カフェ ヴェリーヌ、3か月で100万円の赤字。5か月目の売上120万円・利益15万円が最初の黒字だった
名古屋のフレンチカフェ「カフェ ヴェリーヌ」。開業資金600万円、開店初日の売上38,400円、3か月で累計100万円の赤字。5か月目に売上約120万円・利益約15万円で初めて黒字になるまでに効いたのは、新メニューではなくはがきDMと折込チラシだった。
執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)
開業3か月で、累計100万円の赤字だった。4か月目には店を畳むことを考え、自分の取り分は4か月間ゼロ。名古屋市昭和区の住宅街で荒嶋友基氏が2013年に開いた33坪・約40席のフレンチカフェ「カフェ ヴェリーヌ」が初めて黒字を出したのは5か月目で、その月の売上は約120万円、手元に残った利益は約15万円だった。「それでも経費がひかれると、残る利益は、そのくらいになってしまいます」とだけ書いてある。
飲食の独立で通りがいいのは腕の話だ。フランス料理歴15年の職人が31歳で自分の店を持つなら、味で客はつく。荒嶋氏も開業当初はそう考えていたと書いている。「美味しい料理やドリンクを出していればお客さんは来てくれると思い込み」、新規客に向けた発信を何もしていなかった。ところが、その帰結が3か月100万円の赤字だった。店を黒字側へ押し上げたのは新しい皿ではなく、顧客アンケートとはがきDMと新聞折込チラシだった。
最初の5か月に何が起きたか
荒嶋氏が複数の記事に分けて書いている数字を、時系列に並べ直すとこうなる。
| 時期 | 金額 | 出来事 |
|---|---|---|
| 開業前(2013年) | 開業資金600万円 | 自己資金300万円を3年で貯め、日本政策金融公庫から300万円を借入 |
| 同上 | 物件200万円 / 内装90万円 / 機器・インテリア70万円 / 運転資金240万円 | 名古屋市の住宅街、最寄り駅から徒歩15分、33坪・約40席 |
| 開店初日 | 売上38,400円(来客24人) | 営業は10:00〜18:00 |
| 2日目 | 32,000円 | |
| 3日目 | 28,000円 | |
| 3か月目 | 累計赤字100万円 | 4か月目に閉店を検討 |
| 4か月目まで | 自分の収入0円 | 買い出しと仕込みを含めて1日16時間 |
| 5か月目 | 売上約120万円・利益約15万円 | 初めての黒字 |
| 半年後 | 自分の給与10万円 | |
| 1年後 | 自分の給与約20万円 | |
| 6年後 | 売上・客数が開業時の2倍 | 夫婦2人・ランチのみの体制へ |
開店初日の38,400円は、その後3日間で1万円落ちている。オープン景気が3日で剥がれる速さがそのまま出ている数字で、荒嶋氏は別記事で、毎月マイナス30万円が常態だった時期があるとも書いている。なお以下の数字はいずれも2013年から2020年ごろにかけて本人が公開したもので、現在の月商や利益は公開されていない。
8人採って、1か月後に残ったのは1人だった
開業時に採用したスタッフは8人。ところが1か月も経たないうちに複数が辞め、最後に残ったのはアルバイト1人だった。本人は「営業3年で8割の店が消える」という業界の相場を引きながら、自分が続けられたことを奇跡に近いと書いている。
ここからは推測だが、運転資金240万円の目減りを速めたのはこの採用だ。33坪・約40席の店が開店初日に迎えた客は24人で、2日目以降はそれより少ない。8人分のシフトを埋める客数が最初から無かった以上、人件費は売上ではなく開業資金から出ていたことになる。荒嶋氏は失敗の理由として集客と再来店と価格の3点を挙げているが、資金が溶ける速さという観点では、人の数のほうが先に効いている。
そして皮肉なことに、この時期に辞めた7人ぶんの労働は本人が引き受けた。1日16時間という数字は、赤字の記録であると同時に、人が抜けた穴の記録でもある。
黒字にしたのは厨房ではなかった
荒嶋氏が挙げる失敗の理由は3つで、どれも料理の話ではない。ひとつ、店の魅力を外に伝えていなかった。ふたつ、再来店の仕組みが無く、売上を作ることが新規客を呼ぶことと同義になっていた。みっつ、メニューブックに値段と品名しか書いておらず、客が価値を判断できないまま安い品だけが出ていた。
打った手も料理の外側にある。流行している店のメニュー構成、盛り付け、メニューブック、店舗写真を徹底的に真似た。本人の言葉では「変えた初月から、ホームページや食べログからの電話予約がめちゃめちゃ増えた」。新聞折込チラシを配った週の土日には「チラシ見たよ」と言って来店する客が並んだ。それ以前の土日の客数は、1日1組だった。来店客にアンケートを取って連絡先を集め、はがきDMを定期的に送る運びを作ってからは、売上が大きく変わったと書いている。ホームページのSEOに手を入れたあと、チラシとDMを重ねて売上は3倍になった。
