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EventMB、イタリアの副業ブログが業界メディアの盟主に。2度の破談を越えたSkiftへの売却

2007年に南イタリアで始まった副業ブログEventMBは、イベントテック専門メディアとして購読5万人・月間30万訪問まで成長し、2019年に旅行業界メディア大手Skiftへ売却された(額非公開)。2度の破談、夫婦経営、そして売却後にパンデミックが追い風になった稀有な結末まで。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

EventMB、イタリアの副業ブログが業界メディアの盟主に。2度の破談を越えたSkiftへの売却

2007年に南イタリアで始まった一人の副業ブログが、12年後、イベント業界の標準的な情報源として業界メディア大手に買われる——EventMB(現Skift Meetings)の物語には、個人ブログがメディア企業に化けるまでの要素がほぼ全部入っている。国境をまたぐ移住、配偶者の経営参画、先行する小さな売却、2度の破談、そして売却直後のパンデミック。長い時間軸の「出口」を考える読者ほど得るものが多い事例だ。

タイムライン

時期出来事
2007年Julius Solaris氏が南イタリアで副業ブログとして開始(テーマ: イベント×テクノロジー)
2011年広告主が付き収益化開始
2016年「卓越した能力を持つ個人」向けEB1ビザで米ラスベガスへ移転
2017年併営のWordPressテーマ事業ShowThemesを6桁ドルでImagelyに売却(住宅頭金に充当)
2019年9月Skiftへ売却(3度目の交渉で成立。過去2回は破談)
2020年パンデミックでバーチャルイベントが爆発。旧EventMB(Skift Meetings)は売上目標を超過達成

事業の数字

項目数字
購読者50,000人超
月間訪問300,000
体制Solaris氏+妻のCarmen Boscolo氏+フリーランス7人
売却額非公開

12年かけて何を積んだのか

開始は2007年、イベント運営とテクノロジーの交差点という、当時ほとんど誰も専門に書いていなかったテーマだった。南イタリアからロンドンへ移った後も執筆を続け、読者が付き、2011年(開始から4年後)にようやく広告主が現れて収益化が始まる。読者の中心は米国で、ドルで稼ぎポンドで暮らす為替の不利も、事業を本格化させる動機になった。

2016年には「卓越した能力を持つ個人」向けのEB1ビザを取得して米ラスベガスに移転。イベント産業の集積地に身を置く判断で、ブログはこの頃には購読5万人・月間30万訪問の業界メディアに育っていた。個人ブログの規模ではなく、レポートや調査を出し、カンファレンスに登壇する「業界標準の情報源」である。

「クリエイター」から「メディア」への転換

転機は妻のBoscolo氏が「社員2号」として参画し、ブログをメディア企業へ再編したことだ。Solaris氏の述懐が刺さる。「クリエイターであることと、事業を成長させることは、多くの場合両立しない」。コンテンツを書く人間と、営業・組織・数字を見る人間の分業が、フリーランス7人を抱える体制と「業界標準の情報源」への格上げを可能にした。

もうひとつの伏線が2017年のShowThemes売却である。イベント業界向けWordPressテーマという併営事業を6桁ドルでImagelyに売り、ラスベガスの住宅頭金に充てた。金額以上に大きかったのは、売却という手続きを一度小さく経験したことだ。この予行演習が、本丸のEventMB売却に臨む自信につながったと本人は語っている。

破談2回の中身と「Know your worth」

EventMB本体の売却交渉は2度破談している。破談の直後は自信を失った状態だったと記事は伝えており、その状態で迎えた3度目の交渉相手がSkiftだった。橋渡しをしたのはSkiftのイベント担当記者(旧知の仲)である。2019年9月、売却成立(額は非公開)。

本人が残した教訓は「Know your worth(自分の価値を知れ)」。破談は失敗ではなく、価格と条件の学習機会だった。初回の破談で心が折れて安売りするのが最悪のパターンであり、PsychCentralの「最初のオファーを起点に吊り上げた」交渉と同根で、複数回の交渉経験そのものが売り手の値付け能力を作る。

数字の裏を読む

「配偶者が事業側に回る」のは最小のチーム化として合理的。 FeedbackPandaの夫婦、BeQuickの家族経営と同じく、信頼コストゼロで職能を補完できる。クリエイター型の個人事業が「売れる会社」になるには、本人以外の誰かが経営を持つ必要がある。

売却タイミングの運も実力のうち。だが仕込みがあってこそ。 売却半年後にパンデミックが起き、皮肉にもバーチャルイベント特需で買収は大成功になった。Skift Meetingsと改名された旧EventMBは、パンデミック前に立てた売上目標を超過達成している。12年間「イベント×テック」を掘り続けた蓄積が、環境激変の瞬間に最大の価値を持った。ニッチの深掘りは、いつ来るか分からない需要爆発への保険でもある。

小さな売却が大きな売却の練習台になる。 ShowThemes(6桁ドル)→EventMB(本丸)という順番は、Earlynameの「小さく売る」を個人のキャリア内で直列につないだ形だ。交渉・デューデリジェンス・引き継ぎの経験値は、規模を上げる前に低リスクで買っておける。

売却後に残ったもの、残らなかったもの

売却はゴールの顔をしていない。Solaris氏はSkift傘下で編集長(editor-in-chief)に就いたが、その後、パンデミック対応の疲労もあって同社を離れている。事業は最高の追い風を受けたが、創業者本人はその渦中で消耗した。売却後のアーンアウト期間や雇用継続が幸福とは限らないことは、この種の事例で繰り返し現れる帰結だ。

その後はイベントマーケティングのコンサルティング会社Boldpushを創業し、ニュースレターは初年度で購読者9,000人、Fortune 500企業のイベントマーケティングを顧客に持つ。「買収されても起業家精神はなくならない」という本人の言葉どおり、12年のニッチ蓄積は売却後も別の器で収益化されている。売れたのは媒体で、専門性は本人に残った。

日本の読者にとっての再現条件

  • 日本に持ち込めるもの: 「業界×テクノロジー」の交差点を長期で掘る専門メディア戦略は、日本のB2B領域(建設×IT、物流×IT等)でも空白が多い。配偶者・パートナーが経営側を持つ最小チーム化。小さな併営事業を先に売って売却経験を積む順番。破談を学習機会として価格認識を更新する構え
  • できないもの: 12年という時間投資が前提で、短期の再現は構造的に不可能。英語圏の業界メディアは市場規模と広告単価が日本語圏より大きく、購読5万人の価値が同じにはならない。EB1ビザ取得やSkift記者との人脈のような個別条件も移植できない。売却額が非公開のため、対価の妥当性そのものは検証できない

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出典

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