事例 売却済み

無職から3事業のオーナーへ。約20件の買い申込・返信率8割で100万円級を積み上げた記録

コロナ禍で退職した30代の吉田さんが、TRANBIで約20件の買い申込(返信率約8割)を出し、神楽坂のレンタルスペース約100万円、千葉のエステ約100万円、フィリピンのコールセンター370万円を連続取得。3件目では成約直後に売上が半減した。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

無職から3事業のオーナーへ。約20件の買い申込・返信率8割で100万円級を積み上げた記録

予算を下げたところから話が動いた

吉田さん(30代)は物流会社に7〜8年勤めた後、体調不良で退職している。次に就いた企業では総務部で株式関連の業務に携わったが、コロナ禍を受けて再び職を離れた。サラリーマン経験しかなく、事業経験も専門知識もない状態から、事業承継プラットフォームTRANBIで買い手として動き始めた。

結果として手に入れたのは3つの事業である。

取得した事業金額内容
神楽坂のレンタルスペース100万円時間貸しスペース運営
千葉のエステサロン100万円店舗型サービス
コールセンター事業(フィリピン拠点)370万円民泊向けの本人確認代行。譲渡希望額350万円に上乗せして提示
買い申し込み20件返信率約8割、うち3件成約
当初の探索レンジ50万〜100万円「最悪失敗しても手数料程度の痛手」で済む価格帯

この事例の転機は、劇的な出会いや大型案件ではない。探す価格帯を50万〜100万円に下げると決めたことである。数字はそれを裏づけている。約20件に買い申し込みを出し、8割から返信が返り、3件が成約した。1件あたりの賭け金を下げたから、申し込みの回数を増やせた。回数を増やせたから、交渉の経験が短期間で積み上がった。

「無職」を弱みではなく条件として出した

もう一つの判断が、自分の状況の提示の仕方だった。吉田さんは無職であることを隠すのではなく、「都合をつけられる」という交渉上の条件として前面に出している。

これは小規模M&Aの現場では効きやすい。売り手はたいてい現役の経営者で、店を回しながら、あるいは本業を続けながら譲渡交渉をしている。面談の候補日は平日の夜か週末に限られ、そこが埋まれば話は先送りになる。買い手が平日の昼でも合わせられるなら、それだけで交渉の順番が前に来る。資金力でも実績でも勝てない買い手が、スケジュール適合性という別の軸で選抜を通過した形である。

姿勢についても記録は具体的だ。低姿勢で誠実に接し、返信がなくても粘り強く連絡する。ただし度を越さない範囲にとどめる。返信率8割という数字は、案件の選び方だけでなくこの接触の仕方の結果でもある。

選ぶ対象にも自己ルールがあった。自走できるビジネスモデルであること、構造を自分で理解できること。無理な金額は避け、自分でコントロールできる範囲に収める。加えてコロナ禍で相場が落ちていた案件に狙いを定めている。時期そのものが買い手に有利だった局面である。

3件目で価格を上乗せし、そこで躓いた

3つ目のコールセンター案件では、それまでと違う動きをしている。譲渡希望額350万円に対し、20万円高い370万円を提示して独占交渉権を取りにいった。他の買い手候補を排除し、交渉時間を確保するために20万円を払った判断である。

ところが成約後の2021年3月、3月末で契約解除が決まっている顧客が複数存在することが判明した。売上は元々の想定から半減している。上乗せして買ったのは「排他的に交渉できる時間」だったはずだが、その時間を顧客の解約予定を確かめる作業には使えていなかった。

救いになったのは契約書の一文である。重大な過失があった場合は協議のうえ金額を変更できるという条項が入っており、これを根拠に返金を求めたところ、売り手が応じた。減額で決着している。ここで参照されたのが、東京都事業承継・引継ぎ支援センターの弁護士無料相談だった。仲介も顧問弁護士も持たない個人の買い手にとって、公的機関の無料相談が唯一の法務リソースとして機能している。

なぜこの積み上げ方が成立したのか

三つの要素が噛み合っている。

第一に、失敗コストの上限を先に決めたことだ。50万〜100万円という価格帯は、「最悪失敗しても手数料程度の痛手」と本人が表現する水準である。損失の上限が読めていると、意思決定が速くなる。速く決められるから申し込みの本数を出せる。本数が出るから当たりに行き着く。金額の小ささが、そのまま試行回数に変換されている。

第二に、自走する事業だけを選んだこと。レンタルスペースもエステもコールセンターも、オーナーが毎日現場に立たなくても回る形態である。コールセンター事業について、吉田さんは毎日の稼働件数と結果報告を確認するだけで、営業活動はパートナー企業(民泊向けセルフチェックインサービスの提供元)が担っている。オーナーの時間を消費しない事業しか買わないと決めていたから、3件を並行して持てた。逆に言えば、1件でも手のかかる事業を掴んでいたら2件目以降には進めなかった。

第三に、交渉そのものが学習になった点だ。回数を重ねることで論点の見当がつくようになり、成約に至らなかった売り手ともつながりが残った。そうした相手から後日アドバイスをもらえる関係になっており、不成約が単なる損失で終わっていない。約20件のうち成約は3件だが、残り17件は無駄ではなく授業料ゼロの練習台として機能した。

見落とせないリスク

最大の教訓はコールセンター案件そのものにある。契約前に、既存顧客の継続意思を確認する手続きが抜けていた。小規模事業の売上は数社の顧客に集中していることが多く、そのうち1〜2社の解約で半減する。買い手が見るべきは過去の売上実績ではなく、契約の残存期間と更新見込みだった。しかもその確認を怠ったまま、独占交渉権のために20万円を上乗せしている。情報を得る前にプレミアムを払った順序の問題である。

返金交渉が成立したのは、契約書に金額変更の条項が入っていたからで、これがなければ丸ごと損失になっていた。個人間の小規模M&Aで、契約書の一文がどれだけの金額を守るかを示す例である。

時期の有利さも見ておく必要がある。コロナ禍で売り急ぐ売り手が増え、相場が下がっていた局面での取得であり、同じ価格帯で同じ質の案件が常に出ているわけではない。

再現できるもの、できないもの

再現できるのは方法論の部分だ。失敗しても致命傷にならない価格帯を先に決める。オーナーの稼働を必要としない事業に限定する。数を出し、返信が来なくても丁寧に追う。契約書に価格調整の条項を入れる。公的な事業承継・引継ぎ支援センターの無料相談を使う。いずれも資金力や経歴を前提としない。

再現できないのは、条件のほうである。コロナ禍という買い手優位の相場は再現できない。そして「無職である」という交渉上の強みは、裏を返せば収入がない期間に耐えられる生活基盤があったということでもある。体調不良での退職とコロナ禍での退職という、本人が選んだわけではない経緯の上に成り立った時間でもあり、これを戦略として推奨できるものではない。取材時点でも、コールセンター事業の売上改善はパートナー企業との営業戦略づくりの途上にあり、エステの集客施策を先に進めている段階だった。3事業のオーナーという肩書きの内側は、まだ立て直しの最中である。

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出典

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