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Inkdrop、月$4.99のMarkdownノートで月15万円。PRメールをやめ、無料プランを置かなかった個人開発SaaSの2年

日本人開発者TAKUYA氏のInkdropは、公開約2年で月15万円の売上に到達。2019年8月には単月95万円も記録した。プライベートβ1,000人、60日間の無料トライアル、freemium拒否、PRメールの停止——数字と一緒に判断の理由が公開されている。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

Inkdrop、月$4.99のMarkdownノートで月15万円。PRメールをやめ、無料プランを置かなかった個人開発SaaSの2年

月商15万円は、月商を公開している掲載227件のうち下から17%。掲載全体の月商中央値は157万円です(データ集計)。

ノートアプリは、個人開発では選んではいけない領域だとよく言われる。EvernoteもNotionも標準メモも無料で使えるからだ。日本人開発者のTAKUYA氏は、その領域で開発者向けMarkdownノート「Inkdrop」を作り、無料プランなし・月$4.99のサブスク一本で売った。公開から約2年後の2020年2月時点で売上は月15万円。決して派手な数字ではないが、そこに至る施策と捨てた施策が本人のブログに具体的に残っており、個人開発サブスクの初期2年の実像として読む価値がある。

数字の整理

項目数値(出典時点)
価格月$4.99 / 年$49.90
無料トライアル60日
プライベートβ登録1,000人超
売上(2019年半ば)月4万円前後
売上(2019年8月)単月95万円
売上(2020年2月)月15万円
有料ユーザー累計500人到達(同記事の主題)
体制1人

バズの月は、水準を変えない

推移の中で異彩を放つのが2019年8月の単月95万円だ。平常月の6倍以上にあたる。ところが半年後の水準は月15万円で、バズは一過性のスパイクとして通り過ぎている。年額プラン($49.90)の前受けが集中したバズ月の売上は、月次の実力値とは別物だ。この乖離は、露出が跳ねた月の数字を「新しいベースライン」と誤読しやすい個人開発者にとって、具体的な教材になる。

この読み違いは実害を生む。バズ月の数字を基準に専業化や外注化を決めれば、翌月から固定費だけが残る。TAKUYA氏がバズの後も体制を1人のまま動かさなかったことは、結果的に正しいリスク管理だった。

ベースラインを動かしたのは、地味な施策の積み上げである。プライベートβをHacker Newsで告知して1,000人超のテスターを集め、公開後は技術ブログを書き続けた。日本語の記事1本がはてなブックマーク800超を集め、400人超の新規登録に繋がったことも記録されている。開発の知見を無料で公開し、その読者がユーザーになる。広告費ゼロのコンテンツ経由の獲得を、日本語と英語の両面で回した形だ。

捨てた施策のリスト

この事例の価値は、やらなかったことの明細にある。

まず、メディアやブロガーへのPRメール送付をやめた。時間対効果が合わないと判断し、その時間を開発と技術記事に回した。次に、パブリックβを採用しなかった。無料で広く配ってから課金に切り替える定石を避け、最初から「買う人」だけを相手にした。freemiumも値下げもしていない。無料の代替が無限にあるノートアプリ市場では、無料プランは競合との消耗戦に自分から参戦することを意味する。代わりに置いたのが60日という異例に長い無料トライアルで、ノートアプリは習慣として定着するまでに時間がかかるという製品特性に合わせた設計だ。

機能面でも、要望に応じて足すのではなく削る方針が貫かれ、批判を受けても品質優先で進めたことが書かれている。サポートは即レスを徹底し、バグは数日で直す。1人だからこそ、対応速度そのものが差別化になる。EvernoteやNotionのサポート窓口と、開発者本人が数時間で返してくるサービスとでは、月$4.99の意味が変わる。大手の無料と戦わず、大手が構造的にできないこと(開発者本人との距離)を単価の根拠にした形だ。

もうひとつ特徴的なのは、市場の選び方が「日本人が英語圏に売る」構造になっていることだ。ブログもプロダクトも基本は英語で発信し、Hacker Newsという英語圏の開発者コミュニティを初期テスターの供給源にした。開発者向けツールの市場規模は日本語圏と英語圏で桁が違う。単価$4.99のニッチサブスクが月15万円まで積み上がったのは、分母の大きい市場を最初から選んだからで、同じ製品を日本語圏だけで売っていれば、この水準に達するのはずっと遅かったはずだ。一方で日本語の技術記事も併用し、はてなブックマーク経由の流入(1本で登録400人超)を拾っている。二つの言語圏を「発信の内容」で使い分ける形である。

月15万円という水準の読み方

月15万円は、専業の生活が安泰になる数字ではない。ただしこれは公開2年時点・値上げ前の単価$4.99での数字であり、サブスクの性質上、解約されない限り積み上がっていく。同じ個人開発でも、無料+広告モデルで100万ユーザーを集めたPomofocusとは対極の設計で、ユーザー数の規模を捨てて単価と継続を取った形だ。低単価サブスクを1人で成立させている点では、監視SaaSを長年1人で回すHealthchecks.ioが近い。

累計500人の有料ユーザーという規模感も、この記事の実用的な部分だ。公開2年・βテスター1,000人超という入口の数字に対して、有料転換して定着したのは500人。開発者向けの有料ツールは「認知した人の大半は買わない」前提で、それでも成立する固定費(1人・自宅・外注なし)に構造を合わせている。

リスクも単価設計に由来する。$4.99×必要な生活費を逆算すると、数千人規模の有料ユーザーが要る。ニッチな開発者向けツールでその母数に達するには時間がかかり、その間に大手が同等機能を無料で出す可能性は常にある。実際、この記事の数字は2020年2月時点のもので、その後の水準は本稿の出典からは分からない。

再現の条件と限界

個人開発の値付け全般に効いてくるのは、①無料の巨人がいる市場では、freemiumではなく「払う人だけの市場」を最初から選ぶ、②製品特性に合わせてトライアル期間を設計する(習慣系は長く)、③集客は広告やPRではなく、自分の専門知識の公開で行う、の3点だ。

限界も明確で、この型は「作者自身がターゲットユーザーの技術コミュニティに属していて、書ける」ことが前提になる。技術記事が書けない領域では③のエンジンが動かない。また、月4万円の期間を耐える生活基盤がなければ、2年の助走そのものが成立しない。サブスクの積み上げは遅い。それを知った上で、集客の近道(PR・無料化・値下げ)を全部断って開発と発信に張り続けられるかどうかが、この事例の再現条件のほぼすべてである。ソロ・副業の月商がどこまで伸びうるかの分布はこちらのコラムにまとめている。

出典

本記事は上記の公開情報の要約と独自分析です。 詳細は必ず出典をご確認ください。

この記事は、出典として「Small Start(small-start.com)」の明記と本ページへのリンクがあれば、ニュース・ブログ・生成AIの回答などで自由に引用・転載できます(事前連絡は不要です)。 転載・引用について →

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