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Milk Road、創刊10ヶ月・購読25万人のクリプトニュースレターを売却。ブームの頂点で降りた教科書

連続起業家Shaan Puri氏らが2022年1月に創刊したクリプトニュースレターMilk Roadは、わずか10ヶ月で購読25万人に達し、同年内にBitfoへ売却された。「作って、伸ばして、ブームのうちに売る」を最速で完走した事例。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

Milk Road、創刊10ヶ月・購読25万人のクリプトニュースレターを売却。ブームの頂点で降りた教科書

起点と終点

Milk Roadは、連続起業家Shaan Puri氏とBen Levy氏が2022年1月に創刊したクリプト(暗号資産)ニュースレター。「クリプト市場で今日何が起きたか」を軽妙な文体で毎朝届け、わずか10ヶ月で購読25万人に達し、同年12月にクリプトメディア企業Bitfoへの売却が完了した。創刊から出口まで1年未満——本メディアで扱う事例の中でも最速の完走である。売却額は非公開だが、対価にはBitfoの株式が含まれる(買い手のKendall Saville氏がThey Got Acquiredへのメールで認めた)。投資家のSuleman Ali氏が「8桁(1,000万ドル以上)の成果」とツイートしたが、これは当事者が確認していない未確認情報だ。

2人はEコマースやeスポーツで事業を興し、ライブ配信サービスBlabの失敗も経験してきた組である。2022年初頭、次のプロジェクトを探していた2人は、共通の関心事だったクリプトを題材に選んだ。コンセプトは創刊直後にPuri氏が自身のポッドキャストで語っている。「賢い友人が、今日クリプトで起きている面白いことを1つか2つ、飾らない平易な英語で説明してくれる」ようなニュースレター。堅苦しく難解な業界メディアの、意図的な逆張りである。

成長曲線と初期投資

時期数字・出来事
創刊前友人に配ったGoogleドキュメントが原型。ロゴはCanvaで即席、ドメインmilkroad.comに2,000ドル
2022年1月創刊。配信基盤はBeehiiv
創刊3週間購読1万6,000人超(1日750人超のペース)
2022年春100万ドルの公開ウォレット運用を開始
創刊6ヶ月弱購読10万人、開封率45%
2022年12月購読25万人、Bitfoへ売却完了

開封率45%は、業界平均とされる34%を大きく上回る。単にリストが大きいだけでなく、毎朝読まれるリストだった。広告媒体としての価値はこの2つの積で決まる。一方で初期投資は事実上ドメイン代と広告費のみ。毎日書き続けることの消耗を見越して、2人は最初から「1年だけの実験」と期限を切っていた。

成長の機械を分解する

10ヶ月で25万人という成長は、ゼロからの積み上げではない。Puri氏は人気ポッドキャストMy First Millionの共同ホストとして、既に数十万人の観客を持っていた。相方のSam Parr氏はビジネスニュースレターThe Hustleを2021年にHubSpotへ売却した人物で、Puri氏はThe Hustleの成長プレイブックをそのままMilk Roadに適用したと語る。しかも構築の過程自体を番組とTwitterで公開し続けた。新規事業の告知を自分の番組でできる人間にとって、立ち上げコストは限りなくゼロに近い。Marc LouやLevels氏と同じ「観客を持つ者の複利」である。

ただし、25万人の主エンジンは観客の転用ではなく広告の買い付けだった。Milk Roadの成長を支援したグロースマーケターMatt McGarry氏によれば、チームはFacebookとTikTokに重点的に広告を張り、獲得単価は購読者1人あたり1.00〜1.30ドル。Facebook経由だけで15万人超、つまり全購読者の6割を有料獲得している。2022年前半のクリプトへの記録的な関心が、この単価でリストを積める環境を作っていた。テーマの熱は読者の需要であると同時に、広告オークションで安く買える追い風でもあった。

有料獲得したリストを「読まれるリスト」に変えたのが編集と仕掛けだ。紹介プログラムでは、友人1人の紹介でLevy氏が書いたPDFレポート「What 12 Crypto Whales are Betting On」を配布。配信基盤Beehiivの共同創業者Tyler Denk氏はこの設計を「PDFなんて転送で出回るはずだと突っ込むこともできるが、13個のグループチャットで『誰か持ってない?』と聞いて回るより、自分のリンクで1人に登録してもらう方が、正直なところ手っ取り早い」と評した。さらに毎日の読者投票(Beehiivのポーリング機能)で反応を計測し続け、その示唆で内容を読者の関心に寄せていった。チームはライター、SNS担当、広告営業を抱える規模まで広がり、収益化はニュースレター内の広告枠で行った。

