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Storemapper、$5を$20にしても新規は減らなかった。ARR $54,000の店舗地図SaaSが5年で売却されるまで

2012年8月、$5/月・有料3人で始まったShopify向けの店舗ロケーター。4か月で価格を$20まで上げても新規は増え続け、2014年8月にARRは約$54,000。無料トライアルは月30件で横ばいのまま、2017年にSureSwift Capitalへ売却された。金額は非公開。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

Storemapper、$5を$20にしても新規は減らなかった。ARR $54,000の店舗地図SaaSが5年で売却されるまで

2014年8月時点のStoremapperのARRは約$54,000、月商に直すと$4,500ほどだった。作者のTyler Tringas氏はこの事業を5年運営し、2017年にSureSwift Capitalへ売却した。売却額は公開されていない。この規模のSaaSが伸びた理由は「機能を足したから」か「顧客を増やしたから」のどちらかに見える。ところが氏が残した数字は、そのどちらも指していない。無料トライアルの登録は月30件前後で横ばいのまま動かず、成長に使った金は2013年まで文字どおり$0。代わりに氏がやったのは、$5だった月額を4か月で$20まで引き上げることだった。新規登録はそれでも増え続けた。

ローンチから2年の数字

時期出来事・数字
2012年8月サンフランシスコ発ブエノスアイレス行きの移動中、乗り継ぎを含む約36時間でMVPを制作。着地後に公開し、初日の有料購読者は3人($5/月)
2012〜2013年新規は月5〜10件のペース。ロゴも専用メールアドレスも無く、パスワード変更も解約機能も無い状態で運用
2013年春顧客約50件、月数百ドル
2013年8月売却を打診。約50通の返信が来たが、現金の最高提示額は年換算売上$20,000の2倍で$40,000
2013年12月MRR約$2,000。稼働は月15時間以内、成長施策への支出は$0
2014年2月共同開発の提携が解消し、再び一人に戻る。ここで初めてStoremapperを優先事項に置く
2014年8月直近4か月でARRが倍増し約$54,000。導入は約500ブランド
2017年ローンチから約5年でSureSwift Capitalへ売却

氏は当時Baremetricsの公開ダッシュボードで実数を出していたが、決済の約70%しかStripeを通っていないため総額はその1.5倍だと本文で断っている。数字を出す側が欠けている部分まで書いている事例は多くない。

4か月で価格を4倍にした

$5という初期価格について、氏は「最初のバージョンがどれだけひどい見た目と手触りだったかを反映した、適当な数字」と書いている。6か月あまり経って機能も見た目も改善したところで、新規向けに80%上げて$9にした。月次の登録数の伸びは落ちず、3か月後にさらに$20へ。4か月で300%の値上げになる。氏の結論は「常に高い価格を試せ」で、A/Bテストの仕組みは組まず、上げて様子を見ただけだという。

率直に言えば、ここは氏の総括をそのまま受け取るべきではない。効いたのは値上げという行為ではなく、値付けが最初から間違っていたことの訂正である。本人が「適当に決めた数字」と書いているとおり、$5には根拠が無かった。店舗ロケーターは一度設置してデータを流し込めば、その店が商売を続けるかぎり外す理由が無い。氏が「解約率が例外的に低い」と書くとおりの性質で、こういう商品の$5は安すぎる。値上げの成否を分けたのは勇気ではなく、商品が置かれている位置だった。

2014年2月以降の倍増も、新機能の追加そのものより、それまで一度も本気の時間を入れていなかった資源配分の是正に見える。氏はローンチから1年半、月10〜15時間という上限を最優先の指標にして運営していた。サポート対応を含めての数字である。

効かなかったものが、きれいに4つ並んでいる

この記事の値打ちは、外れた施策の記録が残っていることにある。

紹介プログラムは丸一日かけて自作した。ユーザーごとの固有リンク、SNSとメールの共有ボタン、Cookieによる計測、特典は1か月無料から3か月無料、最後は永続的なレベニューシェアまで引き上げた。結果は氏の言葉で「このチャネル経由の新規登録は現時点までゼロ、皆無、一件も。クリックもシェアも1つもない」。理由は分からないとも書いている。

成果報酬型で迎えたグロース担当との契約は、第1マイルストーンに届かず約4か月で解消。Odeskで12人を試験的に雇い、店舗ロケーターが必要そうなサイトを探させる試みには約$100を使って撤収した。マスターリストを用意せず「ネットをかき分けて探せ」と指示したのが敗因だと氏は振り返る。製品と集客を引き受ける提携も4か月でほどけた。最大66%まで株式が移る設計だったが、日程調整と合意形成に時間がかかり、開発はむしろ遅くなった。

