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能登の個人塾・寺子屋カレッジ、地震で生徒30名目前から5名へ。それでも4年目に利益137万円が残った固定費構造

石川県・奥能登の個人塾「寺子屋カレッジ」は2021年3月開業。毎年の売上・経費・利益と生徒数を周年記事で全公開している。1年目は売上203万5,500円・利益30万7,500円。2024年の能登半島地震で生徒は30名目前から5名へ激減したが、4年目も純利益137万7,395円の黒字を維持した。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

能登の個人塾・寺子屋カレッジ、地震で生徒30名目前から5名へ。それでも4年目に利益137万円が残った固定費構造

売上が前年から166万3,400円減って、それでも黒字だった個人事業の話をする。石川県・奥能登の田舎町で「自立型個別学習塾 寺子屋カレッジ」を営むゆうき塾長は、2021年3月15日の開業から毎年、売上・経費・利益・生徒数の実数を周年記事としてブログで公開してきた。4年目にあたる2024年は能登半島地震の年で、生徒数は前年末の「大台の30名を目前」から過去最低の5名まで落ちた。地域の商圏そのものが物理的に縮んだ年である。

災害で客の7割以上が消えた地域密着業は、普通なら廃業を考える局面だろう。ところがこの塾の4年目決算は、売上217万7,100円・経費79万4,205円・純利益137万7,395円の黒字だった。月平均の手取りは11万4,783円。生活費として潤沢とは言えないが、事業としては潰れていない。

4年分の決算を並べる

年度売上利益備考
1年目(2021年3月〜)203万5,500円30万7,500円生徒0→23名。経費172万8,000円
3年目(2023年)384万円約275万円(粗利)年末に生徒30名目前
4年目(2024年・地震)217万7,100円137万7,395円(純利益)生徒5名まで減少、経費79万4,205円

3年目の粗利は、4年目記事にある減少幅(粗利で137万6,578円減)から逆算した値だ。売上384万円は本人の記載による。つまりこの塾は3年かけて売上を1.9倍にした直後に、地震で1年目とほぼ同じ水準まで戻されたことになる。

1年目: 月2万円から始まり、1・2月で年収の半分を稼ぐ

1年目の時期月の売上
2021年3月(開業)0円
4月〜6月1万8,000〜2万円
7月5万8,000円
8月(夏期講習)15万1,000円
9月〜12月16万1,500〜21万4,500円
2022年1月(冬期講習)63万8,500円
2022年2月37万7,000円

開業1年目の月別売上は、立ち上がりの遅さと季節性の両方を教えてくれる。3月の開業月は売上0円、4月2万円、5月と6月は各1万8,000円。夏期講習のある8月にようやく15万1,000円に乗り、秋は16〜21万円台で推移する。そして受験直前の2022年1月に63万8,500円、2月に37万7,000円。本人が「1・2月だけで年収の半分を稼いだ」と書くとおり、この2ヶ月で約101万円、年売上203万5,500円のほぼ50%が集中した。

生徒数も同じ形で、開業月0人が4〜6月時点で2人、1年後に23人。うち17人が中学3年生だった。個人塾の売上は「受験学年の在籍数×講習単価」に強く依存し、その受験学年は2月にごっそり卒業していく。毎年3月にリセットがかかる商売だということが、1年目のデータだけで既に読み取れる。

なお1年目は経費172万8,000円(月の固定費10万9,000円+変動費約3万5,000円)を差し引くと利益30万7,500円で、開業費用80万円弱を回収できていない。30年続いた福岡の個別指導塾の承継事例でも新規集客の難しさが語られていたが、無名の新規塾の1年目は「ほぼ食えない」が実測値だ。

地震の年: 5名から20名への回復曲線

2024年1月1日の能登半島地震で、この前提が崩れる。月別の生徒数は1月5名、2月8名、3月13名、4月20名、5〜6月21名、その後も17〜20名で推移した。前年末に30名目前だった在籍は、被災直後に6分の1になり、春までに3分の2の水準へ戻ったことになる。

この曲線は営業の成果グラフというより、地域の生活再建の進み方を在籍数に写したものと読むのが自然だろう。1月の5名は「通える状態にある家庭がそれだけしか残っていなかった」ことを示す数字で、塾側の努力で動かせる変数ではない。2月8名、3月13名、4月20名という戻り方は、避難や転居が落ち着いていく速度とほぼ重なって見える。

回復と言っても、元の商圏が戻ったわけではない。本人の記載によれば、町の小中学生は280名で前年度比およそ2割減、町の人口は1年で448名減った。母数そのものが縮む中での在籍20名は、シェアとしてはむしろ上がっている可能性すらあるが、絶対数の天井は確実に低くなった。売上も前年の384万円から217万7,100円へ、166万3,400円の減少。8月の夏期講習でも32万500円が月間の最大値だった。

耐えられた理由は、売上ではなく経費の側にある

この年を黒字で越えられた理由は単純で、経費が年79万4,205円しかないからだ。内訳は地代家賃48万円(月4万円)、教材費11万6,057円、水道光熱費8万2,400円、消耗品費5万2,416円、通信費2万8,332円、広告宣伝費2万5,000円。損益分岐点が年売上80万円弱の水準にあり、売上が半分近く飛んでも赤字にならない。

低固定費は成長を速くしないが、外生ショックの生存率を決める。これがこの事例から取り出せる一般則だと思う。同じ実店舗でも、コロナ禍で出店先ごと売上が消えたキッチンカーの事例は、固定費が軽かったからこそ「休止」で済んだ。逆に家賃と人件費が重い業態は、売上が戻るまでの数ヶ月を待てずに退場する。寺子屋カレッジの月4万円の家賃は、田舎立地の弱み(母数の少なさ)と引き換えに手に入れた保険として機能した。

集客もこの構造に沿っている。広告宣伝費は年2万5,000円(地元広報誌の有料広告)で、あとはチラシと友達紹介。ウェブ集客に投資しない代わりに、費用がかからない紹介経路に寄せている。

都合の悪い数字も並んでいる

この記録を美談として読むのは正確ではない。まず利益の絶対額は月平均11万4,783円で、塾講師・個人塾経営歴10年以上のキャリアに対する対価としては低い。本人も被災後は仮設住宅で暮らしながらの運営だ。次に、3年目に約275万円あった粗利は4年目に半減しており、地震の打撃は「黒字を維持した」という言葉の内側で十分に大きい。そして町の生徒人口が2割減った以上、在籍30名という3年目の天井には、商圏の縮小が続く限り戻れない可能性がある。

事業を続ける以外の選択肢も、この規模だと限られる。塾は営業権の譲渡事例(福岡の個別指導塾を約4ヶ月で承継した事例など)がある業態だが、それが成立するのは都市部で一定の生徒数がある場合で、母数の縮む田舎の個人塾に買い手が付くかは別問題だ。

この耐久構造が成り立つ条件

  • 売上半減を黒字で越えられるのは、固定費を売上の数分の1(この事例では家賃月4万円・経費年約80万円)に抑えてあるときだけ
  • 受験学年依存の季節商売で資金が回るのは、1〜2月の集中売上を年間の運転資金として平準化できているときだけ
  • 広告費ほぼゼロの集客が機能するのは、競合が少なく紹介が届く小さな商圏に限られる

限界も明記しておく。この事例の黒字は、塾長1人・自分の労働に給料を払わない前提の数字であり、人を雇った瞬間に成立しなくなる。また地震という外生ショックの規模とタイミングは固有のもので、「災害があっても個人塾は大丈夫」という一般化はできない。分かるのは、低固定費の個人事業が最悪の年をどの水準で通過したかという1つの実測値である。

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