システリア、広島のレンタルスペース2拠点を480万円で譲渡——「直近年間利益の2年分+什器代」という値付けの中身
2人で50万円ずつ出して2店舗から始めたレンタルスペース事業は、約2年半で最大43店舗になった。そこから切り出した広島市内2拠点の譲渡額は480万円。値付けの根拠と、申し込みが減る価格帯まで売り手が語っている。
執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)
レンタルスペース事業の売却は、いまや珍しい取引ではない。TRANBIにも同種の案件が常時並んでいる。ただ、売り手が「なぜその金額にしたか」を式の形で明かしている記録は多くない。
株式会社システリア(大阪)の代表・小山諒輔氏と、共同で運営する株式会社エミーナの代表・新嶋美架子氏は、TRANBIの成約事例インタビュー(2023年6月27日公開)で、広島市中心街の2拠点を480万円で譲渡した経緯を語っている。2人が2019年に出し合った元手は合計100万円。そこから最大43店舗まで広げ、いまは29店舗まで意図的に減らしている。
この記事で追いたいのは拡大の武勇伝ではなく、値付けの方だ。「直近年間利益の2年分に什器代を少し乗せる」という単純な式と、「500万円を超えると申し込みが減る」という体感。この2つが、スモールM&Aの買い手側の心理を裏返しに映している。
ここまでの経緯
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2019年6月頃 | 小山氏(当時ハウスメーカー営業・約10年目)と新嶋氏が50万円ずつ、計100万円で2店舗を開設。初月から利益が出る |
| 2019〜2021年 | 利益を全額再投資。約2年半で最大43店舗まで拡大 |
| 2020年12月 | 小山氏が退職。個人事業主から法人化し専業に |
| 2023年時点 | 複数回の譲渡を経て29店舗。広島市中心街の2拠点を480万円で事業譲渡 |
出発点が貸会議室ではなくパーティースペースだったのは、東京でその業態が増えているのを見て「必ず大阪にも来る」と読んだからだという。当時の大阪にはパーティースペースがほとんどなかった。新嶋氏は、パーティースペースに強いポータル「スペースマーケット」の開始が2014年で、そこから徐々に増えてきた、と時期を補足している。
「年間利益の2年分」で価格が決まる理由
480万円という金額の根拠は、小山氏の説明ではきわめて単純だ。直近1年の利益を2年分に引き延ばし、そこに什器代を少し乗せる。逆算すれば、この2拠点が生んでいた年間利益は200万円台前半ということになる(什器代の内訳は公開されていないため、正確な分解はできない)。
重要なのは、この式が売り手の希望ではなく買い手の許容範囲から決まっている点だ。小山氏は3年分で提示したこともあるが、申し込みが目に見えて減ったという。2年〜2年半分がベストという結論に至った理由を、新嶋氏はこう説明する。レンタルスペースは流行りのビジネスと見られやすく、3年後の姿に不安を持つ買い手が多い。「2年で回収できるならリスクも少ない」と感じてもらえる水準に置く必要がある、と。
もうひとつの境界線は絶対額だ。2人の実感では、500万円を超えると申し込みが少なくなる。実際、当時出していた広めのスペース1件は希望額900万円で、引き合いが一気に減ったという。これは事業の質ではなく、個人・小規模事業者という買い手層の予算上限が引いている線だと読める。同じプラットフォームで買い手側に立った約20件の買い申込を出して3事業を取得した記録を見ても、成約しているのは100万円台〜370万円のレンジで、価格帯の重なりがよく分かる。
集客ノウハウが無いことが、そのまま商品性になっている
売り手自身が「特別な集客ノウハウは持っていない」と明言しているのが面白い。予約はスペースマーケットやインスタベースといったポータルから入る。ポータル側のSEOが強く、自前のサイトで太刀打ちする費用対効果は薄いため、パーティースペースはポータル1本で十分回るという判断だ。