一方で効いたのは、金のかからない3つだった。ロケーター下部の「powered by Storemapper」リンクは月に数千回のクリックをランディングページへ運んだ。無料トライアルから有料化しない理由を追うと「その機能が無い」と思い込んでの離脱が多かったため、画面のあちこちに操作動画を埋め込んだ。そして現金が尽きかけた2013年のある日、月$9の顧客に年$99への切り替えを案内するメールを1時間で作って送り、初日に11人、翌日に10人が切り替えて2日で$2,000が入金された。

入口は月30件のまま。伸ばしたのは通過率と単価だけだった

氏自身が書いているとおり、無料トライアルの登録数は月30件前後で「ほぼ横ばい」だった。ファネルの上端は動いていない。それでも2013年春に月数百ドルだった売上は、2014年8月にARR $54,000まで来ている。間にあるのは、有料への転換率を上げる作業と、単価を4倍にする作業の2つだけである。

この構造は、集客が弱い一人事業にとって珍しく再現しやすい。上端を増やす仕事は外部の変数に左右されるが、転換率と価格は自分の側の変数だからだ。ただし解約率が十分に低いという条件がいる。氏のいう「一度設置したら、その店が商売を続けるかぎり顧客であり続ける」性質が、単価を上げても顧客基盤が減らない土台になっていた。

値上げの効き方は事業によって逆にも出る。SuperLemonは2人のShopifyアプリで、値上げをやめたほうが伸びてMRR $25,000に届いた。BoltAIは買い切り$19を$79まで上げ、売上より手残りが増えたと記録している。同じ「価格を上げる」でも、効く先が新規数なのか継続なのか手残りなのかは事業ごとに違う。

2013年に$40,000で売らなかったこと

2013年8月、氏は一度Storemapperを売りに出している。人脈とNYCのRubyコミュニティに1通メールを書いただけで約50通の返信が来たが、現金の最高提示額は年換算売上$20,000の2倍にあたる$40,000だった。氏は$80,000程度なら売ってもよいと考えていたので、結局どの話もまとまらなかった。

4年後の売却を扱った記事で、氏はその判断についてこう書いている。「売らなくてよかった。その後の4年で事業は20倍以上に育ったのだから」。2017年の売却額は公開されておらず、「フロリダで中流家庭に育った人間にとっては人生が変わる額」とだけ書かれている。したがってfrontmatterにも売却額は入れていない。この記事で比較できるのは、2013年の$40,000という提示額と、氏が当時つけていた$80,000という自己評価までである。

売り方は仲介を通さない直接交渉だった。2017年3月のMicroConfでSureSwift CapitalのKevin氏と会い、複数の買い手と並行して話を進めて約5か月後に成立している。契約形態は法人ごとではなく資産譲渡で、エスクローに買い手が送金し、ドメインやサーバーを引き渡して買い手が確認したのち資金が渡る。仲介を使わなかった理由は明快だ。仲介業者は取引を早く多く成立させるほど儲かるので、「売らなくてもよい売り手」の代理人には向かない。

同じ規模帯の出口

年商$5万前後のSaaSに買い手が付くのか。Air HRは年商$40,000のHRツールで売却が成立しており、Storemapperが2014年に立っていた水準とほぼ同じだ。買い手の側から見た例では、Plug in UsefulのShopifyアプリ群が同じSureSwift Capitalへ渡っている。マイクロSaaSを束ねて買うファンドという買い手の型が2010年代後半にできあがっていたことが、3件から読み取れる。

氏は売却先を選んだ理由として価格以外を挙げている。SureSwiftは買収を繰り返す前提でファンドを組んでいるため評判を壊す行動が取りにくく、過去に売った創業者に直接確認もできる。一度きりの個人買い手にはこの担保が無い。

2012年のアプリストアの空席と、最後まで出ない売却額

この事業は2012年のShopifyアプリストアという、いま存在しない競争環境で立ち上がっている。氏は「店舗ロケーターくらいあるだろう」と1時間調べて良い選択肢が無いことを確認してから作った。同じ調査を2026年にやって空席が見つかる保証は無い。月10〜15時間という運用も無傷ではなく、サポートの返信を数日単位にまとめたことで何人かの顧客を失ったと氏自身が書いている。

また2017年の売却時にはリモートの小さなチームが日々の運営を回しており、5年間まるごと一人だったわけではない。そして売却額が非公開である以上、この5年がいくらの結果だったのかは、読む側には最後まで分からない。手元に残る比較の物差しは、2013年に断った$40,000と、その後20倍以上に育ったという本人の記述だけである。

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