大関産業、「余命2か月」の受託工場を1,300万円で承継——うち1,100万円はアパートの現物、現金は200万円だった
群馬県伊勢崎市の受託製造会社・大関産業が、廃業予定日の約2か月前にTRANBI経由で株式譲渡された。対価は約1,300万円で、うち1,100万円は現物のアパート、現金は200万円。譲受後およそ100日で黒字化した。
執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)
事業承継の記事に出てくる金額は、たいてい「現金いくら」で語られる。この事例はそこが違う。群馬県伊勢崎市の受託製造会社・大関産業の株式譲渡で動いた対価は約1,300万円だが、その内訳は買い手が所有していたアパートの現物譲渡が約1,100万円、現金は200万円だけだった。売り手が最初に希望していた額は3,000万〜5,000万円である。
しかもこの会社には約6,000万円の負債があり、社長は毎年およそ500万円の自己資金を投入して赤字を埋めていた。買い手であるハーツリッチ株式会社(神奈川県のカビ対策事業者)がTRANBI上でこの案件を見つけたとき、廃業予定日は2022年10月。インタビューでは「このM&Aが決まらなければ10月で終わっていた、余命2か月の状態だった」と表現されている。
その状態から、買い手は約100日で黒字に転じさせた。以下は公開されている数字と時系列だけを追ったものである。
取引の条件
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 群馬県伊勢崎市の受託製造会社。敷地約1,700坪、2階建て工場・倉庫 |
| 従業員 | 14名(うち11名が外国籍。主にブラジル系ポルトガル語話者) |
| 財務状況 | 売上減少・赤字継続。負債約6,000万円、社長が毎年約500万円を自己資金で補填 |
| 売り手の希望額 | 3,000万〜5,000万円 |
| 成立した対価 | 約1,300万円(アパート現物約1,100万円+現金200万円) |
| スキーム | 株式譲渡 |
| デューデリジェンス費用 | 約250万円 |
| 期限 | 2022年10月に廃業予定(成約しなければ消滅) |
希望額の3,000万〜5,000万円が1,300万円まで下がったのは値引き交渉が上手かったからではなく、締切が売り手側にあったからだ。廃業予定日が決まっている案件では、時間が経つほど売り手の選択肢が減る。ここでの1,300万円は「事業の値段」というより「廃業を回避するために支払われた最低限の対価」に近い。
専門家全員が反対した案件
この事例で最も示唆的なのは、買い手が雇った専門家の反応だ。会計士・社労士・税理士はいずれも当初この買収に反対している。理由は建物の状態(再生不可と判断された)と利益率の低さだった。
デューデリジェンスには約250万円をかけている。大企業のM&Aを扱ってきた会計士が約200項目の質問を用意し、10枚ほどのレポートに集約した。買い手はその内容を読んだ上で「専門家は絶対に買うなと言ったが、反対の理由は2点に集約されていた」と判断し、実行に踏み切っている。
つまりこの取引は、デューデリジェンスを省いて突っ込んだ無謀な買い物ではない。250万円(対価1,300万円の約19%)を先に調査へ払い、反対意見の中身を分解した上で、残りのリスクを引き受けている。買い手が見ていたのは損益計算書ではなく、約1,700坪の土地の価値と、値上げによる利益率の改善余地だった。
譲受後100日でやったこと
黒字化までの施策は大きく二つに分かれる。
一つは値付けの是正。既存取引先の価格が「競合のサービス・価格と比べてダントツで低い」水準だったため、買い手は主要取引先に値上げを申し入れ、1社から25%、別の1社から30%の引き上げを受け入れてもらっている。取引を切られなかったのは、元の価格が相場から乖離しすぎていたからだ。原価を下げるのではなく、売価を戻すだけで損益が動いた。
もう一つは遊休資産の収益化。建物は30%しか使われておらず、残り70%は物が積まれたままだった。買い手は塗装、人工芝敷き、片付けをDIYで約3か月かけて行い、建物の20%をシェアオフィス「廃墟スタジオ」として貸し出した。ここから年間約100万円の収益が生まれている。それ以前は0円だった空間である。
この二つで、約100日でプラスに転じた。売上を新規開拓で伸ばしたわけでも、人員を削ったわけでもない。既に持っていたもの(取引関係と建物)の値付けを直しただけである。
従業員側の変化も記録されている。日本語を話せる従業員によれば、以前は常に廃業の話を聞かされていたという。新しい経営者のもとで提案が通るようになったことで士気が上がった、と買い手は述べている。14名のうち11名が外国籍という構成の職場で、雇用がそのまま維持された点は、この取引が「清算」ではなく「承継」だったことの実質的な中身だ。
この事例をどう読むか
再現しにくい部分から先に挙げる。買い手のハーツリッチは年商約2億円規模で、日本初とされる二重防御壁の防カビ技術で特許を持ち、年間300万以上のアクセスと3,000件超の問い合わせを自社サイトで受けている事業者だ。承継した工場には防カビ剤の製造スペースを作る構想があり、自社の本業と接続できる見込みがあった。単体の投資として1,300万円の工場を買ったのではなく、本業の製造拠点として買っている。
同じ理由で、この案件は「1,300万円で工場が買える」という話にはならない。負債6,000万円を引き受け、DDに250万円を払い、値上げ交渉と3か月のDIYを実行できる体制があって初めて成立した。地元中心の紹介では買い手が見つからず全国公開で即マッチした創業64年のバックミラー町工場の承継と同様に、こうした小規模案件はプラットフォームに載って初めて条件の合う相手に届く。
一方で移植しやすい発想もある。第一に、赤字企業の損益は「売価が相場から外れているだけ」であることがある。取引先を失う覚悟で値上げを申し入れる前に、まず相場との差を測る。この順番は業種を問わない。第二に、使われていない資産は簿価ではなく用途で見る。70%が物置になっていた建物が、片付けと塗装で年100万円の賃料を生む資産に変わった。第三に、廃業期限のある案件は価格が下がるが、その分だけ実行速度が要求される。無職から3事業を買い集めたTRANBIでの連続取得の記録でも、成約直後に売上が半減した案件があったように、安く買えることと安全に買えることは別の話だ。仲介会社に規模で断られた個人事業がプラットフォーム掲載で30件超の引合いを得た事例と合わせて読むと、小規模M&Aの流通量そのものが増えていることが分かる。
最後に、金額の性質について注記しておく。この1,300万円は現金1,300万円ではない。買い手が持っていた不動産を渡すことで成立した取引であり、同じ条件を現金だけで用意できる買い手は限られる。対価の設計そのものが、この成約を可能にした要因の一つだった。
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