このことは、事業の弱点であると同時に、譲渡時の強みでもある。運営者に属人的なノウハウが溜まっていないなら、買い手はアカウントと物件と什器を引き継ぐだけで同じ売上を再現できる可能性が高い。個人が買う側に回りやすい業態が生まれるのは、この「引き継ぎ可能性の高さ」ゆえだ。エンジニアが副業3店舗で初年度750万円の副収入を得た事例や、4店舗で月利益36万円という相場観をまとめた事例でも、集客はプラットフォーム依存という点は共通している。
代わりに差がつくのは、物件の取得力と部屋づくりだ。新嶋氏によれば、東京都内では不動産会社に100件電話して許可が出るのは1〜2件。レンタルスペースへの理解がある営業担当を見つけられるかが分岐点になる。そして「成功か否かは立地で7割〜8割決まる」というのが2人の結論である。
コケた店舗の話
拡大の裏で、失敗も明かされている。ひとつは大阪・アメリカ村に作った、内装を黒で固めた尖ったデザインの部屋。コスプレイヤーや若者層を狙ったが結果は振るわなかった。パーティースペースの中心利用者は10代後半から30代の女性であり、一部の層にだけ刺さるコンセプトでは埋まらない、という学びとして語られている。
もうひとつは立地だ。なんば駅から一駅の大国町に、デザイナーズマンションでお金をかけた部屋を作ったところ、初めて赤字を出した。若者が多く住むエリアではあったが、遊びに集まるエリアではなかった。成功の型が見えてきた頃に挑戦した結果の失敗である。撤退ラインを決めないまま損失を膨らませたレンタルスペース2店舗・29か月で約220万円の赤字という記録と並べると、この業態の下振れが立地とコンセプトの読み違いで発生することが分かる。
無人運営のほころびと、引き継ぎの実務
「無人で回る」は完全ではない。清掃は基本セルフクリーニングだが、3〜4組に1回は業者を入れている。それでも年に数件、部屋を荒らされる・嘔吐したまま帰るといった事案が起き、次の利用者からクレームが来る。大阪に多数の拠点があるため他店舗へ振り替えられるが、最悪は返金対応になる。
引き継ぎ面では、想定外の詰まりどころが明かされている。よく聞かれる質問は動画マニュアルで渡せる。予約カレンダーの連携方法もそうだ。ところが譲渡月をまたいで予約が入っている場合、集客サイト上で買い手が新しいアカウントを作ると、ゲストに予約を取り直してもらう必要が出る。準備期間は長いほうがいい、というのが実務上の助言だ。
買い手の見極め方も具体的だ。レスポンスが早いこと、利益の数字だけでなく事業そのものへの具体的な質問が来ること。この2点で真剣度を測り、早い段階でオンライン面談に持ち込む。スモールビジネスの案件には「ノウハウだけを取りに来る」相手が一定数いるため、面談を嫌がる相手は難しい、と新嶋氏は述べている。今回の買い手を選んだ決め手は、人柄と、スペースのすぐ近くに住んでいて管理が行き届くという点だった。
この記録から読み取れること
業種を替えても残るのは価格形成のメカニズムだ。買い手が個人・小規模事業者である市場では、価格は「利益の何倍か」ではなく「何年で回収できるか」と「いくらまで出せるか」の2つで決まる。回収期間は2年前後が受け入れられる上限で、絶対額は500万円あたりに壁がある。売り手がこの2つの制約を先に受け入れて値付けすると、申し込みは集まる。逆に事業価値だけを見て3年分を提示すると止まる。
一方で、この2人の立ち位置までは真似が利かない。彼らは43店舗を作った過程で「成功の型」と物件の取得ルートを持ち、譲渡後も数ヶ月は運営コンサルとして買い手に伴走する体制を付加価値として提供している。単発の1店舗を売る個人が同じ条件を並べることは難しい。また、コロナ禍が定員10人程度の小さな箱にとって追い風だったという時期要因も、そのままの形では再現しない。
なお2人は今後、年間100万円の利益が出る部屋を10室持つより、年間500万〜1000万円を出せる部屋を2〜3室持つほうが効率的だとして、大型スペースへ寄せる方針を語っている。今回の譲渡はその原資と管理負荷の削減を兼ねた動きであり、撤退ではない。売却が拡大戦略の一部として使われている点は、この事例のもうひとつの読みどころだろう。
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