Pinch of Yum、$21.97で始めた収益公開を月$95,197でやめた——66本のレポートが残した内訳
Pinch of Yumは2011年9月の$21.97から6年・66本の収益公開を続け、最後のレポートでは内訳合計で収入$95,197.34・経費$28,505.27。広告$52,313と人件費$19,627が示す、フードブログの伸び方と代償を読む。
執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)
2011年9月5日、ミネソタ州の小学4年生担任だったLindsay Ostrom氏と、非営利団体で働いていた夫のBjork Ostrom氏が、料理ブログの収支を公開する記事を出した。タイトルは「the food blog money making experiment」。その月の収入は$21.97だった。
それから6年、同じフォーマットのレポートが66本積み上がった。最後の1本、2016年11月分に並んでいた項目を合計すると収入$95,197.34、経費$28,505.27になる。5年3ヶ月で、月次の桁が4つ動いたことになる。
Pinch of Yumが珍しいのは、伸びたことそのものではない。頂点に近い数字を出した直後に「もう公開しない」と宣言し、その理由まで記事にしたことだ。ここでは最後のレポートの内訳と、やめると決めた記事の両方を突き合わせて、フードブログという事業の形を読む。
最終レポートに並んだ項目
2016年11月分のレポートは、収入も経費も1行ずつ全額が書かれている。主要な項目は次の通り。
| 収入項目 | 金額 |
|---|---|
| AdThrive(ディスプレイ広告) | $52,313.13 |
| スポンサー記事 | $22,400.00 |
| Bluehost(アフィリエイト) | $5,175.00 |
| Amazonアソシエイト | $4,753.49 |
| Swoop | $3,153.66 |
| AdThrive Video | $2,966.49 |
| Tasty Food Photography(自社電子書籍) | $2,296.80 |
| Gourmet Ads | $1,280.31 |
| その他(sovrn、各種アフィリエイト等) | $858.46 |
| 経費項目 | 金額 |
|---|---|
| スタッフ・給与・外注 | $19,627.96 |
| スタジオ関連 | $3,735.89 |
| 食材費 | $1,587.57 |
| Apple(機材) | $1,210.76 |
| 出張 | $628.66 |
| 電子書籍のアフィリエイト報酬 | $502.25 |
| ドメイン・ホスティング | $354.98 |
| その他(決済手数料、保険、各種SaaS等) | $857.20 |
なお、レポート冒頭に置かれた収入・経費の合計はテキストではなく画像で示されており、ここに挙げた金額はいずれも本文に1行ずつ書かれた項目を足したものだ。同様に、当月のトラフィックもGoogle Analyticsのスクリーンショットとして貼られているだけで、セッション数などの数値は本文中に書かれていない。
広告$52,313が11月に集中する理由
収入の55%はAdThriveのディスプレイ広告である。Bjork氏はこの月のレポートで、11月がフードブログにとって特別な月になる仕組みを2つに分けて説明している。
ひとつは季節性だ。同ブログのトラフィックは11月・12月・1月に持ち上がる。年間で最も多いのは新年の健康志向で伸びる1月だという。もうひとつは広告費の側の事情で、10〜12月のQ4は広告代理店と事業会社の予算消化が重なり、かつ読者側もブラックフライデーからクリスマスまで購買モードに入っている。トラフィックが最大なのは1月なのに、収益が最大化するのは11月。この食い違いが、彼の言う「Q4の広告予算」の効果を裸で示している。感謝祭・ブラックフライデー・サイバーマンデーが5日以内に固まっていることが、ギフトガイド記事とアフィリエイトの当たり月をつくる。
つまりこの$95,197は平常月の数字ではない。ディスプレイ広告中心のメディアが、1年で最も条件のよい月に到達した上限値として読むべきものだ。同じ構造は日本のブログでも観測されていて、月間1,505万PVで月収1,255万円を記録した七緒氏の事例も、アドセンス収入がピーク月に集中している。逆に月間350万PVでも月20〜30万円にとどまった事例を並べると、ページ単価と季節の掛け算がどれほど結果を振り分けるかが見える。
経費の69%が人件費だった
経費$28,505.27のうち$19,627.96、つまり69%が「スタッフ・給与・外注」である。2015〜2016年に彼らは、夫婦2人の作業だったブログに小さなチームと物理的なスタジオを持ち込んだ。総括記事の言葉を借りれば、Pinch of Yumは「夫婦の店」から「チームと拠点を持つ事業」へ移行した。
