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CLOUD PAPER:入江慎吾氏のもう一つの売却 — MENTA譲渡の2ヶ月後に見積・請求SaaSもM&A

MENTAをランサーズへ譲渡した入江慎吾氏は、2020年12月、自身のクラウド見積・請求書サービス「CLOUD PAPER」もM&Aで売却した(額非公開)。1人の個人開発者が同年に2件のイグジットを実行した、国内では稀有な記録。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

CLOUD PAPER:入江慎吾氏のもう一つの売却 — MENTA譲渡の2ヶ月後に見積・請求SaaSもM&A

事例の位置づけ

項目内容
サービスCLOUD PAPER(クラウド見積書・請求書作成)
売却時期2020年12月(MENTA株式譲渡の2ヶ月後)
売却額非公開
開発者入江慎吾氏(通算30個の個人開発の一つ)

国内の個人開発でM&Aまで到達した公開事例はまだ少なく、その多くは「代表作を売った」記録である。この事例が異質なのは、代表作(MENTA)ではない方のプロダクトが、しかも代表作の売却からわずか2ヶ月後に売れている点だ。1人の個人開発者が同じ年に2件のイグジットを完了した記録として、国内では稀有なサンプルになっている。

CLOUD PAPERは、入江氏がフリーランス時代に自身の請求業務のために作った見積・請求書SaaS。MENTAが30個目のヒットになる以前から運営されていた「堅実に回る側のプロダクト」だった。

売り手の履歴 — 2008年からの30個

ライフハッカー・ジャパンのインタビューをもとに、売り手側の歩みを整理する。

時期出来事
2008年最初のサービスを開発(入江氏は1982年生まれ、長崎・五島列島出身)
2011年フリーランスに転身。以後、通算30個以上のサービスを開発
初期10個のアプリをリリースするも全てヒットせず。ただしアプリ実績が受託開発の問い合わせに繋がる
転機「自分でビジネスがしたい」と受託を廃止。1年間無収入でも耐えられる蓄えを確保
2020年10月MENTAをランサーズグループへ株式譲渡
2020年12月CLOUD PAPERをM&Aで売却(額非公開)

MENTAはテストユーザー50名の募集に200名の応募が集まり、Twitterでの拡散で「光が見えた」ことが確信になったという。サービス選定の基準は一貫している——「自分が使いたいサービスなら間違いない。自分がユーザーなら、課題がはっきりわかる」。CLOUD PAPERはこの基準の典型で、自分の請求業務という確実に存在する課題から生まれた。この出自が、解約されにくい実用性につながっている。

「主役でない製品」の出口

ポートフォリオの「主役でない製品」にも出口はある。 MENTAという主役の陰で、CLOUD PAPERのような実用SaaSも買い手がつく。派手な成長がなくても、請求業務という消えない需要+既存ユーザー基盤は事業資産として評価される。DashThisの「地味な業務自動化が10億円超」の国内小型版といえる。

見積・請求という領域の性質も効いている。請求業務は事業が存続する限り毎月発生し、一度ワークフローに組み込まれると乗り換えの動機が生まれにくい。トレンドに乗る必要がなく、ユーザーが定着したまま静かに回る。買い手の側から見れば、引き継いだ後の運営コストと収益が読みやすいタイプの資産だ。売り手にとっての「地味」は、買い手にとっての「予測可能」である。

30個のポートフォリオ管理

入江氏は通算30個のプロダクトを作り、29個は当たらなかったと公言している。その中でCLOUD PAPERは「大当たりではないが、実需があり堅実に回る」中間層のプロダクトだった。

ポートフォリオ型の個人開発では、プロダクトは「主役級」「堅実に回る層」「実験・失敗層」に自然に分かれる。重要なのは、この3層それぞれに異なる出口があることだ。主役級は株式譲渡(MENTA→ランサーズ)、堅実層は事業譲渡(CLOUD PAPER)、実験層はクローズ。全プロダクトを同じ基準で「成功/失敗」に二分しないことが、30個作り続けられた理由の一つでもある。実際、初期の「10個全て不発」の時期でさえ、本人は「その失敗も無駄にはなっていない」と語る。アプリ実績が受託開発の受注につながり、生計を支える回収ルートになっていた。失敗層にすら間接的なリターンの経路があった。

売却の経験値は2件目で複利になる

MENTAの譲渡(2020年10月)からわずか2ヶ月後にCLOUD PAPERの売却が成立している。この速度は偶然ではない。1件目で、M&Aの相場観・契約の勘所・移管の段取り・専門家との連携をすべて実地で学んでおり、2件目はその再演で済んだ。

個人開発者にとってM&Aは一生に一度の大事件に見えるが、実際には交渉・法務・移管という再現可能なスキルセットであり、一度経験すると心理的・実務的なコストが桁違いに下がる。最初の売却は金額が小さくても、この経験値の価値を含めて評価する必要がある。CLOUD PAPERの「額非公開の小さな売却」は、その好例として読める。

順序にも意味がある。上場企業グループ(ランサーズ)との株式譲渡を先に完了していたことは、2件目の買い手にとって「この売り手はM&Aの実務を最後まで通せる」という信用情報として機能したはずだ。個人からの事業買収で買い手が警戒するのは、移管の途中で手続きが滞ることであり、直近の完了実績はその不安を直接打ち消す。

1人で30個を支えた仕事の型

複数プロダクトの並行運営がなぜ可能だったのかは、同じインタビューの仕事術に手がかりがある。タスク管理はTodoist。翌日のタスクは前日までに設定し、やり切りたいタスクは「3つまで」に限定する。最も集中できる午前中の3時間はカレンダーをブロックし、その間はメール・チャットに触れない。Slackは送信予約機能で相手の集中も妨げない。本人は自らの仕事スタイルを「行動・一点集中型」と表現する。

30個のポートフォリオと「同時にやるのは3つまで」は一見矛盾するが、実際は逆だ。常に少数へ集中を強制する仕組みがあったからこそ、CLOUD PAPERのような手離れの良いプロダクトが「放置」ではなく「低コスト運営」として維持できたと読める。全プロダクトに均等に力を注ぐ運営では、30個は作れない。

この記録から分からないこと

売却額・買い手・譲渡後のCLOUD PAPERの推移は非公開で、売上規模やユーザー数も開示されていない。従って本件から「見積・請求SaaSはいくらで売れるか」という相場観は導けない。ここで検証できるのは金額ではなく構造((1)非主力の堅実なプロダクトにも買い手が存在した、(2)2ヶ月間隔の2件のM&Aを1人で完了できた)という2点である。金額の相場観が必要なら、内訳まで開示されたDashThisのような海外の開示事例で補うことになる。

再現の条件

一般化できるのは、「自分の業務課題から作る」という選定基準、プロダクトを3層で捉えて層ごとに出口を変える運用、そして小さくても1件目の売却を経験することの複利性だ。請求・見積のような「消えない業務」を対象にしたSaaSが、個人開発でも事業譲渡の対象になり得ることも確認できる。

一方で、入江氏には2008年からの12年・30個という蓄積と、MENTAという代表作の実績が信用として先行していた。無名の1個目のプロダクトが同じ速度で売れるという話ではない。また売却額が非公開である以上、この型に金額の期待値を置くこともできない。

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出典

本記事は上記の公開情報の要約と独自分析です。 詳細は必ず出典をご確認ください。
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