎に5坪のキッチンで開業。23歳、ワンオペ | 週5日 × 1日6時間営業(仕込み・片付け込みで実質8時間) |
| 2021年12月 | 店頭に加えてデリバリー、EC(通販)を展開 | 3チャネル合計で約50万円 |
| 2022年春 | 近隣大学の対面授業が再開、メディア掲載が続く | リピーター(主に会社員)が定着 |
| 2022年4〜5月 | 各種施策が重なる | 月100万円を超える月も |
| 2022年7月(執筆時点) | 開業8ヶ月 | 初期費用を「そろそろ回収できそう」 |
売上チャネルは店頭・デリバリー・ECの3本で、デリバリーでは「豆乳ホイップ」「抹茶クレープ」といった特徴を前面に出していた。集客面ではSNSに加え、店頭のガチャガチャやLINE公式アカウントのクーポンといった施策、そして「品川経済新聞」「RETRIP」などのメディア掲載が挙げられている。
月商が倍になった局面に、単独の施策は見当たらない
12月の約50万円から4〜5月の100万円超へ、およそ半年で売上は倍になっている。ただし本人が挙げる要因は一つではない。リピーターの確保、近隣大学の対面授業再開、メディア掲載、そしてSNSやクーポンといった施策の実行が並列で語られている。
このうち店側がコントロールできたのはリピーターづくりと施策の部分で、大学の対面授業再開は外部環境の変化である。開業が2021年11月であることを踏まえれば、コロナ禍で人流が戻りきっていない時期に始め、回復局面をそのまま受け取った側面は小さくない。立地の選定にも根拠がある。大崎・五反田エリアには個別のクレープ店が不足しており、需要に対して供給が空いていた。ワンオペ・5坪という最小構成でその空白に入ったことが、売上の立ち上がりの速さを説明している。
決定的だったのは、黒字のまま評価軸を変えたこと
この事例の転機は売上ではない。開業から8ヶ月が経ち、事業として黒字が確定した段階で、店主が「店舗開業がゴールだと思っていたが、実際にはゴールではなかった」と気づいた瞬間である。数字の転機(12月50万円 → 4〜5月100万円超)と、意思決定の転機(黒字を確認したうえで失敗と判断)は、この事例では逆向きに働いている。
本人が挙げる理由は二つある。ひとつは、自分自身が店のコンセプトになっているため店から離れられないこと。誰かに任せようとしても「自分がコンセプト」であることが障壁になり、委譲が成立しない。週5日 × 6時間、実際には仕込みと片付けを含めて8時間の拘束が続く前提で、5年10年後、35歳になった自分の人生像が浮かばなかったという。もうひとつは、ワンオペゆえに営業中の不安や出来事を共有できる相手がいない孤立である。怖い経験をしても、それを知っているのは自分だけという状態が続く。
事業が伸びるほど身動きが取れなくなる構造
なぜ黒字が問題の解決にならなかったのか。構造を分解すると、この店の売上は店主本人の稼働時間に直結している。5坪・ワンオペ・週5日 × 6時間という制約下で月100万円は、面積と時間あたりの効率としてはかなり高い。だが上限も同時に決まっている。売上を伸ばす手段は稼働時間を増やすか単価を上げるかに限られ、人を雇って拡張する道は「自分がコンセプト」である限り塞がっている。
つまり、売上が伸びれば伸びるほど、店主が現場を離れられない理由が強くなる。属人性は立ち上げ期には武器として働く。個人の顔と世界観がそのまま差別化になり、5坪の小さな店でもメディアに取り上げられ、リピーターがつく。同じ属人性が、拡張と離脱の局面ではそのままコストに変わる。この事例が示しているのは、収益性の問題ではなく設計の問題である。
3チャネル構成の意味も、この構造の中で見ると評価が変わる。店頭・デリバリー・ECを並走させることは、売上の上限を店頭の立地と営業時間から切り離す設計である。5坪の店の前を通る人数には限りがあるが、デリバリーは商圏を数キロ単位に広げ、ECは地理の制約を外す。12月時点で合計約50万円という数字が3チャネルの合算で示されているのは、開業初月から単一チャネル依存を避けていたことの表れでもある。ただしどのチャネルであっても、クレープを焼くのは店主一人である。売り口を増やしても、生産側のボトルネックは動いていない。
生活面のリスクを外部化していた点も見落とせない。店主は複数のフリーランス業務を並行しており、個人としては赤字になる心配がなかったと述べている。初期費用が小さく、他に収入源があるという二重の安全弁があったからこそ、黒字の事業を冷静に「失敗」と評価する余地が生まれている。生活費のすべてを店に依存していれば、同じ判断はできなかったはずだ。
再現できること、できないこと
移植しやすいのは、店舗設計の側である。5坪という最小面積、ワンオペ、店頭に加えてデリバリーとECを並走させる3チャネル構成は、初期費用を8ヶ月で回収できる水準に抑えつつ、来店客数の上限を店頭だけに縛らない形になっている。競合が空いているエリアを選ぶという判断も、飲食に限らず通用する。
再現しにくいのは、開業タイミングとメディア露出である。対面授業の再開という人流回復は再度起こる種類の出来事ではないし、「品川経済新聞」「RETRIP」への掲載は、23歳がワンオペで5坪のクレープ店を開くという物語性込みで成立した部分がある。同じ施策を同じ順番でやっても、露出の量まで再現できるとは限らない。地域メディアに載るかどうかは、店の完成度よりも「その時期に取り上げる理由があるか」に左右される部分が大きい。
そしてこの事例の最大の教訓は、開業前に決めておくべきだった論点が「儲かるか」ではなかったという点にある。店主は黒字化してから、自分が現場に固定される構造と、5年後の自分の像が描けないことに気づいた。属人性を武器にするのか、最初から外せる形にしておくのかは、内装や資金計画と同じかそれ以上に、開業前に答えを出しておくべき設計項目である。
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出典
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