海外事例 運営中

Yolo Intel、紙は収支トントン、ニュースレターで月商$20,000の二段構え

雑誌業界25年のYolanda Edwards氏が失業後に創刊した旅メディア。紙の『Yolo Journal』は収支トントンだが、2021年6月に始めたSubstackの『Yolo Intel』が月商$20,000に。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

Yolo Intel、紙は収支トントン、ニュースレターで月商$20,000の二段構え

月商300万円は、月商を公開している掲載227件のうち上位43%。掲載全体の月商中央値は157万円です(データ集計)。

失業した編集者が見つけた「穴」

Yolanda Edwards氏は雑誌業界に25年いた。主戦場はCondé Nast TravelerとMartha Stewart。キャリアの出発点は1990年代のフォト部門で、写真家が次々とポートフォリオを持ち込んでくる場所だった。そこで彼女が得た確信が、のちの事業の設計思想になる。「実際に世界を歩いている表現者のほうが、書き手よりもずっと情報量が多くて面白い」。

職を失ったあと、友人たちから繰り返し同じことを言われた。「私が欲しい種類の旅行情報をくれる媒体が存在しない」。新しくできた店やホテルを網羅する既存の旅メディアではなく、信頼できる人が実際に使ったものだけを絞って教えてくれる媒体。彼女はその穴に、まず紙の雑誌で飛び込んだ。そして2年後、収益の柱になったのは紙ではなくニュースレターのほうだった。

数字で見るYolo

項目数字
ニュースレター月商$20,000
紙雑誌『Yolo Journal』年3号、収支はトントン
1号あたりの制作費$180,000 → $25,000(約2,700万円→約375万円)
Instagram@yolojournal で95,000フォロワー
体制創業者1名+副編集長1名+編集アシスタント1名(2022年夏に加入予定)
広告収入ゼロ(意図的に取らない)

創刊から現在までの流れ

時期出来事
1990年代〜Condé Nast Traveler、Martha Stewartなどで25年間、雑誌編集に従事
失業後友人の「欲しい旅情報を出す媒体がない」という声を市場の穴と判断
2019年2月紙雑誌『Yolo Journal』創刊。イタリアのMezzatorreホテル開業に合わせてお披露目。Vogue出身のデザイナー Nobi Kashiwagi氏と制作。原資はコンサル業の収入と、倒木で下りた保険金
創刊初期自宅から世界中へ雑誌を発送。品質管理が破綻し、印刷所に直接配送を任せる方式へ変更
2021年6月Substackで有料ニュースレター『Yolo Intel』を創刊
創刊後3か月以上Substackに有料機能がなく、無料版と有料版を毎週2本ずつ書き分ける運用を継続
Substackが有料機能を実装無料版を月2〜3本に絞り、有料と無料を明確に分離
2021年秋副編集長を採用
2022年イタリア靴のカプセルコレクションを展開。物流はShip Monkへ。国際発送は米国内発送に限定

二つの媒体が、別々の読者を連れてくる

Yoloは紙・ニュースレター・SNSの三層で動いている。興味深いのは、Edwards氏自身が「三つはまったく別の顧客層を集めている」と驚いていることだ。雑誌の読者はニュースレターの存在を知らず、Instagramのフォロワーは雑誌を知らない。同一ブランドの下にあっても、媒体ごとに顧客は分断されている。

紙は収益源ではない。年3号で収支はトントン。ただし置かれる場所が効いている。Swiss Airのラウンジ、プライベートジェットのAero、そして厳選された小売店やホテル。「旅の直前」「移動中」という、旅行情報への欲求が最も高い瞬間に読者の手元にある。紙は稼ぐための商品ではなく、購買意欲が最大化した文脈で読者に出会うための配置装置になっている。

収益はニュースレター購読料が中心で、加えてSotheby’s、Matches Fashion、Loro Pianaといったブランドとのコンテンツ提携、Scarossoとのトラベルスリッパ、Parker Thatchとのトートといった商品コラボが乗る。広告枠は売らない。Condé Nast時代に「予算文化」が無駄な支出を促し、広告主が誌面を左右する構造を見てきたことが理由だ。

潮目が変わったのは、Substackが有料機能を出した日

この事業の転機は明確に特定できる。Substackが有料購読(ペイウォール)機能を実装した瞬間である。

Yolo Intelを始めた2021年6月時点で、Substackにはまだ有料と無料を分ける仕組みがなかった。そこでEdwards氏は、無料版と有料版を毎週2本ずつ、3か月以上にわたって別々に書き続けた。本人の言葉はそっけない。「毎週2本の別々のニュースレターを、少なくとも3か月書いた。本当に大変だった」。

ペイウォールが実装されると、この二重執筆は不要になった。無料コンテンツは月2〜3本に減らし、浮いた時間を有料版の密度に振り向けられるようになる。同時に、無料と有料の境界がユーザーから見て明確になったことで転換率が大きく改善した。

