Visualize Value、広告代理店を畳んだJack Butcherが図解1枚から年商$1.1M。初コースは発売2週間弱で509本・$51,000
Jack Butcher氏は自ら立ち上げた広告代理店を畳み、図解を毎日投稿する活動から2020年に年商$1.1Mへ。初コースは制作7日・発売2週間弱で509本$51,000を売り、広告費は$0だった。
執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)
白と黒の四角と矢印だけで描かれた図解が、タイムラインを流れていく。Jack Butcher氏が運営する「Visualize Value」は、その図解の作り方を教える講座と、図解そのものを商品化したデジタルプロダクトを売る事業だ。Nathan Barry氏のポッドキャスト(2021年7月5日公開)で、Butcher氏は前年の売上を「Yeah, we did a 1.1 million last year」と語っている。内訳はおよそ6対4で、6が「Build Once, Sell Twice」、4が「How to Visualize Value」だという。
この $1.1M は、彼が10年在籍した広告業界の延長線上で積み上げた数字ではない。むしろ、その延長線上に自分で作った広告代理店を畳んだ後に立ち上がったものである。Butcher氏はAmazon、Nokia、McDonald’s、Mercedes-Benzといった大型クライアントを担当するクリエイティブディレクターを経て独立したが、自身の代理店については「No fun, and even less freedom(楽しくないし、自由はもっと無い)」という言い方をしている。
以下の数字と日付は、Nathan Barry氏の書き起こしと、Growth in Reverseによる時系列分析という2つの二次情報に載っているものだけを使う。どちらも本人の発信・発言を引いた記事で、無料で全文が読める。
代理店を閉じてから7桁ドルまで
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2018年1月 | 広告代理店勤務を離れる。自分の代理店を約2年運営 |
| 2019年初頭 | 白黒の図解を毎日投稿し始める |
| 2020年3月 | オーディエンスの伸びが加速 |
| 2020年5月1日 | 初のコース「How to Visualize Value」を先行販売で発売。制作期間は7日 |
| 2020年5月 | 発売72時間で$15,000、7日目までに441本、2週間弱で509本・$51,000 |
| 2020年7月 | 2本目「Build Once, Sell Twice」を発売 |
| 2020年9月 | 無料配布施策で1〜2日に購読者2,000人超が増加。配布した商品の総額は$70,000相当 |
| 2020年通年 | 売上$1.1M(内訳は約6:4) |
| 2021年7月 | Visualize Value(Instagram+X合計)約45万、個人アカウント約12.5万、メール購読者約2万 |
数字の並びで目を引くのは、初コースの制作が7日で、発売2週間弱の売上が$51,000という点だ。原価という意味では、7日分の自分の時間しか投じていない。
「一度作って二度売る」が指しているもの
Butcher氏の主力商品名がそのまま方法論の名前になっている。彼はポッドキャストでこう説明している——「you build something digital that runs on code or media, and can be served up infinitely at zero cost replication(コードかメディアの上で動くデジタルなものを作れば、複製コストゼロで無限に提供できる)」。
ここで重要なのは、彼が売っているものが二層構造になっていることだ。表層は図解のスキルという「教える商品」だが、その下には、彼が毎日投稿している図解そのものが無料の広告として機能する構造がある。図解は概念を1枚で示す形式なので、スクリーンショットとして単体で拡散する。つまり商品のサンプルが、そのまま流通単位になっている。ブログ記事や動画のように「続きを読ませる」導線を作らなくても、1枚が単独で完結して回る。
この構造は、Notionテンプレート販売で$1Mに到達した事例や、Justin Welsh氏の一人事業ポートフォリオと同じ経済性を持つ。作る回数を増やさずに売る回数を増やす形だ。ただしButcher氏の場合、投稿している図解と売っている講座の距離が極端に近い。図解を見て「これを自分でも作りたい」と思った人がそのまま買い手になるので、興味を持った人と買う人のあいだに翻訳が要らない。
もう一つの特徴は、2020年9月の無料配布だ。$70,000相当のプロダクトを配ったが、デジタル商品なので配布の実費はゼロに近い。この施策で1〜2日のあいだにメール購読者が2,000人超増えている。在庫が無い商品では、値引きも無料配布も原価を痛めないという性質を、獲得コストの代わりに使った形になる。
広告費$0という制約が作ったもの
Nathan Barry氏の書き起こしによれば、売上の80〜90%はオーガニックのSNS経由で、有料広告への支出は$0だった。これは「広告を使わなくても売れた」という自慢話としてよりも、制約が商品設計を規定した例として読むほうが実態に近い。
広告を出せない(出さない)事業では、獲得は投稿の枚数と質にしか依存しない。だからButcher氏は2019年初頭から毎日図解を出し続けており、2020年3月に伸びが加速するまで1年以上かかっている。逆に言えば、$1.1Mという数字の前には、直接の売上に結びつかない投稿の1年が置かれている。この時間差を無視して「図解を作れば売れる」と読むと、事例の一番重い部分を落とすことになる。
うまくいかなかったこと
Butcher氏は、当時流行していたコホート型(受講者を同時に集めて期間内に進める形式)の講座を開発しようとして、3週間ほど手を動かした後に「これは自分ではない」と判断して止めている。理由は形式の優劣ではなく、コホート型は開催のたびに自分の時間を差し出す必要があり、彼が代理店を畳んだ理由(時間を売る構造からの離脱)と正面から矛盾するからだ。
自身の代理店がうまくいかなかった理由についても、彼は焦点の無さを挙げている。車メーカーでも金融でもファッションでも「全部できます」と言える体制は、裏返すと誰にとっても第一想起にならない。Visualize Valueが「概念を白黒の図解にする」という極端に狭い一点に絞られているのは、この失敗の反転として理解できる。
1枚の図解が、商品見本と広告と教材を兼ねている
Visualize Valueの面白さは、「作る」と「売る」と「宣伝する」が同じ行為に畳み込まれている点にある。図解を1枚作れば、それは商品のサンプルであり、広告であり、講座の教材でもある。1つの作業が3つの役割を果たすので、一人(実質2人)の事業でも回る。2020年9月の$70,000相当の無料配布が原価を痛めずに購読者を2,000人超増やしたのも、この畳み方の延長にある。
ただし、この設計が成立する分野は限られる。成果物がスクリーンショット1枚で伝わり、かつその作り方に需要がある領域でなければ、同じ畳み方はできない。しかも図解の品質そのものが、10年の広告キャリアで培ったビジュアル表現の技能に支えられた参入障壁になっている。$1.1Mは2020年の数字で、リモートワークとオンライン講座への需要が一斉に立ち上がった時期とも重なる。売上の前に、直接の売上に結びつかない毎日の投稿が1年以上置かれていたことも、この数字の一部である。
出典の性質にも触れておく。2つの出典はいずれも二次情報で、$1.1MはButcher氏本人の発言だが、第三者による帳簿の検証を経たものではない。利益率、原価、税引き後の手取りは公開されておらず、この事業の実質的な収益性は外部からは確認できない。事業体制について確認できるのも、彼と配偶者の2人で運営しているという記述までだ。デジタル商品の経済性を売り手の側から見た記録として、プラットフォームの側から見たGumroadを率いるSahil Lavingia氏の軌跡と並べて読むと、同じ構造の両面が見える。
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出典
- 報道Nathan Barry氏のポッドキャスト書き起こし(2021年7月5日公開)。Butcher氏本人が前年の売上「1.1 million」と製品別の内訳を語っている
- 報道Growth in ReverseによるJack Butcherの成長分析。初コースの509本・$51,000、2020年9月の無料配布施策などの時系列