この移行は数字の上では成功している。しかし固定費の性格が変わったことも同時に意味する。ディスプレイ広告収入は季節と広告市況に振られる変動収入で、人件費とスタジオ賃料は月ごとに動かない。11月の$95,197は、その固定費を十分に飲み込む水準だが、単価が半分になる月にも同じ$23,000超は出ていく。この非対称性は、BASEの雑貨店が閑散期をクーポンで埋めた検証と同種の悩みで、季節性のある事業が規模を持ったときに必ず現れる。
伸びの形——6年をどう歩いたか
総括記事から、時系列だけを抜き出すとこうなる。
- 2011年9月:初レポート。月$21.97。Lindsay氏は教員、Bjork氏は非営利団体勤務で、ブログは早朝・夜・週末の「日々の余白」だった
- 2012〜2014年:月$100、月$500、月$1,000を順に通過。ある月の合計が本業の給与を上回る
- 2014年6月:2人とも退職し、Pinch of Yumと姉妹サイトFood Blogger Proに専念
- 2015〜2016年:チーム採用とスタジオ開設。ワークショップや動画撮影の拠点を持つ
- 2016年11月:最終レポート。内訳合計で収入$95,197.34
Bjork氏がこの6年で最も効いたと書いているのは、彼が「1%∞」と呼ぶ考え方だ。毎日1%だけ良くすることを無限に続ける、という意味である。派手な転機がひとつも出てこない年表は、家族旅行ブログが13年かけて月商$15,000に届いたTravelMamasの記録とよく似た形をしている。
やめた理由は、数字が悪くなったからではない
興味深いのは、公開停止の理由が事業側の事情ではないことだ。Bjork氏は「レポートの中身に何を書いても、いちばん大きく響くのは”お金!”の部分だった」と書く。Lindsay氏が個人的な出来事や喪失について書くようになるにつれ、収支表の存在が場違いに見えるようになった。彼はそれを「サッカーの試合にスーツで現れた男」と表現している。プレーはできる。ただ、まわりから浮く。
実際の停止は宣言より前に起きていた。彼によれば2017年2月に初めて更新を落とし、それが2ヶ月、3ヶ月と伸びて、6月の総括記事でシリーズの終了が確定した。Niche Pursuitsは最後のレポートを2016年11月分としており、いずれにせよ2016年末から2017年初でこの連載は止まっている。
同じ月のレポートで、Lindsay氏は2017年の方針として「スポンサー記事を減らす」と明言している。2〜3〜4年にわたってブランドと組んできたが、多く抱えすぎて創作的に消耗した、月2本までにしたい、という趣旨だ。スポンサー記事はこの月$22,400、収入の24%を占める第2の柱である。伸ばせる収益源を意図的に細くする判断が、収益公開の停止と同じ時期に重なっている点は見落とせない。ちなみに毎月の収入の一部を非営利団体へ寄付する運用も続けており、11月分はセブの児童保護施設に充てられている。
この事例から持ち帰れるもの、持ち帰れないもの
持ち帰りやすいのは構造の部分だ。ディスプレイ広告を主軸に据えたコンテンツメディアは、月次収益がトラフィックだけでなく広告市況の季節で大きく動く。年間で最も条件のよい月の数字を平常値と誤読すると、固定費の設計を間違える。そして人を雇った瞬間から、変動収入と固定費のミスマッチが経営の主題になる。
持ち帰りにくいのは前提条件のほうだ。2011年から2016年にかけての米国フードブログ市場は、Pinterestが伸び盛りで、AdThriveのようなプレミアム広告ネットワークが個人メディアに開かれ、検索でレシピが上位に出やすかった時期にあたる。同じ手順を今なぞっても同じ場所には出ない。Niche Pursuitsの整理では、現在も同ブログは外部ツールの推定で月間150万〜190万訪問規模を維持し、流入の55%超が検索、SNSではPinterestが中心だとされるが、これは第三者ツールによる推定値であって本人公開の実測ではない。
そしてもうひとつ。この事例で最も再現しにくいのは、頂点で数字を出すのをやめられたことかもしれない。66本のレポートは、伸びる過程を記録した資料としては極めて価値が高い一方で、書き手にとっては自分の事業が「金額」で語られ続ける装置でもあった。Bjork氏が月1回の振り返り時間だけはカレンダーに残したと書いているのは、記録の効用と公開の副作用を切り離した、ということだろう。
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出典
- 本人公開Pinch of Yum「November Traffic and Income Report」(2016年12月19日公開)。2016年11月分の収入・経費の全項目
- 本人公開Bjork Ostrom「Income Reports: What We Learned, and Why We're Stopping」(2017年6月7日公開)。収益公開をやめた理由と6年分の総括
- 報道Niche Pursuitsによる事例整理。最終レポートの時期と現在の推定トラフィック



