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Median、コブラウジングSaaSの売却額は本人談で「$300K弱」。だが本当の出口は、その前に結んだ永続ライセンス2本のほうだった

2人でブートストラップしたコブラウジングSaaS「Median」の売却額は本人談で$300K弱。だが売却前に結んだ永続ライセンス2本のほうが大きく、合計は「約$2M」だったと創業者が語っている。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

Median、コブラウジングSaaSの売却額は本人談で「$300K弱」。だが本当の出口は、その前に結んだ永続ライセンス2本のほうだった

事業売却の記事では、たいてい売却額が見出しになる。だがその数字が、その事業が生んだ現金のうち最大の項目だとは限らない。

Acquire.com(旧MicroAcquire)の公式ポッドキャストに出演した Derek Homann 氏は、共同創業者の Ben Stevinson 氏と2人でブートストラップしたコブラウジングSaaS「Median」の売却額を聞かれ、こう答えている。「Yeah, a little more than that. Just under 300k.(ええ、それより少し多いくらい。$300Kの少し手前です)」。

ところが同じ会話の中で、彼はこうも言っている。売却の前に「non-exclusive perpetual licensing deal(非独占の永続ライセンス契約)」を2本結んでおり、それぞれが「買収価格より大きかった」。そして、Medianの売却とこれらのライセンス契約を全部合わせると「close to 2 million bucks(200万ドル近く)」になった、と。

つまり公表される「売却額」は、この事業が現金化した価値の6分の1程度でしかない。この記事は、その残り6分の5がどこから来たのかを追う。

事業と取引の整理

項目内容
製品コブラウジング(顧客と同じ画面を同時に見て操作を助ける機能)のソフトウェア
組み込み先LiveChat、Intercom、Zendesk、Olark などのライブチャット製品
課金①既存のチャットアカウントへのアドオンとして月$50のサブスクリプション
課金②製品のホワイトラベル提供(相手ブランドでの提供)
体制共同創業者2人。外部資金は入れていない
ライセンス非独占の永続ライセンス契約を2本。いずれも買収価格を上回る規模
売却額本人談で**「$300Kの少し手前」**
合計ライセンスを含めて**「約$2M」**(本人談)
売却経路Acquire.com(当時MicroAcquire)
買い手Silicon Prairie Newsの報道によれば、ダラスの通信企業Loup。買収は2020年10月末
期間同報道によれば、2人が前職を辞めてフルタイム化してから3年余り
進行1週間半でLOI、そこから3〜4週間のデューデリジェンス、60日の移行期間

「部品」として作ったから、同じ製品を何度も売れた

Medianが3回にわたって知的財産を現金化できた理由は、製品の立ち位置そのものにある。

コブラウジングは、それ単体で顧客が契約するものではない。カスタマーサポートの現場で「お客様の画面を一緒に見ながら案内する」ために使う機能であり、必ず何か別の製品の中に入って動く。だからMedianは最初からLiveChatやIntercom、Zendeskといった既存製品への組み込みとして設計され、それらのアドオンとして月$50で売られていた。

この設計が、そのままライセンス販売の前提条件になっている。完成したサービスは、他社が自社ブランドで売り直すことが難しい。UIも料金体系も顧客サポートも丸ごと付いてくるからだ。一方、機能単位のコンポーネントは買い手の製品の内側に消えることができる。Homann氏の描写がそれを端的に示している。2件のライセンス先のうち「一方はMedianを買っていると分かっていたが、もう一方はMedianという存在すら知らなかった」。後者にとって、これは自社製品の一機能を外部から調達した、という取引に過ぎない。

非独占という条件も効いている。独占ライセンスなら1社にしか売れず、実質的には事業売却と変わらない。非独占なら同じコードベースを複数社に売れる。2本のライセンスがそれぞれ「実質的にそれ自体が出口だった」(essentially an exit in and of themselves)と本人が言えるのは、この非独占性が前提にある。同じ組み込み型でも、Amazon・eBayのメッセージをヘルプデスクに流す接続SaaSであるChannelReplyのように、接続そのものが事業として太る道もある。Medianは太らせる代わりに、機能を切り売りする道を選んだ、という対比になる。