極めつけは2022年春のスタントである。100万ドルを公開ウォレットに入れ、運用過程を読者に晒した。この資産は市況の下落で70%減となったが、登録者はむしろ増え続けた。Puri氏はツイートで「教訓:クレイジーなスタントは効く。ただし墜落に備えてヘルメットをかぶれ」と総括している。Levy氏が掲げたプロジェクトの目標(「BTC(ビットコイン)の価格がどうであれ、最大限楽しむこと」)を地で行く損失の使い方であり、発行人も読者と同じ痛みを負っているという事実自体がコンテンツとして機能した。開封率45%は、こうした仕掛けの集積の結果である。

Slackの一言から転がり始めた売却

出口の経緯は偶発的だ。ある日、Puri氏はSlackでLevy氏に「今すぐ売るとしたらいくらで売る?」と聞いた。「分からない。売りたいのか?」「そうは言っていない」。それでも2人が思い浮かべた金額は一致し、売れるかどうか試すことにした。奇遇にも同じ日、Levy氏はBitfoの共同創業者Kendall Saville氏・Mike Wittmeyer氏と会話を始めていた。それも売却ではなく、Milk Roadの購読者を増やす提携の相談として。この協議が、そのまま買収交渉へ転じていく。

Puri氏は自身の売却動機をこう語っている。「何もないところから『何か』を見つけ出すのは得意だ。だが、その『何か』を日々磨き込んで改善していくこと(ビジネスの価値の大半はそこで生まれるのだが)には興奮しない」。数年持てばまだ伸びると認めた上で、運用フェーズに入る前に降りる。自己認識に基づく出口である。

買い手のBitfoはEthereumPrice.org、BitcoinPrice.com、PlaytoEarn.onlineなどを運営するクリプトメディア企業。2人は「クリプト版NerdWallet(米国の金融比較メディア)」をゼロから作ることを検討していたが、探していたものが毎朝自分たちの受信箱に届いていることに気づいた、とSaville氏は明かす。Wittmeyer氏の説明はSEO事業者らしい。「Googleは、ユーザーが実際に検索しているブランドを評価する方向へ大きく動いた。Milk Roadは1日に何百回も検索されている。人間がこのブランドに関心を持っている証拠だ」。検索流入で成り立つ価格情報サイト群に、「毎朝届くリスト」と「指名検索されるブランド」を接ぎ足す計算である。

交渉は「ジェットコースター」(Saville氏)だった。折からのクリプト市況の急落が価格の前提を揺らし、取引は2度、破談寸前まで行っている。さらにデューデリジェンスの過程では、Wittmeyer氏が過去の事業で負っていたギャンブル関連コンテンツの競業避止条項と、Milk Roadが一時ギャンブル系スポンサーを載せていた事実が衝突していることが合意後に判明し、追加の調整を要した。取引は2022年12月に完了。売却後はPuri氏がBitfoの取締役会に入り、Levy氏がニュースレターの執筆を継続。サイトは日々のニュースに資料的なガイド群を加えた形にリニューアルされ、ポッドキャスト展開も計画された。なおThey Got Acquiredの取材に対し、Puri氏はインタビューを辞退し、Levy氏は回答していない。

「ブームの頂点で降りる」を実行する難しさ

テーマ型メディアの価値は、テーマの熱と同期して減衰する。クリプトの冬が来れば、購読者の開封率も広告単価も落ち、売却価値は数分の一になる。創業者たちはそれを正確に理解し、熱があるうちに現金化した。The Neuron(AI・2年で売却)よりさらに速い判断だ。

言うは易いが、伸びている事業を売るのは心理的に最も難しい。「まだ伸びるのに」という感覚が売り時を逃させる。Milk Roadの教訓は明快で、テーマ型事業の売り時は「成長が続いているのに、テーマの持続性に自信が持てなくなった瞬間」である。成長の鈍化を確認してからでは、買い手も同じものを見ている。実際、本件の交渉自体が市況下落に追いかけられながらの駆け込みだった。数ヶ月遅ければ、同じリストに同じ値は付かなかった可能性が高い。

割り引いて読むべき点

この事例を再現可能な手法として読む前に、割り引くべき点が3つある。購読者の6割は広告で買ったリストであり、オーガニックな支持の証明としては読めないこと。1ドル前後という獲得単価はクリプトブームという特殊な需給の産物で、平時のニュースレター獲得広告はこの水準では回らないこと。そして対価の一部がBitfo株式である以上、創業者たちは売却後もクリプト市況のリスクを株式の形で負い続けており、「頂点で全額現金化した」わけではないことだ。8桁という金額も第三者のツイート以上の裏付けがない。

日本の読者が別の題材に読み替えられるのは、観客を先に持つ者は事業の立ち上げコストが構造的に低いこと、テーマ型メディアは熱のあるうちしか売れないこと、広告でリストを買うなら開封率という「質の証拠」を同時に作る必要があること。読み替えが効かないのは、獲得単価を成立させたブームの規模と、リスト単体を8桁で評価し得る買い手層の存在である。

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出典

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