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高田馬場の英会話教室が600万円で成約。買い手は「500万円が妥当」と考えながら満額を出した

開校9か月・生徒35名・黒字化目前の英会話教室が600万円で成約。買い手は自ら500万円が妥当と考えながら売り手の希望額を満額で出し、同じ500万円を提示した競合を退けた。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

高田馬場の英会話教室が600万円で成約。買い手は「500万円が妥当」と考えながら満額を出した

事業を買うとき、いくら出すかは「いくらが妥当か」だけでは決まらない。M&Aプラットフォーム TRANBI が公開している成約者インタビュー(id=153)には、その差がはっきり出た案件がある。東京・高田馬場の英会話教室が600万円で譲渡された取引で、買い手はこう語っている——自分の評価では500万円が妥当だと思ったが、売り手の希望額である600万円を満額で出した、と。

競合していた他の候補者は500万円を提示していた。つまり買い手の「妥当な評価」と競合の提示額は一致していた。それでも売り手が選んだのは、100万円多く払うと言った側だった。

買ったのはソブリンパートナーズ株式会社(髙橋代表)。本業はアンティークコインの販売で、未鑑定のコインを目利きで仕入れ、米国の鑑定会社に送るという業態だ。髙橋氏はこの業界について、紹介と評判だけで数百万円規模の取引が動く信用ベースの世界だと説明している。英会話教室とは何のつながりもなさそうな会社が、なぜ教室を買ったのか。

案件の輪郭

項目内容
対象事業東京・高田馬場の英会話教室
譲渡額600万円
買い手の自己評価額500万円
競合候補の提示額500万円
開校からの期間約9か月
生徒数約35名(月2〜3名のペースで増加)
講師4名(米国人男性1・オーストラリア人男性2・ベラルーシ人女性1)
収支黒字化目前
売り手の譲渡理由ロシア人の配偶者とともにロシアへ移住
使ったサービスTRANBI
打診した案件数約3件

数字を眺めて最初に気づくのは、この教室にはまだ「利益」という値付けの材料がほとんど無いということだ。開校9か月、黒字化目前。つまり利益はまだ出ていない。収益倍率で価格を説明することはできない。

それでも600万円という値が付いたのは、買い手が別のものを買っていたからだ。生徒35名、外国人講師4名、教室、そして9か月ぶんの立ち上げ作業。髙橋氏がやりたかったのは「アンティークコインの顧客である経営者たちが英語で世界と戦えるようにする入口をつくる」ことで、その入口をゼロから設計する時間と手間を、600万円で飛ばした形になる。

「値切らない」が交渉戦術になるとき

小規模M&Aでは、買い手が値を下げにいくのは当たり前の動きだ。この案件でも競合は500万円を提示している。ところがここでは、その当たり前が裏目に出た。

売り手の状況を思い出すと理由が見える。移住が決まっているのだから、この人にとっての最大のリスクは「安く売ること」ではなく「売れないまま出国日が来ること」だ。売り手が価格よりも成約の確実性を重視する局面では、値を下げにいく買い手はそのぶんだけ「交渉が長引きそうな相手」に見える。髙橋氏は満額回答によって、100万円で「この人なら決まる」という印象を買った。

髙橋氏自身、他の買い手候補への助言としてこう述べている。予算に幅を持たせておくこと、想定より多く払ってでも成約させにいくこと、そして売り手が売る理由を徹底的に調べること。3つ目が特に実務的で、業績不振を理由にした売却よりも、移住・引退・後継者不在といった「やむを得ない事情」の案件のほうが譲受後にうまくいきやすい、という経験則を語っている。売り手が困っているのが事業なのか、事業主の生活なのかを見分ける、という話だ。

同じ個人M&Aでも、約20件に買い申込を出して3事業を積み上げた買い手の記録では数を打つ戦略が取られている。一方この案件は打診3件で決着している。数を絞ったぶん、1件ごとの決着力に予算の余地を使った形と読める。

譲受後にまず手を入れたところ

買った後の動きも記録に残っている。24時間の空調稼働、トイレ清掃の徹底、カーペットの新調、子どもの座席の上にあった危険物の撤去、そして床の補修。集客施策ではなく、ほぼ全部が「教室の居心地」の話である。

集客面で挙がっているのは、前オーナーが持っていたYouTubeチャンネルを活かした検索経由の強化くらいだ。譲受後に講師を業務委託で2名追加し、生徒は約35名。

これは小規模な店舗・教室型のM&Aで繰り返し見られる形だと言っていい。引き継いだ直後の買い手には、売上を伸ばす打ち手より先に、前オーナーが後回しにしていた運営品質の穴が見える。設備と清掃は資金も専門知識もほとんど要らず、効果が生徒の継続率という形で遅れて返ってくる。会員約1,500名のダンススクールを譲渡した売り手側の記録や、福岡の個別指導塾を承継した事例と並べると、教室ビジネスの引き継ぎで最初に効くのが「人」と「場」だという共通点が見えてくる。

見えていないリスク

このインタビューは買い手の語りであり、譲受後の売上・利益は公開されていない。判断材料として弱い部分をはっきりさせておく。

講師4名が事業の中核そのものだという点がひとつ。英会話教室で外国人講師が抜ければ、そのクラスは即座に成立しなくなる。譲受後に2名を業務委託で足しているのは体制の厚みを増す動きだが、裏を返せば人員の入れ替わりが起きうる領域だということでもある。

実績が9か月しかないことも大きい。季節変動も、生徒の継続率も、1年ぶんのサイクルを回していない。月2〜3名の増加ペースがそのまま続く保証はなく、譲受後にこのペースが鈍っても、比較できる過去データが存在しない。

さらに言えば、この買収は本業とのシナジーを前提にしている。アンティークコインの顧客に英語講座を届ける、という構想が成立しなければ、600万円は「利益の出ていない9か月の教室」に対する単独の投資になる。純粋な投資回収の目線だけで見ると、この価格の合理性は説明しづらい。

この取引から一般化できること

金額の妥当性と、成約する金額は別物である。これが最も持ち帰りやすい示唆だろう。売り手に時間の制約があるとき、価格の高さは「決まりやすさ」に変換される。100万円の上乗せが、探し直しの数か月を消すのなら、買い手にとっても割高とは限らない。

同時に、この形が誰にでも当てはまるわけではない。ここで満額回答が効いたのは、買い手が本業側に投資回収の道筋を持っていたからだ。教室単体の利益から600万円を回収する計画だったら、100万円の上積みは回収期間に直接跳ね返る。本業とのつながりがない案件で同じ判断をすれば、それは値付けの放棄になりかねない。

そしてもうひとつ。売り手の事情を調べろ、という髙橋氏の助言は、値切るためではなく買った後に何が残るかを知るための作業として読むべきだと思う。移住で手放される事業と、赤字で手放される事業では、引き継いだ翌日に直面する問題がまったく違う。値札の裏側にある理由のほうが、値札そのものより多くを語る。

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