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Native、成分表が読めなかった弁護士のデオドラントD2Cが約2年半でP&Gへ——$100M現金売却、創業者の持分は9割超だった

2015年7月ローンチのD2CデオドラントブランドNativeは、2017年11月にP&Gへ$100M現金で売却された。調達はわずか$500K、創業者Moiz Aliの持分は9割超。売却時は年商$30M・月次純利益$1M。単品・直販・広告一本に絞った約2年半の構造を数字で読む。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

Native、成分表が読めなかった弁護士のデオドラントD2Cが約2年半でP&Gへ——$100M現金売却、創業者の持分は9割超だった

レジ待ちの列で自分のデオドラントの成分表を読み、ほとんどの成分名が理解できないことに苛立った。D2CブランドNativeの出発点は、それだけだった。創業者のMoiz Aliはハーバード・ロースクール出身の元弁護士で、パーソナルケアの専門家ではない。2015年7月に自然派デオドラントの直販を始め、約2年半後の2017年11月、Procter & Gamble(P&G)がNativeを$100Mの現金で買収した。本人のサイトによれば、これはP&Gにとって約10年ぶりの買収だった。

この事例のもうひとつの数字は、資本構成にある。Head West Guideのケーススタディによれば、Nativeが外部から調達したのは$500Kのみで、売却時点のAliの持分は9割超。$100Mのほぼ大半が創業者に入った計算になる。売却時の事業は年商$30M、月次の純利益は$1M。巨大な調達で成長を買うのではなく、利益を出しながら約2年半を駆け抜けた。

デオドラントという最も地味な消費財で、何が起きていたのか。派手な発明はどこにもない。あるのは、単品・直販・広告一本という極端な絞り込みと、顧客の声を処方に反映し続ける改良サイクルだけだ。数字を順に見る。

成長曲線——ローンチから売却まで

  • 2015年7月: ローンチ。初期投資は$1,000、創業者1人(Head West Guideによる)
  • 2016年1月: 月商$75K
  • 2016年5月: 月商$100K
  • 2016年6月: 月商$250K、従業員2人
  • 2016年11月: 月商$1M、従業員5人
  • 2017年11月8日: P&Gへ$100M現金で売却。年商$30M、月次純利益$1M、従業員8人

累計顧客は100万人を超え、本人のサイトは当時のNativeを「全米で最も成長の速い消費財(CPG)企業」と記している。なおAliにとって事業はこれが初めてではなく、以前にスピリッツ(蒸留酒)のフラッシュセールサイトCaskersを創業しており、EC運営の経験は持っていた。

月商$1Mに到達した2016年11月の従業員数は5人。売却時ですら8人だ。年商$30Mを8人で回す組織は、大手消費財メーカーの常識からかけ離れている。そして年商$30Mに対して月次純利益$1M(年換算$12M)なら、純利益率は約4割。売却額$100Mは年商の3.3倍に相当する。

顧客フィードバックをR&Dにする

Million Dollar Mindsの分析記事は、初期のNativeの製品を「せいぜい並以下(subpar at best)」と評している。Aliはそこから顧客の声を処方に反映する改良を繰り返し、「正しい処方に到達したことで売上が5倍になった」という。Head West Guideによれば試した処方のバリエーションは100種類超、再購入率は20%から50%まで改善した。

デオドラントは毎日使う消耗品で、気に入れば同じものを買い続ける。つまり再購入率が上がるほど、広告で獲得した顧客1人の生涯価値が伸び、次の広告費を賄える。改良の速さは、大手が数年かける処方開発を顧客からの苦情と要望で代替したことで生まれた。D2Cの「顧客と直接つながっている」という建前を、実際に研究開発パイプラインとして使い切った例と言える。

効かなかった施策と、あえてやらなかったこと

すべてが当たったわけではない。ローンチはProduct Huntで行ったが、売れたのは51本にとどまった。Google広告も試したが機能せず、獲得チャネルとして立ったのはFacebook広告だった。以後、Nativeの成長はほぼFacebook広告と再購入の二本柱になる。

一方で「やらなかったこと」のリストは長い。最初の1年半はインフルエンサーマーケティングを使わず、小売展開もAmazon出品もしなかった。棚を取り合う消費財の常道をすべて外し、自社サイトの直販だけに集中している。製品も長くデオドラント1本に絞った。チャネルとSKUを増やさないことで、8人という組織でも在庫・物流・顧客対応が回る構造を保った。

売却の構造——「買われる側」の交渉力

P&Gが約10年ぶりの買収先に創業2年半のスタートアップを選んだ背景には、自然派・成分の透明性へ消費者が流れるなかで、自社開発では間に合わない領域を買収で取りに行く判断があったと見るのが自然だろう。Nativeは調達が$500Kと小さく、利益が出ていたため、売り急ぐ理由がなかった。資金が尽きないブランドは買い手に対して時間を持っている。現金$100M・持分9割超という着地は、その交渉力の帰結でもある。買収後、Nativeの成長は3倍になったとMillion Dollar Mindsは記す。売り物として完成していたものを、P&Gの流通が増幅した形だ。

対価が全額現金だったことも見逃せない。株式交換や業績連動(アーンアウト)を含む買収では、売り手の手取りは買収後の統合の成否に左右される。現金一括の$100Mは、その不確実性を創業者が一切引き受けない条件であり、利益体質のブランドだからこそ通せた着地と言える。

再現の条件と限界

業種を移しても効くのは、消耗品×直販×再購入という設計の強さだ。単価が低くても購入頻度が高い製品は、再購入率さえ改善すれば広告依存の成長が自走に変わる。処方改良で再購入率を20%から50%へ引き上げた工程が、この事例の本体である。小さく買収されたECブランドの事例としてはNecklowのOpenStoreへの売却が、価格改定で利益構造を変えたD2Cの国内事例としてはD2C値上げ15%の事例が比較になる。

限界も明確だ。第一に、2015〜2017年はFacebook広告のCPAが今より大幅に安く、D2Cの黄金期だった。同じ広告一本足の成長は、広告単価が上がった現在は成立しにくい。加えて、$100Mという価格はP&Gの戦略的事情(自然派シフトへの出遅れ)が乗った値であり、財務的な倍率だけでは説明できない。「調達を最小にして持分を守る」戦略にしても、利益が早期に出る消費財だから取れた選択で、開発先行型の事業には移植しにくい。1人で$80M売却に至ったBase44の事例と同様、希薄化の少なさが売却額の意味を決めている。いくらで売れたかと同じくらい、誰にいくら残ったかを見るべき事例だ。

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