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NotionでWebサイトを作るPotion、個人開発者から個人買い手へ$300Kで売却

Notionのページをそのまま高速なWebサイトに変換するPotionは、個人開発者Noah Bragg氏がbuild in publicで育て、$300Kで個人の買い手Bruno Morency氏に売却された。個人→個人のマイクロSaaS売買の代表例。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

NotionでWebサイトを作るPotion、個人開発者から個人買い手へ$300Kで売却

売却額4,500万円は、売却額を公開している掲載41件のうち上位44%。掲載全体の売却額中央値は3,750万円です(データ集計)。

何が起きたか

Potionは、Notionで書いたページをそのまま独自ドメインの高速なWebサイトに変換するSaaSである。シアトル在住の個人開発者Noah Bragg氏が2020年に立ち上げ、開発から収益までをX(Twitter)上で公開する「build in public」スタイルで育て、2023年4月、$300Kでモントリオール在住のソフトウェア開発者Bruno Morency氏に売却された。売り手も買い手も個人、従業員はゼロ。マイクロSaaS売買の代表例であると同時に、売却プロセスの歩留まりまで数字で公開されている点で、この価格帯のM&Aの実像を知るのに貴重な事例だ。

ユニコーン挫折の先にあった「小さく作る」

Bragg氏の経歴は、マイクロSaaSに行き着く典型的な経路をなぞっている。大学時代の友人とソフトウェア開発者の職を辞め、ユニコーンを目指すスタートアップに挑んで失敗。その後、6ヶ月で作ったマイクロSaaSを$27,000で売却し、「大きく当てる」から「小さく確実に作って売る」への転換を経てPotionに至った。

Potionの製品はシンプルで、Notionのコンテンツとデータを取り込み、SEOとページ速度に最適化したサイトとしてホスティングする。狙った顧客は自分と同じインディーハッカー。クリエイター、メイカー、個人起業家だった。透明な開発過程を好む層を最初から顧客に想定していたということは、build in publicという集客手法と製品の対象市場が、偶然ではなく一体で設計されていたことを意味する。

Potionの数字

項目数字
創業2020年
売却2023年4月
売却額$300,000
売却時MRR$6,300
売却倍率年間収益の約4倍
有料顧客500以上
月間サイト訪問約20,000
従業員0人

MRR $6,300は年換算で約$75,600。$300Kはその約4倍にあたる。Postcode ShippingのARR比約2.1倍と並べると高めの倍率だが、Morency氏が購入理由に挙げたのは「2年間一貫して伸び続けた収益」と「Notion自体のエコシステムの活況」であり、成長期待がそのまま倍率に乗った形と読める。

24時間で1,000フォロワー——build in publicの実効果

始まりは2020年後半の一つのツイートだった。本人の回想によれば「初日に『明日からSaaSを公開で作る』とツイートしたら、それが跳ねて24時間で1,000フォロワーが増えた」。以後、ScreenFlowで録画した開発過程の動画を投稿しながら2ヶ月で作り上げ、最初の2ヶ月で75人の有料顧客が付いた。その大部分がTwitter経由。Product Huntでは日次・週次の両方で1位を取っている。

この習慣は売却局面でも効いた。MRRの推移や意思決定の悩みまで公開しながら運営された事業は、数字の履歴が公開タイムラインとして残っている。買い手から見れば、デューデリジェンスのコストと騙されるリスクが小さい。透明性が、そのまま売却時の信用装置になった。

出品前の作り込み——サポート「1日3〜4件」を「週2時間」へ

売却の実務でBragg氏が強調するのは、出品前の「手離れ」の作り込みである。運用の自動化を進め、ドキュメントとユーザーガイドを整備し、プロダクトのセルフサーブ化を徹底した結果、テクニカルサポートの負担は1日3〜4件の質問対応から週2時間まで圧縮された。本人の言葉では「自動化できるものはすべて自動化すること。買い手は手のかからないビジネスを見たがる」。属人的な運用が残る事業は、この価格帯では買い手の評価から直接差し引かれる、という売り手側の実感である。