なぜ最後の売却額は「$300K弱」で終わったのか

ここが、この事例のもう一つの読みどころだ。

永続ライセンスを非独占で2本売るということは、買い手候補にとっての価値を自分で削っていることを意味する。ライセンス先は、Medianと同じ機能を自社ブランドで提供できる。しかも「永続」なので、契約後に追加の支払いは発生しない。Medianを買収する側から見れば、市場には既に同じ技術を持つ事業者が複数いて、そこからの収入は将来入ってこない、という状態の資産を買うことになる。

つまりライセンスで先に大きく現金化したことと、最終的な売却額が$300K弱に収まったことは、無関係ではない可能性が高い。これはトレードオフとして読むべき数字で、「ライセンスもやったうえで高く売れた」という話ではない。

売却額$300K弱という水準自体は、マイクロSaaSの相場から外れているわけではない。NotionページをWebサイトに変換するPotionが個人買い手へ$300Kで売却された事例とほぼ同じ帯であり、スクリーンショット注釈ツールのInstaCapのように相場を超える案件のほうが例外だ。特筆すべきなのは金額ではなく、その金額に至るまでに同じ資産から2回、より大きな現金を引き出していたという順序のほうである。

効かなかったこと:2人の合意形成が後回しだった

Homann氏が振り返りで挙げている反省は、価格でも交渉でもない。「knowing what you want(自分たちが何を望んでいるかを分かっていること)」である。「この件は全部何なんだ?」という状態のまま進んでしまい、2人の間でそうしたことを事前にすり合わせておけば、もう少し楽だっただろう、と述べている。

これは共同創業のSaaSに固有の落とし穴だ。売却の局面では、価格、移行期間、買い手への残留の有無、次に何をするかという4つの論点が同時に立ち上がる。1人なら自分の中で解けるが、2人だと交渉が2層になる。買い手との交渉の前に、共同創業者同士の交渉がある。しかもこの内側の交渉は、外側の交渉が始まってからでは条件を動かしにくい。

実際、Medianの取引は非常に速い。1週間半でLOIが手元に来て、3〜4週間でデューデリジェンスが進み、60日の移行期間で終わっている。小規模なSaaSの売却は、迷う時間を用意してくれない。準備は買い手が現れる前に済ませておくしかない、というのがこの証言の実務的な意味だろう。

再現の条件と限界

別のプロダクトに読み替えが効くのは、「製品を機能単位に保つと、出口が1本ではなくなる」という構造だ。完成品としてのSaaSを目指すと出口は買収の1択に近づくが、他社製品に組み込まれる部品として作れば、①自社ブランドでのサブスク②ホワイトラベル提供③事業売却。という3種類の現金化が同じコードベースの上に並ぶ。Medianが3回にわたってIPを売れたのは、機能の粒度をそう選んだ結果である。

再現しにくい条件も、はっきりしている。

まず、ライセンスの買い手は自分で探せるものではない。Medianの場合、既にLiveChatやIntercomのエコシステムの中に製品があり、コブラウジングを自社に取り込みたい企業から見えていた。組み込み先のマーケットプレイスにいたこと自体が、営業チャネルだった。ゼロから自社サイトだけで売っている製品に、大企業からホワイトラベルの引き合いが来ることは期待しにくい。

永続ライセンスという商品の性質も条件になる。金額が大きい代わりに一回きりで、しかも回数を数えられない。2本結べたことは結果であって計画ではない。継続収入で事業計画を立てられる月額課金を積み上げるタイプのSaaSとは、キャッシュフローの形が根本的に違う。

金額の裏取りにも限界がある。$300K弱も約$2Mも本人の発言であり、契約書や第三者の検証を経た数字ではない。買い手をLoupとする情報と2020年10月末という時期はSilicon Prairie Newsの報道に基づくもので、買収額はそこでも非公開とされている。ライセンス2本の相手企業名、契約時期、それぞれの金額は公開されていない。この事例から取り出せるのは金額そのものより、「売却額は出口の全部ではない」という読み方の枠組みである。

事業の価値を測るとき、私たちはつい成約価格という単一の数字を見る。だがMedianの記録は、その数字の外側に、公表もされず見出しにもならない現金が積み上がっていた可能性を示している。売却額が小さいことと、事業が小さいことは、同じではない。

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