この店を黒字にしたのは厨房ではなく、はがきと折込チラシだった。メニューブックを書き直した結果として、モーニングの客単価は1,000円、ランチの客単価は1,850円まで上がっている。客単価が動いたのは、料理を変えたからではなく、料理の説明を変えたからだ。編集部はこの順番を、この事例でいちばん再現性のある部分だと見ている。腕は開業前から同じで、変わったのは外への出し方だけだった。
90万円という床
荒嶋氏は自店の経験から、売上の水準ごとに経営状態を区分している。売上60万円台は固定費に負けて赤字。80万円台でもまだ赤字寄り。90万円台でようやくトントンか、わずかに黒字。100万円を超えたところから少しずつ楽になる。
この区分を5か月目の数字に当てると、120万円の売上から残ったのが15万円だったことの説明がつく。90万円でゼロ、120万円で15万円。差の30万円のうち半分が手元に残った計算になり、変動費は売上の半分前後ということになる。粗い当てはめだが、公開されている数字だけで引ける線はここまでだ。原価率も家賃も人件費も個別には出ていない。
重要なのは、この床がかなり高い位置にあることだ。33坪・約40席という器は、客単価1,850円のランチで埋めても1日あたり数十人を要求する。ランチの客数は1日40〜50人と書かれているから、月25日営業でおよそ1,000人から1,250人。ここに朝とテイクアウトが乗って、ようやく90万円の床を越える。
スタッフを手放したら、利益が増えた
転機はもうひとつある。荒嶋氏はアルバイト5人と社員を置く体制を畳み、妻と2人だけの店にした。自身で「スタッフ全員クビ」と書いているとおり、職人気質で完璧主義の自分がスタッフとの関係でつまずき続けたことが理由だと明かしている。同時に営業時間を短縮し、ランチ11:00〜15:30とディナー17:30〜21:00の二部制から、ランチのみ4時間半へ切り替えた。人件費が落ち、オペレーションが整理され、利益は増えた。
これは縮小ではない。客単価1,850円のランチを1日40〜50人さばく事業に対して、店の形のほうを合わせ直した判断だ。売上の最大値を捨てる代わりに、90万円の床を2人で越えられる構造に作り替えている。開業から6年で売上と客数が2倍になったのは、この形に落ち着いたあとのことだ。
採用の失敗から始まった店が、最終的に人を置かない設計に辿り着いた。この往復こそがヴェリーヌの6年で、8人から1人へ、そして2人へという人数の推移が、損益計算書より雄弁に経営の学習過程を示している。
出ていない数字
月次の売上推移は公開されていない。現在の月商、原価率、家賃、DMの通数とその反応率、折込チラシの枚数と費用、「売上3倍」の起点と到達点も数字では出ていない。妻の労働に対する給与の扱いも書かれていないので、2人体制の利益がどこまで人件費を含んだ数字なのかは判断できない。
店の形も動いている。食べログの店舗情報では席数が34席(個室2室を含む)、営業は11:00〜17:00に加えて予約制の夜カフェが17:00〜20:00、木曜定休となっており、本人ブログが書いた「約40席」「ランチのみ4時間半」とは一致しない。7年前後の間に席も時間も組み替えられたと見るのが自然で、この記事の数字はあくまで開業から6年ほどの区間のものだ。
2013年の折込チラシと、無給で立っていた4か月
小規模な飲食・実店舗を月商順に並べると、5坪のクレープ店で月商100万円超に届きながら店主が「失敗だった」と書いた事例、月次決算を4年公開し日商3.4万円・原価率23%まで見せた未来食堂の月商70.9万円、開業1か月目の時給が400円だったキッチンカーの月商38.4万円が続く。ヴェリーヌの120万円はこの並びの上端にあるが、残った利益は15万円で、クレープ店の店主が黒字のまま失敗と判断したのと同じ位置にいる。
店の外側の条件も書いておく。2013年開業という時期は、新聞折込がまだ住宅街の高齢層に届き、食べログからの電話予約が機能していた時期にあたる。同じ手順を今なぞっても、同じ反応は返らない可能性が高い。日本政策金融公庫から300万円を借りられた条件も、自己資金300万円を3年で貯めた前提の上にある。そして手順に落ちないものとして最も大きいのは、8人が1人になった時期に1日16時間を一人で回せる体力と、フランス料理歴15年ぶんの技術がすでに手元にあったことだ。集客の手順は書き写せても、赤字の4か月を無給で立っていられる耐久力は手順ではない。
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出典
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- 本人公開本人ブログ「【カフェ経営】収入これだけ?失敗する理由」。開業4か月間は赤字で収入0円、5か月目に売上約120万円・利益約15万円、開業6年で売上と客数が2倍、チラシ配布前の土日は1日1組、流行店の模倣と新聞折込チラシの効果
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