売却プロセスの解像度——NDA25人、面談6人、オファー3件

本件はマイクロSaaS売却の「歩留まり」が具体的に見える稀な記録でもある。Acquire.comへの掲載から成約まで2ヶ月。NDAに署名した関心者が25人、実際に面談したのは6人、オファーは3件。25→6→3という絞り込みは、この価格帯の売却で成約までに何件の初期接触が要るかの目安になる。実務上の最難関は、意外にもStripeアカウントの移譲だったという。

売却動機は「2年間この事業をやってきて、新しい挑戦の準備ができていた。作りたいアイデアが他にあった」。一方で、目標額の$300Kに届かなければ売らずに持ち続けていたとも明言している。「売り急がない売り手」だったことが、3件の競合オファーと4倍という倍率の背景にある。希望額を切ったオファーを受ける必要がない売り手は、交渉で常に降りられる側に立つ。

買い手Bruno Morencyの計算

Morency氏は、スタートアップインキュベーターTechstars Montréal AIの元マネージングディレクターで、自身もSaaS事業を売却した経験を持つ。「小さくて利益の出る会社のポートフォリオを、ゆっくり確実に作りたい」と語り、年2社の買収を目標に掲げる。Potionはその1件目だ。MicroAngelと同様、「個人が個人からSaaSを買って運営する」市場の買い手側に、目利きの効く元投資家・元創業者が参入している構図であり、売り手にとっては買い手の質が上がっていることを意味する。

エコシステムの隙間と、その賞味期限

PotionはNotionというプラットフォームの「ページを外に公開したい」という欲求の隙間を埋めるツールで、Flusk(Bubble)やSnapbytes(Atlassian)と同じエコシステム内創業だ。Notionの普及がそのまま見込み客の増加になる一方、Notion自体が公開機能を強化すれば市場ごと消えるリスクを常に抱える。$300Kという価格は、このプラットフォームリスクのプレミアムを織り込んだ着地といえる。

エコシステム内創業の値付けには一貫した法則がある。本体が「やりそうで、やっていないこと」ほど儲かり、本体が「やった瞬間」に価値が消える。売り時の判断は、本体のロードマップを読む力に等しい。Morency氏が「Notionの成長性」を買った以上、このリスクは対価とともに買い手へ移転された。倍率4倍はその引受料でもある。

影の部分——公開の代償と、28歳の2回目の売却

build in publicは諸刃でもある。MRRから施策まで公開する以上、その数字は競合にも見えている。Notionページのサイト化は技術的な参入障壁が高い領域ではなく、Potionの差別化はSEO最適化とページ速度、そしてBragg氏個人のオーディエンスに支えられていた。属人的なオーディエンスは譲渡できない。買い手が引き継げるのはプロダクトと顧客だけで、集客エンジンの一部は売却と同時に失われる構造だ。

なおBragg氏は当時28歳で、本件が2度目の売却になる。売却後は仮想通貨投資の信頼性評価サイトTrustScoreに取り組んでおり、正規の暗号資産企業からのスポンサーバナー広告で収益化する構想だという。$300Kは「人生が上がる」金額ではないが、作っては売るを繰り返すシリアル型キャリアの一里塚としては十分に機能している。

再現の条件と限界

規模や地域を替えても残るのは3点。(1)成長中のプラットフォームの「公開したい」という欲求の隙間は、ソロ開発者でも届く市場であること。(2)数字の公開履歴が売却時のデューデリジェンスコストを下げること。(3)Acquire.comのような売買市場では、25件の接触から3件のオファーという歩留まりが起こりうること。加えて、サポート負担を週2時間まで落とした「手離れの作り込み」は、地域を問わず売却価格に直結する変数だ。

一方で、24時間で1,000フォロワーという初速は、Bragg氏が英語圏のインディーハッカー文脈の中にいたから起きた現象で、日本語圏のXで同じ導線を組んでも母集団の規模が一桁以上違う。そしてMicronsで$2,223のアプリが売買される水準から本件の$300K、さらにMicroAngelのような個人ファンドまで、個人が個人からSaaSを買って運営する市場が価格帯の全域で成立しているのは、今のところ英語圏の話だ。作る技術は輸入できても、この出口の厚みまでは輸入できない。事業設計の前提が一段違うことは踏まえて読む必要がある。

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出典

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