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ネック枕Necklow、3ヶ月で売上1億5,000万円 — 広告1本のバズと約2年後の5,700万円売却

整形外科用ネック枕のD2CブランドNecklowは、初回のバイラル広告(再生300万回超)を起点に発売3ヶ月で売上100万ドル。累計顧客8万人まで伸ばした後、2022年にOpenStoreへ38万ドルで売却された。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

ネック枕Necklow、3ヶ月で売上1億5,000万円 — 広告1本のバズと約2年後の5,700万円売却

売却額5,700万円は、売却額を公開している掲載40件のうち上位40%。掲載全体の売却額中央値は3,750万円です(データ集計)。

チュニジア沖の島の出身であるFiras Balaffou氏が2020年に立ち上げたNecklowは、微細な空気ボールを詰めて複数の寝姿勢に対応する整形外科用ネック枕のD2Cブランドである。発売から3ヶ月で売上100万ドルに到達し、2022年5月時点で累計約8万人の顧客を抱えた。そして同年、Shopifyブランドの買収事業者OpenStoreに38万ドルの現金で売却されている。在庫分3万ドルを含めた取引総額は41万ドル、EBITDA倍率は1.8倍だった。

本稿のドル金額は、1ドル150円で見るとおよそ次の規模になる。売上100万ドルは約1億5,000万円、売却額38万ドルは約5,700万円、在庫込みの41万ドルは約6,150万円である。

発売から売却までの数字

項目数字
創業2020年(Balaffou氏の単独立ち上げ)
発売3ヶ月時点の売上100万ドル。ただし原価と広告費でほぼ収支トントン
累計顧客数約8万人(2022年5月時点)
主要チャネルFacebookとGoogleの有料広告
広告制作ペース少なくとも2週間に1本の新規広告
広告の勝率5本中およそ3本が黒字
初のバイラル広告再生300万回超。1年後も黒字を維持
売却時の体制本人+契約者6名(カスタマーサポート3、マーケター2、オペレーション1)
売却額38万ドル現金(在庫3万ドルを含め総額41万ドル)
売却倍率EBITDA1.8倍
資金調達なし(ブートストラップ)

事業の中身と、その前史

Necklowを始める前、Balaffou氏は3年間、AliExpressから仕入れた商品をフランスと米国に売るドロップシッピングをやっていた。当初は週に1商品ほどのペースで出しながら、独学でEコマースを学んでいたという。この3年は売上の面で語られていないが、後の広告運用の土台になっている期間である。

Necklowはその延長にありながら、決定的に違う点があった。取り扱いを多数の他人の商品から、自社ブランドの1商品に絞ったことである。整形外科用という機能訴求と、複数の寝姿勢に対応するという具体的な仕様は、動画広告で実演して見せられる性質を持つ。ここが後の展開を規定した。

伸びた理由を分解する

この事例の転機は、発売直後に出した1本の広告がバイラル化したことだ。この広告は再生300万回を超え、しかも1年後も黒字を維持し続けた。通常、EC広告のクリエイティブは数週間から数ヶ月で疲弊して費用対効果が落ちる。1年間現役だった広告が1本あるということは、その期間の顧客獲得コストが構造的に低く抑えられていたことを意味する。

ではなぜその1本が生まれたのか。Balaffou氏の方法は、才能ではなく手続きに寄っている。彼は同じ購買層を持つ既存ブランドの広告を研究対象にした。見出し、語りの構成、推薦の見せ方、コピーライティング、商品デモンストレーションを分解して観察し、その上で少なくとも2週間に1本のペースで新しい広告を投入し続けた。本人の助言もそこに集約されている。「似た購買層を持つ既存ブランドから学ぶことを勧める。どんな広告の型が自分に効くのかを手探りで探す試行錯誤を、大幅に短縮できる近道になる」。

打率の数字がこの方法の性質を示している。5本中およそ3本が黒字という勝率は、一見すると高い。だがこれは裏を返せば、2本は外れるということであり、外れを織り込んだ本数を回し続けることが前提の運用だということだ。バイラル広告は狙って作られたのではなく、既存の勝ちパターンを分解した上で本数を出し続けた結果として引き当てられた、と読むのが素直だろう。

