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PA Crunch、MRR $18,000・月3時間で回る事業を$300,000で売却。5社目でようやく届いた出口

Kenny Schumacher氏が2016年に始めたInstagram成長SaaS「PA Crunch」は、MRR $18,000・月間利益$9,000・有料購読600人の状態で2018年に$300,000で売却された。運営に必要な時間は月およそ3時間まで減っていたが、売却理由は燃え尽きだった。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

PA Crunch、MRR $18,000・月3時間で回る事業を$300,000で売却。5社目でようやく届いた出口

2018年、Kenny Schumacher氏はInstagram成長SaaS「PA Crunch」を$300,000で手放した。売却時のMRRは$18,000、月間利益は$9,000、有料購読者は600人、正社員は4人。ここで引っかかるのは働いていた時間のほうだ。氏の関与は売却前の時点で月およそ3時間まで落ちていた。月3時間で$9,000の利益が出るなら、持ち続けない理由がない。ところが氏がThey Got Acquiredに語った売却理由は、手が空きすぎたことではなく燃え尽きだった。「実際に事業に使っていたのは月3時間ほどでしたが、頭の中では常に事業のことを考えていて、燃え尽きつつありました」。

取引の数字

項目内容
創業2016年、カリフォルニア州サンノゼ
売却2018年、$300,000、買い手非公開
仲介FE International。商談から成約まで4ヶ月
売却時のMRR$18,000(有料購読600人)
売却時の月間利益$9,000(利益率50%)
体制ローンチから2年以内に正社員4人
創業者の稼働月およそ3時間

有料購読600人でMRR $18,000なので、1人あたりの月額は平均$30になる。集客チャネル、解約率、広告費、買い手の素性は公開されていない。

価格については注記が要る。They Got Acquiredは当初この取引を$285,000と報じ、のちに$300,000へ訂正している。訂正理由として同媒体は「出典によって額が少し違うが、創業者が直接そう伝えてきた数字なので$300,000を採る」と書いた。本稿もその$300,000を採るが、この事例の金額が第三者の書類ではなく本人申告に依拠していることは押さえておきたい。氏自身のサイトも2018年に$300,000で売却したと記している。

買い手が買ったのは、事業ではなく状態だ

$300,000という額を売上と並べると、年商$216,000の約1.4倍、年間利益$108,000の約2.8倍にあたる。月間利益で割れば33倍で、MRRに換算すれば16.7ヶ月分になる。

この倍率は、掲載している同じ価格帯の売却と比べると低い。Notionで書いた記事をブログにするFeatherは、MRR $6,000で$250Kの売却だったので、売上の41.7ヶ月分、年商の3.5倍が付いている。PA Crunchは売上規模がFeatherの3倍ありながら、価格はほぼ同じだ。売却年が2018年と2024年で6年離れているため単純比較はできないが、それを差し引いても倍率の開きは大きい。

ここからは推測だが、開きの一因は商材にある。Instagramのフォロワーとエンゲージメントを伸ばすサービスは、プラットフォーム側の規約変更ひとつで前提が消える。買い手はその不確実性を価格に織り込む。事例でも、規約リスクを抱えた手法のSaaSであるSearchSEOが約$300Kで着地している。売上の規模ではなく、売上がどれだけ長持ちするかを買い手は見る。

では何が$300,000を作ったのか。編集部は、値が付いたのは事業ではなく月3時間で回るという状態だったと読む。正社員4人が日々の運用を担い、創業者の関与が月3時間まで落ちている事業は、買い手にとって引き継ぎコストがほぼゼロに見える。FE Internationalのような仲介が扱う小規模SaaSでは、創業者が抜けた瞬間に売上が消えるかどうかが最大の論点になる。PA Crunchはその問いに、売る前から答えを用意していた。商談が4ヶ月で終わっていることも、この読みと矛盾しない。

