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被リンク設計SaaSのSEOJet、「売却前の1年」で価格を2倍にした準備の中身

被リンクのアンカーテキスト設計を支援するSEOJetを、創業者Adam White氏は売却前の追加の作り込みによって当初想定の2倍の価格で売却した。「売る前の1年」が売却額を最も動かすことを示す実例。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

被リンク設計SaaSのSEOJet、「売却前の1年」で価格を2倍にした準備の中身

15回売った男の、16回目の売却

SEOJetの売却は、事業そのものより売り手の練度に注目して読む事例だ。創業者のAdam White氏は2009年以来15以上のオンライン事業を売却してきた連続売却者で、本人によればADHDの気質があり、事業が黒字化して安定すると興味を失う。作っては売るサイクルは、その気質を欠点ではなく資産に変える運用法だった。SEOJetはそのサイクルの一つに過ぎないが、最初に受けた50万ドルのオファーを断り、最終的に7桁ドル台(low 7-figures、約1.5億円超)で売却した過程には、「売る」という行為の技術がまとまって詰まっている。

事業の中身——アンカーテキストという極小の隙間

SEOJetは2017年創業。被リンクのアンカーテキスト比率を「自然なプロファイル」に設計するためのSEO実務ツールで、上位表示サイトのリンク構成をモデルに、どんなテキストでリンクを張るべきかを提示する。収益源は2本あり、サブスクリプションのツール本体に加えて、SEO代理店向けに300以上のサイトへ記事を配信するコンテンツシンジケーションを提供していた。顧客は約200のSEO代理店・実務家。

被リンクのアンカーテキスト設計という極端に狭い領域は、AhrefsやSemrushのような総合ツールが「機能の一つ」として雑に扱う場所だ。狭さゆえに大手は本気を出さず、実務家は専用ツールに金を払う。約200クライアントという規模は小さく見えるが、この狭さでは十分な密度であり、TopicRankerと同じ「総合ツールの隙間で生きる」型である。

ただし、この立地には固有の逆風もあった。顧客がSEOのプロである以上、「SEOツールを売る会社のSEOと実績」は常に品定めされる。White氏自身、競争の激しいSEO業界で信用を確立することの難しさを苦労として挙げている。玄人相手の商売は、単価と継続率が高い代わりに、入口の信用のハードルも高い。なお同氏の経歴も事業と地続きで、CNBCの番組「The Profit」で知られる実業家Marcus Lemonis氏のSEO担当を務め、解雇された過去を持つ。その後の15回の売却歴は、この解雇から始まった再起の記録でもある。

数字の推移

項目数字
創業2017年
顧客数約200(SEO代理店中心)
売却前の年間売上約18万ドル → 36万ドル(6ヶ月で倍増)
最初の買収オファー50万ドル
最終売却価格7桁ドル台(正確な額は非公開)
売却年2021年
売り手の売却歴2009年以降、15事業以上

価格を2倍にしたのは「磨き込み」より「勢い」

事業の売却価格は「収益×相場倍率」で決まると思われがちだが、同じ収益でも倍率は大きくぶれる。SEOJetでぶれを作ったのは、売却直前の6ヶ月だった。成長が頭打ちになり、マーケティングチャネルが枯れた状態で届いた最初のオファーが50万ドル。White氏はこれを受けず、Facebook広告という新しいチャネルを開拓して6ヶ月で年間売上を18万ドルから36万ドルへ倍増させ、数字が上向いている最中に7桁で売り抜けた。本人の弁の要旨はこうだ。「立て直して、上向いているときに売れば、手にする額はまるで違う」。

この6ヶ月の前後で、事業の中身はほとんど変わっていない。同じプロダクト、同じ顧客層、同じ運営者だ。変わったのは売上の水準と、なにより成長曲線の向きである。買い手が値付けするのは過去の実績ではなく、引き継いだ後の期待値だから、同じ36万ドルの売上でも「伸びた結果の36万」と「頭打ちの36万」では倍率が変わる。オファー額50万ドルと最終売却額7桁ドルの差は、この位相の差の値段だ。属人性の除去、MRR・解約率など数字の整備、引き継ぎ資料の作成といった定番の下ごしらえ(おにちゃん氏の課題の正直開示やEarlynameの引き継ぎ動画がサイト売却版の実例だ)が「減点を消す」作業だとすれば、売り時の選択は「掛け算の係数そのものを変える」作業で、動く金額は後者の方が大きい。売却は「決めた日に出品する」イベントではなく、成長曲線のどの位相で市場に出すかを選ぶプロジェクトである。

もう一つ見逃せないのは買い手だ。名前は非公開だが、過去にWhite氏の別の事業を買ったことのある人物だという。15回の売却を通じて買い手側との関係が資産化しており、初めての売り手が仲介プラットフォームで一から信用を作るのとは別のゲームを戦っている。

消えた25万ドル——スパムフォルダの6ヶ月

順風の話だけではない。SEOJetでは自動送信メールが6ヶ月にわたってスパム判定され続け、約6,000件のサインアップ依頼を取りこぼし、推定25万ドルの売上を失った。月次でファネルの数字を突き合わせていれば6ヶ月も放置されるはずのない障害が、少人数運営の死角で放置された。年商36万ドルの事業にとって25万ドルはほぼ1年分の売上に相当する。小さなSaaSの最大のリスクは競合ではなく、誰も見ていない配管の破裂。この教訓をこれ以上ない金額で示した失敗談である。

移植できる原則、できない前提

日本の読者がそのまま借りられる部分は三つある。総合ツールが手を抜く極小領域は、200顧客規模でも売却可能な事業になること。売り時は「安定期」ではなく「上向きの最中」であること。自動化した配管(メール、決済、通知)の監視は売上の生命線であること。

一方で、割り引くべき前提も明確だ。7桁の売却額は、15回の売却経験と既知の買い手という、初めて事業を売る人間には存在しない資産の上に成り立っている。また「6ヶ月で売上倍増」は、当時まだ効率の良かったFacebook広告というチャネルの発見に依存しており、同じ再現を狙って広告費を注ぎ込めば、倍増ではなく利益の消失で終わる公算の方が大きい。最初の売却でこの倍率を目標にするより、White氏が15回かけて積んだ「売却の場数」そのものを小さく積み始める方が、この事例の正しい使い方だろう。

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出典

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