もうひとつ見落とせないのは、100万ドルという売上が利益をほとんど生んでいなかったという事実である。原価と広告費を引いた後は「ほぼトントン」だった。派手な数字の裏で、この事業は最初から広告投下額に利益を吸われる構造にあり、それを商品原価か獲得コストのどちらかで改善できるかが勝負だった。

なぜ2年で手放したのか

2つ目の転機は2022年5月の決断である。事業は伸びていたが、Balaffou氏を止めたのは需要ではなく自分の側だった。「事業は成長していたが、運営とスケールの課題が手に負えなくなっていた。特定の問題を効率よく解決する経験が自分になく、ストレスが溜まっていった」。

売却プロセスは速い。彼がOpenStoreにオファーを依頼すると、24時間以内に回答が返ってきた。その内容を自分のネットワークの人間と一つずつ検討したうえで、15%の増額を引き出している。その後、事業実態の検証に2週間、デューデリジェンスに4週間、合計およそ6週間でクローズした。

倍率はEBITDAの1.8倍である。38万ドルを1.8で割ると年間のEBITDAはおよそ21万ドル、月あたりに直せば1万7,000ドル台の利益水準だったことが逆算できる(公表されているのは売却額と倍率であり、この月次利益は本稿での割り戻しにすぎない)。1.8倍という水準は、売り手側が交渉時間より速度を優先した場合に落ち着きやすいレンジだ。24時間で提示が来て6週間で終わる取引と引き換えに、価格の上振れは手放したことになる。

甘くなかった部分

まず、100万ドルの売上がほぼ利益を残さなかったという初期の事実がある。顧客獲得コストが売上の伸びを相殺していた期間があり、これは「3ヶ月で1億5,000万円」という見出しの数字だけを見ると完全に隠れてしまう部分だ。

次に、広告依存の構造そのものが残った。FacebookとGoogleの有料広告が主要チャネルであり続けたということは、プラットフォームの配信コストと審査方針の変化がそのまま損益に効くということである。オーガニックな検索流入やコミュニティといった、広告費と独立した集客の柱は語られていない。

そして本人が挙げた撤退理由が運営の困難だった点も重要だ。契約者6名を抱えた時点で、彼は商品を売る能力ではなく、組織と物流を回す能力の不足に直面していた。1商品への集中は立ち上げを速くしたが、その先で必要になるスキルは別物だったということである。

何が真似できて、何ができないか

再現可能性が高いのは、広告クリエイティブの手続き化である。同じ購買層に売っている既存ブランドの広告を分解し、要素ごとに借用し、一定ペースで本数を出し、打率で判断する。この一連の流れは商材を問わず適用でき、3年間のドロップシッピングで培われた運用感覚は、外注や学習で埋められる範囲にある。

再現できないのは、まず商材と時期の組み合わせだ。2020年、在宅時間が伸びた局面で、寝姿勢という不満を動画で一目で見せられる商品を持っていたこと。この「実演で伝わる不満」を持つ商材かどうかは、広告運用の巧拙より前段で勝負が決まる部分である。次に、初回広告が300万回再生に届き1年間現役でいられたことは、方法論で確率を上げられても保証はできない。

売却側にも同じ線引きがある。OpenStoreのような、Shopifyブランドを短期間で買い取る事業者が存在したこと自体が、この時期の市場環境に依存している。24時間で提示、6週間でクローズという速度は、買い手が定型の評価プロセスを持っているから成立したものであり、個別の買い手を探す通常の売却では望めない。その代わり価格はEBITDA1.8倍に収まった。速度と価格のどちらを取るかは選択であり、この事例は速度を選んだ側の記録である。

Balaffou氏は売却後に6ヶ月の休養を取り、ペット向けの鎮静ディフューザーを扱うTheraPetMDを立ち上げている。同事業は初年度に8桁ドル規模の売上に達したという。彼自身の言葉を借りれば、「現金が必要で、成長も止まって行き詰まっていると感じるなら、売ってしまえばいい。新しい事業は後から来る。もっと大きく、もっと成功する形で」ということになる。

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出典

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