事例 売却済み

廃業を決めていたフルーツサンド専門店が、200万円で譲渡——「ダメ元」の掲載に20件超の申し込み

本業多忙で廃業を決めていたサンドイッチ専門店が、銀行の勧めでTRANBIに掲載したところ20件超の申し込みが来た。譲渡額200万円は開店時の初期費用と同額。「あと100万円高くても売れた」と売り手は振り返る。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

廃業を決めていたフルーツサンド専門店が、200万円で譲渡——「ダメ元」の掲載に20件超の申し込み

小さな飲食店の出口は、たいてい廃業である。原状回復して機材を処分し、残るのはマイナスだけ——という結末は珍しくない。

病院や老人福祉施設向けの配食を本業とする法人(TRANBIの成約事例インタビューでは匿名。2022年5月17日公開)も、そのつもりだった。2019年に開いたサンドイッチ専門店は売上が伸びていたが、本業が忙しくなり、経営者自身が厨房に立てなくなっていた。畳もうと考えていたところ、銀行から事業売却という選択肢を示される。

掲載してみると、20件を超える買い申し込みが来た。譲渡額は200万円。廃業していれば0円だった資産が、初期費用と同額で次の運営者に渡っている。この記事では、その値付けと選定のプロセスを追う。

開店から譲渡までの2年

時期出来事
2019年配食事業の調理体制を活かし、当時流行り始めていたフルーツサンドに着目して開店。初期費用は約200万円
開店後立地が悪く集客が課題。広告宣伝に投資するも、最も効いたのは大手スーパーへの納品と都心での催事
ピーク時スーパーに週6日納品(往復1時間・500個以上)。完売して1日最大20万円を売り上げた日も
2021年11月本業多忙により売却を決断。TRANBIに掲載
年内20件超の申し込みから買い手を決定。200万円で事業譲渡

店の中身は明快だ。フルーツサンドを中心に惣菜サンドを揃え、イートインもあるがテイクアウト主体。平均客単価は1,000〜2,000円。営業は週5日の10時〜15時で、経営者本人ともう1名の計2人で回していた。

「実質2店舗」を作った卸というチャネル

この事例で最も実務的な学びは、集客が立地で詰まったときにどう抜けたかだろう。

人通りの多い場所でも駅近でもない物件を、家賃の安さで選んでいる。当然、店頭だけでは足りない。広告宣伝費を投じて認知は上げたものの、本人が「一番効果的だった」と述べるのは、大手スーパーのパン売り場コーナーへの納品と、ターミナル駅のパンマルシェへの出店だった。

スーパーには週6日、往復1時間かけて500個以上を運んでいる。それが完売して1日最大20万円という売上の日が生まれた。店舗の販売と合わせて「実質2店舗を構えているような状態」だったと本人は表現している。つまりこの事業は、途中から店舗小売ではなく製造+卸に重心を移すことで、立地の不利を回避していた。

同じ小規模飲食でも、5坪のクレープ店が月商100万円超を出しながら店主が「失敗だった」と総括した事例は、売上ではなく自分の時間の使い方を基準に評価している。今回の売り手も同じ地点に立っている。事業は回っていたが、続けるには経験豊富なスタッフを新規に雇う必要があり、「そこまでして続けるほど潤沢な利益が出ていたかというと微妙だった」と述べている。数字が悪いから畳むのではなく、投下する経営資源の順位で畳む、という判断だ。

200万円という値付けの根拠

譲渡希望額の決め方は明快だった。開店時にかかった費用が約200万円だったので、初期費用が回収できればよい、という水準に置いている。

もうひとつ効いているのが時間の制約だ。翌年1月から本業がさらに忙しくなるため、11月に掲載して年内に譲渡先を決めなければならなかった。早く決めるために、手頃な金額にしておきたかったという。

