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MVMT、Indiegogoの$290Kから5年で$100M売却。大学中退の2人が売ったのは腕時計ではなく「34歳未満が88%」という顧客名簿だった

大学を中退した2人がIndiegogoで$290,000を集めて2013年に創業したMVMTは、2017年に売上$71Mへ。2018年8月、Movadoが$100M(業績連動で最大$200M)で買収した。買い手が欲しかったのは「顧客の88%が34歳未満」という層だった。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

MVMT、Indiegogoの$290Kから5年で$100M売却。大学中退の2人が売ったのは腕時計ではなく「34歳未満が88%」という顧客名簿だった

2013年、大学を中退したJake KassanとKramer LaPlanteは、腕時計ブランドMVMTを立ち上げるためにIndiegogoでキャンペーンを打った。目標額は$15,000。集まったのは支援者2,887人から$219,898で、達成率にして1,466%だった。2回目のキャンペーンで$71,409を追加し、合計は$290,000を超える。ベンチャーキャピタルからの調達はゼロだ。

5年後の2018年8月、老舗時計グループのMovadoがMVMTを買収した。TechCrunchが報じた買収額は$100M。業界誌JCK Onlineによれば、これは初回の支払いで、業績次第で最大$100Mの追加対価が付き、総額は最大$200Mに達しうる契約だった。2017年の売上は$71Mである。

この事例で興味深いのは価格そのものより、Movadoが何を買ったのかという点だ。同社はすでにLacoste、Tommy Hilfiger、Hugo Bossといったライセンスブランドを抱えている。腕時計を作る能力も、流通も、ブランドも持っている会社だ。それでも$100Mを払った理由は、MVMTの商品ではなく、その先にいる人間にあった。

数字と時系列

時期出来事数字
2013年大学中退の2人がIndiegogoで1回目のキャンペーン。目標$15,000に対し達成率1,466%支援者2,887人/$219,898
同2回目のキャンペーン。累計調達額$71,409/累計**$290,000超**
同Shopify上でストアを開設。価格は**$95**前後から外部出資**$0**
2017年売上$71M
2017年時点顧客の年齢構成**88%**が34歳未満/**45%**が24歳未満
買収前後SNSと顧客基盤(Inventory Planner公開の導入事例)Facebook370万/Instagram100万/時計オーナー150万人
2018年8月17日Movadoが買収を発表。初回支払い$100M
同業績連動の追加対価。合計最大最大**$100M**/合計最大**$200M**
2018年10月取引完了予定。現金とMovadoのクレジットファシリティで手当て—
買収後Kassan氏はCEO、LaPlante氏はCOOとして継続。本社はロサンゼルス27歳と26歳

2017年の売上$71Mに対して初回支払い$100Mは、売上の約1.4倍。追加対価が満額出た場合でも約2.8倍にとどまる。物販ブランドの評価としては突出して高いわけではない。むしろ注目すべきは、対価の半分が業績連動になっていることだ。買い手は「この売上が続くかどうか」を確信していなかった、と読める設計になっている。

$95という価格が持っていた意味

MVMTが置かれたのは、ファッションウォッチという市場だ。ここには機械式の精度も複雑機構もない。動いているのはクォーツで、勝負は文字盤とベルトの見え方で決まる。TechCrunchはMVMTを「オンラインでしっかりした存在感を築いた最初期のマイクロブランドのひとつ」と位置づけ、競合としてFossilやDaniel Wellingtonを挙げている。

このカテゴリで$95前後という価格を置いたことが、事業の形をほぼ決めている。デパートの時計売り場で$300のブランドを買う客と、Instagramの広告から$95の時計を買う客は、同じ人ではない。前者は店員の説明と保証を買っているが、後者は写真と価格だけで決めている。だからMVMTは店舗を持たずに済み、在庫回転と広告効率だけを見ていればよかった。

そして原資は自前で作った。Indiegogoの2回のキャンペーンは、資金調達であると同時に需要検証でもある。目標$15,000に対して$219,898が集まった時点で、この価格帯に人がいることが数字で確認された。在庫を先に抱えてから売り先を探すのではなく、売れることを確認してから作る。物販でこの順序を作れると、必要な運転資金が桁で変わる。腕時計まわりでは、日本でも時計ベルトのECを承継した事例のように在庫と単価の設計が事業の体力を決める。

集客の主戦場はFacebook広告だった。TechCrunchはMVMTの手法を「Facebookへの大量出稿」と表現している。2013年から2017年にかけては、Facebook/Instagramの広告費用対効果がまだ高く、写真映えする低単価の物販がそこで最も伸びた時期にあたる。MVMTはその窓が開いていた5年間をまるごと使い切っている。

買われたのは商品ではなく、顧客の年齢だった

Movadoの買収理由は公式コメントに出ている。CEOのEfraim Grinberg氏は「MVMTの買収は当社にミレニアル世代へのより大きなアクセスをもたらし、当社のデジタル中核化の取り組みを前進させる」という趣旨の発言を残している。

その裏付けになる数字が、JCK Onlineが報じた顧客の年齢構成だ。2017年時点で顧客の88%が34歳未満、45%が24歳未満。既存の時計ブランドが最も届かない層である。Movadoが持っていなかったのは商品でも工場でもなく、この年齢帯との接続と、それを回すDTCの運用能力だった。

つまりMVMTが売ったのは腕時計の事業というより、「34歳未満に安価な時計を売って利益が出る仕組み」と、そこに紐づいた顧客の集合だった。Inventory Planner公開の導入事例によれば、買収前後の同社はFacebookで370万のいいね、Instagramで100万のフォロワー、150万人の時計オーナーを抱えていたという。

一方で、この事業には構造的な弱点もあった。DTCの物販で広告が主要チャネルである以上、広告単価の上昇や配信面のルール変更が、そのまま粗利を削る。買収時点でMVMTはNordstromやBloomingdale’sといった百貨店にも展開を広げており、これは販路の多角化であると同時に、卸の取り分だけ利幅を渡す取引でもある。対価の半分が業績連動だったという事実は、買い手側もこの持続性を割り引いて見ていたことを示している。

「$100M」は確定額で、「最大$200M」は上限だった

金額の読み方には注意が要る。「$100Mで売却」と「最大$200M」は同じ取引の別の側面であり、実際にいくら支払われたかは業績次第だ。追加対価が満額支払われたかどうかは公表されていない。売却額を語るときは、初回の確定額と条件付きの上限を分けて見る必要がある。分割払いや業績連動が絡む取引は小規模M&Aでも珍しくなく、LINE公式アカウント付きECを売却した事例のように、条件の中身まで見ないと実際の手取りは分からない。見出しに載る数字は、たいてい上限のほうである。

業績連動の部分が満額に届いたかどうかは、チャネル環境とも切り離せない。2013年から2018年のFacebook広告は、いま同じ費用で同じ量の顧客を連れてくるチャネルではない。広告の効率が事業の生命線である以上、この事例の成績はその時期の広告環境と不可分である。買収された小規模ECがその後どう扱われるかについては、eBrandsに買収されたECの事例のように、買い手の運用体制が結果を左右することが多い。

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