前後を並べると構造が見える。転機の前は「同じ労力で二つの媒体を回し、しかも読者からは違いが見えない」状態。転機の後は「労力は半分、境界は明確」に変わった。プラットフォーム側の機能追加という自分ではコントロールできない出来事が転機だったわけだが、重要なのはその機能が来る前に3か月分の実績と読者を積んでいたことだ。ペイウォールが実装された日にゼロから始めた人と、すでに毎週2本を届けていた人とでは、その日から得られるものがまったく違う。

もう一つ、購読者数が跳ねた瞬間も記録されている。Jenny Rosenstrach氏のSubstack『Dinner a Love Story』で「Ask Me Anything」の相談窓口を担当したところ、一つの午後で数千人の新規購読者が入った。自分の媒体を宣伝したのではなく、他人の媒体で読者の質問に答えただけである。

なぜこのやり方が効いたのか

核にあるのは、**課金対象が「情報」ではなく「編集判断」**である点。ネット上に旅行情報は無限にあり、無料で手に入る。Yolo Intelが売っているのは情報そのものではなく、25年間プロの編集者として「何を載せないか」を決め続けてきた人の絞り込みだ。網羅ではなく排除に価値がある領域では、供給が増えるほど編集判断の価値は上がる。

同時に、売り込まないことが購読モデルと噛み合っている。Edwards氏は「私は売ることに極度のアレルギーがある。好きなこと(良いコンテンツを作ること)に時間を使い、それに語らせたい」と言う。買い切り商品なら押しの強さが効く場面もあるが、月額課金は「毎回届くものが期待を上回るか」だけで継続が決まる。「とにかく良いものを作って、期待を超える」という彼女の方針は、精神論ではなく購読ビジネスの継続率に直結する運用方針だ。無料のコミュニティイベント(ネグローニやワインが出る)やInstagramストーリーの持ち回りも、販売ではなく関係の維持に使われている。

紙の原価構造を作り替えたことも、事業全体を生かした。1号あたりの制作費を$180,000から$25,000へ、7分の1以下に下げている。手段は写真素材のパートナーシップだ。Condé Nast時代の人脈で写真家から作品を提供してもらい、写真家との会話を書き起こしてインタビュー記事にする。大手出版社なら撮影に数万ドルを投じる工程を、関係資産で置き換えた。紙が赤字を垂れ流していたら、ニュースレターに時間を割く余裕は生まれなかった。

うまくいかなかったこと

配送は一貫して弱点だった。創刊初期は自宅から世界中へ発送していたが品質管理が破綻し、印刷所からの直送に切り替え、さらにShip Monkへ移した。最終的に国際発送は米国内からの発送に限定している。本人も「学んだ最大の教訓は流通についてだ。人が『流通モデル』と言うとき何を指しているのか、以前はまったく分かっていなかった。今なら分かる」と振り返る。物販を伴うメディアでは、コンテンツの質より先に物流が事業を殺しうる。

サイト基盤にも不満が残っている。Squarespaceを「もたつく」「顧客体験が悪い」と評し、Shopifyへの移行を計画している。

そして無料版と有料版の二重執筆の3か月。これは避けられた消耗ではないが、プラットフォームの機能不足が個人の労働で埋められていた期間として記録しておく価値がある。

どこまで再現できるか

再現しやすいのは、媒体を分けて役割を変える設計だ。収益を取る媒体(ニュースレター)と、読者と出会う媒体(紙・SNS)を分け、後者は収支トントンでよいと割り切る。読者層が媒体ごとに分断されているという観測も、複数チャネルを持つ個人には有用な前提になる。無料版の頻度を落として有料版に集中する運用も、多くのニュースレターにそのまま適用できる。

再現しにくいのは、25年分の人脈である。写真家から作品を提供してもらい制作費を7分の1にする、Vogue出身のデザイナーと組む、Swiss Airのラウンジに置いてもらう——これらはすべて雑誌業界で25年働いた結果として存在する資産だ。「良いコンテンツを作れば売れる」という方針が成立するのも、その前提の上である。同じ方針を観客ゼロの状態で採ると、単に見つけてもらえないまま終わる。

初期資金の出どころも特殊だ。コンサル業の収入に加えて、倒木で下りた保険金が創刊費用を賄った。本人が「無知でいることには本物の魔法がある。これだけの面倒を事前に知っていたら、Yoloを立ち上げることはなかった」と語る通り、この事業は綿密な計画の産物ではない。

その上で、彼女の助言は簡潔だ。「市場に穴が見えて、それが自分が深く情熱を注げるものなら、やってみるべきだ」。

あわせて読みたい

出典

本記事は上記の公開情報の要約と独自分析です。 詳細は必ず出典をご確認ください。

この記事は、出典として「Small Start(small-start.com)」の明記と本ページへのリンクがあれば、ニュース・ブログ・生成AIの回答などで自由に引用・転載できます(事前連絡は不要です)。 転載・引用について →

近い規模・近い業種の事例

この記事が参考になったら、シェアで応援
Xでシェア