結果は20件超の申し込み。本人は「あと100万円高く設定していてもきっと売れただろう」と振り返っている。それでも後悔の色は薄い。廃業していれば得られる金額は0円だったのだから、と。この「回収ライン=価格」という決め方は、レンタルスペース2拠点を『直近年間利益の2年分+什器代』で480万円と値付けした事例の「回収期間=価格」と、発想としては同じ側にある。買い手が計算しやすい根拠を先に置くほど、申し込みは集まりやすい。

20件超をどう捌いたか

申し込みが想定を超えたことで、逆に選別の問題が生じている。ここでの対応が具体的だ。

売り手は人柄を重視し、早く会って交渉を進めたいと考えていた。そこで、詳細な資料を先に求める相手、経営経験のない相手、熱意が伝わりにくい相手には意図的に返信を遅らせ、「まず会って話しましょう」と言う買い手を優先した。返信速度そのものを選別の道具に使ったわけだ。

面談は4人と予定していたが、決まったのは1人目だった。Web制作を手がける企業で、事業多角化として飲食に進出しており、地元では知名度がありメディア出演もある経営者。売り手が期待したのは、その集客・宣伝力である。初回交渉の直後に「ぜひ購入したい」という強い申し出があり、3人目・4人目の面談前に断りを入れて決定した。他の候補には事前に「面談前に決まる可能性がある」と伝えてあった。

掲載前の準備も地味だが重要だ。初めての掲載で勝手がわからなかったため、まずTRANBI上で同業の飲食店の売り案件を検索し、どんな内容が書かれているかを調べたうえで案件情報を作成している。銀行から複数のプラットフォームを紹介されたなかでTRANBIを選んだ理由も、売り手側の入力項目がシンプルでステップが明確だったから、という運用上の理由だった。

引き継ぎと、その後

譲渡後の姿まで語られているのがこの記録の価値だ。引き継いだのは機械と備品一式に加え、サンドイッチの詳細なレシピと運営マニュアル。さらに、実際に店で一緒に作って買い手側が動画を撮影し、買い手が雇うパートスタッフへの指導も売り手が行っている。

それでも、インタビュー時点の店は金・土・日の3日間営業に縮小していた。スタッフ不足と、サンドイッチ作りに慣れていないことが理由だという。売り手は生産スピードが以前の半分程度ではないかと推測し、収益の柱だった催事出店についても「たくさん生産できる余裕がまだない」と買い手から待ってほしいと言われている。

ここに、この業態の本質が出ている。レシピもマニュアルも渡せるが、1日500個を作って運ぶ手の速さは書類では渡らない。契約書はTRANBIの雛形を使い、買い手からの「2ヶ月分割払い」の要望にも柔軟に応じたという交渉のスムーズさとは対照的に、オペレーションの移管には時間がかかっている。承継直後に売上が落ちる現象は、千葉のエステやフィリピンのコールセンターを連続取得した買い手が3件目で売上半減を経験した記録でも起きている。

この記録から言えること

一般化できるのは、廃業を決める前に売却を試す価値があるという一点だ。売り手はTRANBIの利用料・成約手数料がかからなかったこと、交渉が想定よりスムーズだったことを挙げ、周囲の経営者に「撤退を考えるならダメ元で出してみたほうがいい」と勧めるようになったという。実際、彼はこの店を畳むつもりでいた。0円になるはずだった資産が200万円になり、店は名前を変えずに続いている。

売り手自身のアドバイスも実務的だ。早く売りたいなら無理に儲けようとしない。利益が出ている事業を事情で手放すなら高値を付けて当然だが、業績が厳しい事業では、買い手が検討しやすい金額帯に置くほうが交渉は速く進む、と。

一方で限界も見ておきたい。この店が売れた背景には、本業の配食事業で培った調理体制、スーパーへの納品ルート、レシピとマニュアルという移管可能な資産があった。設備と立地だけの店が同じように20件を集めるとは限らない。また、価格が初期費用と同額だったのは売り手の時間的制約が生んだ結果であって、相場を示すものではない。「あと100万円高くても売れた」という本人の述懐は、そのまま、急いで売ることのコストを表している。

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