委譲は労働時間を消したが、占有は消さなかった

氏はPA Crunchを「委譲の力を本当に学んだ事業」と呼び、自サイトに「売却前、この事業に必要な個人的な関与は月およそ3時間だけでした」と書いている。成功要因として本人が挙げているのは委譲だ。

編集部の読みは半分だけ重なる。委譲が価格を作ったことには同意する。ただし委譲は、氏が売却理由に挙げたもうひとつの問題をまったく解いていない。稼働は月3時間まで減ったのに、頭の中の占有率は減らなかった。手を離しても、事業は頭から出ていかない。氏が売却に踏み切ったのは、この二つの数字の乖離が限界に達したからだと読むほうが、公開されている発言と整合する。

売却理由として本人が並べたのは3つだ。MRR $18,000で伸びが止まり、手持ちの施策では動かせなくなっていたこと。次の事業の資金がほしかったこと。そして「何より、この事業を頭の中から手放して、他のことに完全に集中したかった」こと。3つのうち2つが、金額ではなく注意力の話になっている。

5社目、そして10社中8社

この事例を数字だけで読むと、月3時間・利益率50%の優良事業が順当に売れた話になる。実際の経路はそうではない。

They Got Acquiredによれば、PA Crunchの前に氏が立ち上げた4社はすべて買収されないまま非稼働になった。移動式の洗車サービス、遊戯王カードのトレードブログ、その他。5社目にして初めて出口に届いたことになる。さらに同媒体は、氏が9年で10の事業を立ち上げ、そのうち8つが現在は非稼働だと書いている。打率で言えば2割だ。

氏自身の言葉も、その前提に立っている。「取り組むプロジェクトが多いほど、そのうち少なくともひとつが成功するか、他のプロジェクトで使える何かを教えてくれる確率が上がると確信している」。成功した1件の設計を語る言葉ではなく、外れることを前提に本数を置く言葉である。

売却後の動きもこの線上にある。氏はPA Crunchの売却で得た資金で定額制のデザインサービスDelesignを立ち上げ、2021年に売却した。2度目の売却は1度目よりずっと速く、ずっと楽だったと同媒体に語っている。現在はカードゲームと不動産向けアプリ2本を含む5つのサイドプロジェクトを動かしている。

効かなかったこと、そして見えていない数字

効かなかったことは、本人の口からはっきり出ている。MRR $18,000で「既存の施策ではこれ以上事業を伸ばせなかった」。何を試して効かなかったのか、その内訳は公開されていない。$18,000で止まったのが市場の天井なのか施策の限界なのかを、外から判定する材料はない。

公開されていない数字も多い。集客チャネル、解約率、獲得単価、広告費、正社員4人の人件費の内訳、買い手の素性とその後のPA Crunchの推移。利益率50%という結果だけが残り、それを構成する費用の中身は分からない。そして出典の中心はThey Got Acquiredという二次資料で、数字は創業者本人の申告に基づく。氏のサイトは売却額と月3時間だけを裏付けており、MRRと従業員数を独立に確認できる資料は見つからなかった。

2018年の値札と、勘定に入っていない4社

$300,000という値段は2018年に付いたものだ。当時のマイクロSaaS市場の相場は現在と違い、Instagram周辺のツール市場も規約の締め付け方が今とは異なっていた。この額を今日の小規模SaaSの値札の目安として読むことはできない。

勘定の外にあるものもある。氏は先に4社を非稼働にしたあと、5社目でこの結果を得ており、その4社分の時間と資金の記録は公開されていない。打率2割という数字は、外れた8つのコストが見えないままの2割である。月3時間で回る状態に値が付いたことは確かだが、その状態にたどり着くまでに使ったものは、取引の数字のどこにも載っていない。

同じく「小さいが引き継ぎやすい」を売った事例としては、個人開発者から個人買い手へ$300Kで渡ったPotionが近い価格帯にある。こちらは従業員ゼロの1人運営で、売り手と買い手の顔が両方見えている点が対照的だ。

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