海外事例 売却済み

Pura Vida、コスタリカで仕入れた400本から年商$68M。持分75%を$75Mで売った6年後、親会社はこの事業を$1Mで手放した

コスタリカ旅行で400本のブレスレットを発注したところから始まったPura Vidaは、9年で年商$68Mに到達し、持分75%を$75Mで売却した。だが買い手のVera Bradleyは累計$85Mを投じた末、2025年にこの事業を$1Mで手放している。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

Pura Vida、コスタリカで仕入れた400本から年商$68M。持分75%を$75Mで売った6年後、親会社はこの事業を$1Mで手放した

2010年、大学を出たばかりのGriffin ThallとPaul Goodmanは卒業旅行でコスタリカにいた。そこでJorgeとJoaquinという二人の職人が編むブレスレットに出会い、400本をまとめて発注して持ち帰る。米サンディエゴからオンラインで売り始めたのがPura Vidaの始まりだ。

9年後、この事業は年商$68Mに達していた。2019年7月、バッグブランドのVera Bradleyが持分75%を現金$75Mで取得し、さらに2019暦年の業績目標に応じた最大$22.5Mのアーンアウトを付けた。Thall氏がポッドキャストBuilt to Sellで語ったところによれば、この価格はその年の調整後EBITDAの約9倍にあたる。二人は外部から一切の出資を受けておらず、売却の瞬間まで持分を100%保有していた。

ただし、この事例を「400本から$75M」というサクセスストーリーとしてだけ読むと、後半を読み違える。買い手はその後、この事業をほぼ全損に近い形で手放している。

何が売れ、何が売られたのか

時期出来事数字
2010年コスタリカで職人に発注、サンディエゴでオンライン販売開始初回発注400本
〜2019年Inc.の全米急成長企業5,000社に選出。チャリティ拠出も積み上げる年商**$68M**/拠出**$1.9M超**
売却時点Instagramフォロワー、契約職人、キャンパスのアンバサダー190万人/1,000人超/10万人超
同定期購入(サブスク箱)が売上に占める比率15%超
2019年7月16日Vera Bradleyが持分75%を取得(現金)+2019暦年の目標達成による追加対価$75M+最大**$22.5M**
同価格水準(本人談)調整後EBITDAの約9倍
2023年Vera Bradleyが残り25%を取得。累計取得額追加**$10M**/累計**$85M**
2024年度Q4四半期売上(前年同期$24.2M)$13.6M(前年同期比**-43.8%**)
2025年3月31日Vera BradleyがPura Vidaを売却(現金+2年間の条件付き対価)現金**$100万**

売り手側の設計として注目すべきは、2019年の契約に「5年経過後を目安に残り25%を取得する権利、および状況によっては義務」が組み込まれていた点だ。創業者にとっては、75%を現金化した後も残り25%の出口があらかじめ約束されていたことになる。実際にVera Bradleyは2023年に$10Mでその25%を取得している。$75Mで75%なら全体評価額は$100Mだが、4年後の残り25%には$10M(全体評価額に直せば$40M)しか付かなかった計算になる。

400本の発注が事業になった理由

この事業のコアは、商品そのものではない。$1〜2で売られている手編みのブレスレットは、コスタリカに行けば誰でも買える。二人がやったのは、その商品を「旅の記憶を身につける」という文脈に置き直し、その文脈を大量の人間に代弁させたことだ。

装置は二つある。ひとつはInstagramで、売却時点のフォロワーは190万人を超えていた。もうひとつは、Thall氏が「10万人超のゲリラマーケター」と呼ぶブランドアンバサダー制度で、これは米国の大学キャンパスに張り巡らされていた。手首に着ける商品は、それ自体が広告面になる。誰かが着けていることが次の購入のきっかけになる商品では、アンバサダーの人数がそのまま広告在庫の枚数になる。

もうひとつの柱がサブスクだ。毎月商品が届く定期購入が売上の15%超を占めていた。アクセサリーのECは基本的に単発購入の積み重ねで、リピートの読みが立ちにくい。そこに継続課金を15%以上載せていたことは、買収価格の算定にも効いたはずだ。売上の予測可能性は倍率に直結する。日本でもハンドメイドアクセサリーを広告投下で月商200万円まで伸ばした事例のように、この分野は集客コストの上下に業績が振れやすい。継続課金はその振れ幅を抑える装置になる。

そして、二人は外部資本を入れなかった。9年間、持分は100%手元にあった。Thall氏の説明では、プライベートエクイティ(PE)からの提案は「創業者側がより多くの持分をリスクに晒す」構造を求めるものだったのに対し、Vera Bradleyは代金の約75%を先に現金で払う条件を出した。事業会社への売却を選んだ理由がここにある。倍率の高さより、いくらが確実に手元に入るかで判断したということだ。

買った側から見ると、この取引は失敗している

ここがこの事例の最も重要な部分になる。売り手にとって最高の取引が、買い手にとっても良い取引だったとは限らない。

Vera Bradleyは2019年に$75M、2023年に$10M、合計$85Mをこの事業に投じた。その後、Pura Vidaの売上は落ちていく。Seaside Retailerの報道によれば、2024年度第4四半期の売上は$13.6Mで、前年同期の$24.2Mから43.8%減っている。そして2025年3月、Vera BradleyはPura Vidaの売却を発表し、3月31日に取引を完了した。売却価格は現金$1M、加えて2年間にわたる条件付き対価がある。Retail Diveによれば、Vera BradleyのCEOであるJackie Ardrey氏は「Pura Vidaの売却は当社の戦略的な進化における重要な一歩だ」と述べている。

$85Mで買ったものを$1Mで売る。なぜこうなったのかを断定できる材料は公開されていないが、事業の性質からいくつか読める点はある。この事業の資産は工場でも特許でもなく、Instagramのアカウントとキャンパスのアンバサダー網、そして「Pura Vida(コスタリカのスラングで『純粋な人生』)」というブランドの温度だった。いずれも創業者の人格と初期のコミュニティに強く紐づいており、所有者が代わったときに同じ効率で回り続ける保証がない。

加えて、SNS発のアクセサリーブランドは流行の賞味期限が短い。ミサンガ型のブレスレットが手首を占めていた時期と、そうでない時期がある。OpenStoreに買われたEC事業の事例のように、小規模ECは買い手が入れ替わっても運営が続く形が珍しくないが、ブランド価値そのものが流行と結びついている場合、買い手が引き継げる資産は思ったより小さい。

ピーク付近で75%を現金化した、という売り手の判断

$75Mという金額は、2019年時点の年商$68Mと調整後EBITDAの9倍という数字に裏打ちされていた。それは当時の事実として正しい。しかしその6年後、同じ事業に付いた値段は$1Mだった。売却時点での価格は、その先の事業の実力までは証明しない。

売る側の意思決定としては、外部資本を入れずに持分を100%保ったまま、業績のピーク付近で75%を現金化した。という一点にほぼ集約される。9年間外部資本なしで持ち堪えられたのは、在庫の仕入れ単価が極端に低く、運転資金の負担が軽かったからだろう。国内でも値上げで粗利を作り直したD2Cの事例が示すように、粗利率の設計はそのまま資金繰りの自由度になる。ハンドメイド系の小規模事業から出発した徳田氏のハンドメイド販売の事例のように積み上げ型で続ける道もあるが、Pura Vidaが選んだのは、積み上げた資産が最も高く評価される瞬間にそれを現金へ変える道だった。

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