Repsona、1人で5年・総売上1,240万円——「スタートアップとしては大失敗」と自己査定するタスク管理SaaSの帳簿
タスク管理SaaS「Repsona」の開発者が5年間の総売上12,403,567円を公開。登録スペース5,873、のべユーザー14,641人。広告はCPA500円でも無料→有料転換は約1%。「趣味の個人開発としては大成功、スタートアップ起業としては大失敗」という自己査定の内訳を数字で読む。
執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)
「趣味の個人開発としては大成功。スタートアップ起業としては大失敗です」。タスク管理SaaS「Repsona」の開発者は、5年間の運営をこう総括した。2024年1月に本人がnoteで公開した数字は、5年間の総売上12,403,567円。月平均に均せば20万円強で、1人で食べていくにはぎりぎりの水準だ。
Repsonaは、シンプルさと速さを重視したタスク管理・プロジェクト管理ツールで、開発から運営、マーケティングまですべてを1人でこなしている。登録スペース(チーム単位のワークスペース)は5,873、のべユーザーは14,641人。今も1日1スペースほどのペースで新規登録が続いている。
個人開発の収益公開は「うまくいった月」の切り取りが多いなかで、この記事は5年分の帳簿を成功も失敗も込みで開いている点が貴重だ。しかも施策ごとの結果が実数で書かれている。順に見ていく。
5年間のタイムライン
- 2018年5月: 会社を辞め、フルタイムで開発に着手
- 2019年6月: 8ヶ月の開発を経てβ版公開
- 2019年10月: 正式リリース、有料プラン開始。初月の売上は9,900円
- 2020年1月: モバイルアプリ公開(5年経った時点で累計約100インストール)
- 2022年10月: 料金改定とフリープランへの機能制限を実施。売上は上がった
- 2024年1月: 5年間の総売上12,403,567円を公開。登録スペース5,873、のべユーザー14,641人
注目したいのは、これが「退職してフルタイムで挑んだ」数字だという点だ。副業の傍らではなく、8ヶ月を開発に投じ、5年間本気で運営した上での総売上1,240万円。年商ではなく累計である。
施策と結果——CPA500円の広告が「合わない」理由
本人のnoteが率直なのは、試した施策の結果を数字で書いているところだ。
Google広告は、広告費3万円でスペース60登録、CPA(登録1件あたり広告費)は500円。数字だけ見れば安い。しかし無料から有料へのコンバージョン率は約1%。つまり有料顧客を1件作るのに単純計算で約5万円の広告費がかかる。低単価の月額サブスクリプションでこれを回収するには長い年月が必要で、広告を踏んでもキャッシュが増えない構造だった。
信頼性への投資も行っている。ISO/IEC 27001(情報セキュリティの認証)の取得には審査費用38万円、加えてコンサル費が年間36万円、維持のためのサーベイランス費用が年間15万円かかる。法人導入の安心材料としての投資だが、売上1,240万円(5年累計)の事業規模に対しては軽くない固定費だ。PR TIMESでのプレスリリース配信、ブログや導入事例によるコンテンツマーケティングも実施した。
モバイルアプリはさらに厳しい結果に終わっている。2020年1月に公開したものの、5年経った時点で累計約100インストール。Web版の登録スペースが5,873あることと比べると、投じた開発工数に対する回収は最も悪い施策だったと言える。タスク管理という用途はモバイル対応が「あって当然」と見なされがちだが、個人開発のリソースでは、期待値の割に数字がついてこない領域になり得る。
2022年10月の料金改定とフリープラン制限は、売上を押し上げた一方で、その後Webのトラフィックとコンバージョン率は下がった。無料ユーザーの一部はプラン変更を余儀なくされた。売上と流入のトレードオフがはっきり出た施策だった。2024年時点のWeb流入は1日30人前後まで落ちている。
敗因の自己分析は「知らないから」
機能が悪いのか、価格が高いのか。本人の結論はもっと手前にある。試行を列挙した上で、知ってもらえない理由は「『知らないから』に尽きます」と書いている。
この総括は、機能開発を5年続けた当事者の言葉として重い。作り込みでも価格でもなく、認知の階段を登れなかったことを敗因の中心に置いている。
タスク管理は、無料の選択肢も海外の大手も無数にあるカテゴリだ。そこでは「存在を知られること」自体が最大の関門になり、プロダクトの質はその後にしか効かない。CPA500円で登録は買えても、比較検討の末に有料化するのは1%。この数字は、認知の弱いプロダクトが激戦カテゴリで戦うときの現実的な変換効率を示している。同じ1人SaaSでも、開発者向けノートアプリで熱量の高いニッチを取ったInkdropの事例や、シンプルな監視ツールを長期運用するHealthchecksの事例は、カテゴリ選択の段階で競争の密度が違う。
一方で「大失敗」という自己査定は、スタートアップ(急成長する事業)としての基準によるものだ。5,873チームが登録し、今も毎日新しいスペースが作られ、5年間サービスを止めずに運営し続けている。趣味の個人開発としては大成功、という前半の自己評価も、数字に照らせば誇張ではない。
再現の条件と限界
この事例の持ち帰りどころは、なにより「実数を伴う施策の検証記録」としての価値だ。広告のCPAと無料→有料転換率、認証取得の実費、料金改定の副作用、個人開発SaaSを検討する人が事前に知りたい数字が、推定ではなく実測で並んでいる。
限界もはっきりしている。カテゴリの問題がひとつ。これは激戦カテゴリ(タスク管理)を選んだ場合の数字であり、ニッチを選べば変換効率は変わりうる。投資の順番の問題もある。ISO認証のような信頼性投資は法人契約が積み上がる局面でこそ効く先行投資であり、認知が立つ前に固定費として抱えると重さだけが残る。順番の問題として読むべきだろう。そして生活費の問題。退職してフルタイムで挑む形は、売上が立つまでの生活費を貯蓄で支える前提になる。Repsonaの初月売上は9,900円で、これはβ公開からさらに4ヶ月後のことだ。30万ユーザー規模まで個人で運営した割り勘アプリWalicaの事例にも見られるように、個人開発では「生活を何で支えるか」の設計がプロダクトの設計と同じくらい結果を左右する。
最後にもうひとつ。5年間の総売上1,240万円という数字は、失敗の証明ではなく「この条件でここまで届いた」という実測点でもある。フルタイム1人・広告小規模・激戦カテゴリという条件がひとつでも違えば、同じ努力量でも着地は変わる。なお、Repsonaは現在も運営中であり、この帳簿はまだ閉じていない。「大失敗」と書ける当事者の記録が公開され続けていること自体が、後続の個人開発者にとっての公共財になっている。
出典
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