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Adam Wathan、初著書の初週$61,392で会社を辞めた——OSSは無料のまま、周辺の本とコースで年$600K

初の技術書が発売初週に$61,392を売り、それを元手に退職。以後コースが$1M超、共著のデザイン書は2020年単年で約$600,000。OSSは無料のまま、その周辺で稼ぐ構造を10年続けている。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

Adam Wathan、初著書の初週$61,392で会社を辞めた——OSSは無料のまま、周辺の本とコースで年$600K

無料で配っているものが有名になるほど、有料のものが売れる。という構造を、Adam Wathanほど長く回している人は多くない。

彼が作ったTailwind CSSは、2017年からオープンソースとして無料で公開されている。一方で彼の収入は、その周辺にある技術書とオンラインコース、そして有料のUIコンポーネント集から来ている。OSS本体は一度も課金対象になっていない。

出発点は2016年だ。PHP開発者向けの初の技術書『Refactoring to Collections』を出したところ、発売初週で$61,392が入った。彼はIndie HackersのAMAで、この売上を見て会社を辞めたと書いている。

公開されている数字の時系列

時期出来事金額
2016年初の技術書『Refactoring to Collections』初週$61,392
2016年Laravel向けTDDコース累計$1M超
2017年Tailwind CSSをOSSとして公開無料
2018年Advanced Vue Component Designコース約$300K
2018年12月Steve Schoger氏との共著『Refactoring UI』累計$2.5M超(2022年時点)
2019年1月Tailwind CSSに専念、情報プロダクトの売上で生活—
2020年Tailwind UI(有料コンポーネント集)ローンチ初日$400,000
2020年Refactoring UIの単年売上約$600,000
2020年事業全体「安定してmid-seven figures/年」
2022年9月Tailwind UI「年七桁ドルで成長中」

金額はすべて本人の年次総括とAMAでの記載による。注意すべきは、2016年の初週$61,392を出した本と、2018年の『Refactoring UI』は別の本だという点だ。前者はPHPのコレクション操作の本、後者はエンジニア向けのデザイン指南書で、共著者はデザイナーのSteve Schoger氏である。

無料のOSSと有料の本が同居できる理由

この事業でいちばん効いているのは、売っているものとタダで配っているものが、同じ問題の別の層になっていることだ。

Tailwind CSSはCSSの書き方を変えるツールで、無料で配ることでしか普及しない。フレームワークに課金すれば採用が止まる。一方、Tailwindを入れた開発者が次にぶつかるのは「で、どう並べれば見た目が良くなるのか」であり、それはツールではなく知識の問題になる。ここに『Refactoring UI』が置かれている。さらにその次、「毎回ゼロから組むのが面倒」に対して有料のTailwind UIが来る。

つまり無料のツールが問題を解決するたびに、その一段上の問題が有料商品の市場になる。広告を買わずに済んでいるのはこの構造のおかげで、2020年の総括でも新規顧客獲得のための出稿の話は出てこない。集客はOSSの利用者と、本人が長く書いてきた文章・ポッドキャスト・SNSの読者から来ている。

OSS作者の収益化という点では、スポンサー収入だけでOSSを支える日本の事例と比べると対照が鮮明になる。寄付・スポンサーは善意の総量に上限があるが、Wathan氏は「OSSに感謝している人」ではなく「OSSで作業している人」に商品を売っている。支払いの動機を感謝ではなく必要に置き換えたのが、金額の桁を変えている。

効かなかったもの

成功譚だけを並べると見えなくなるので、本人が失敗として挙げているものを拾う。

AMAで彼は、実際にローンチした唯一の本当の失敗はNitpick CIというサービスだったと書いている。加えて、履歴書アプリ、リンク共有のソーシャルネットワーク、決済・売上税のツールは、そもそも完成・公開に至らなかったとしている。書籍とコースで連勝しているように見える人物が、ソフトウェア側では複数回外しているという事実は、この事業の再現性を測るうえで重要だ。

2019年の総括も率直だ。財務的には過去最高の年だったとしつつ、「新しい収入源をひとつも作れなかった」ことを残念な点として挙げている。既存商品が売れ続けているだけで、事業としては横ばいだったという自己評価である。

さらに2020年、彼はポッドキャストのスポンサー受け入れをやめている。額にして年約$50,000。理由はスポンサー管理の煩わしさが割に合わなかったからだ。年$50,000の確実な収入を、運用コストを理由に捨てる判断ができるのは、他の収益が桁で上回っているからであって、順番を逆にはできない。

体制の変化

2020年は人の話でもある。年の初めはWathan氏とSchoger氏の2人だったが、年末には常勤4人になった。6月にBrad Cornes氏(Headless UIの開発を主導)、年央にRobin氏(開発)とSimon氏(コミュニティと教育)、9月下旬にアクセシビリティの専門家であるDavid氏が加わっている。2022年9月のAMA時点では7人。

同じ2020年の総括に、パートナーシップの交渉が全員の納得する条件に至らず立ち消えになったことも書かれている。人を増やす一方で、外部との資本・提携の話は成立させていない。ブートストラップのまま7人まで来たということだ。

Tailwind界隈の周辺市場という点では、有料UIコンポーネント集で事業を作った例も同じ地層にある。無料のCSSフレームワークが広がった結果として、その上に載せる完成品が売れる市場が生まれている。

初週$61,392は、Tailwindが広まる前の2016年の数字だった

この構造の順番は逆から作れない。Tailwind CSSが普及したのは2017年以降だが、$61,392の初週売上は2016年である。つまり最初の資金は、OSSの知名度ではなく、それ以前に書いてきた文章とポッドキャストで作った読者から出ている。「有名なOSSを作ってから本を売る」ではなく、「読者を作る → 本を売る → 生活費を確保する → OSSに専念する」という順で進んでいる。2019年1月にTailwind CSSへ専念できたのも、情報プロダクトの売上で暮らせていたからだと本人が書いている。

もうひとつ、単価と対象が噛み合っている。買い手は開発者で、書籍やコースの支出を仕事の投資として処理する層だ。同じ設計を一般消費者向けにやると、この価格帯は通らない。日本のコース販売でも8回外して3回当てた記録があるように、当たり外れは題材と読者層で決まる部分が大きい。

ここに出ている金額は、いずれも本人が公開した時点のスナップショットで、Refactoring UIの$600,000は2020年単年、Tailwind UIの「年七桁ドル」は2022年時点の記述である。直近の数字は公開されていない。また事業全体の「mid-seven figures」は幅のある表現で、利益ではなく売上を指している。人件費が7人分乗った後の利益率は分からない。

それでも記録として残るのは、無料のツールを一度も有料化しないまま、その周りの層を10年売り続けているという一点だ。OSSの収益化を「本体に課金するか、寄付を募るか」の二択で考えている限り、この解き方は出てこない。

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