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就農1年目の所得157万円、うち補助金242万円。チンゲンサイ1袋120円は原価割れだった

徳島にUターン就農した「さわちん」氏が連載で公開した1年目の実額。2021年通期は売上124万円に対し経費208万円で、販売単体では約84万円の赤字。所得157万円は雑収入242万円が支えた。1袋120円の値付けは原価計算で154円必要と判明した。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

就農1年目の所得157万円、うち補助金242万円。チンゲンサイ1袋120円は原価割れだった

月商10.3万円は、月商を公開している掲載227件のうち下から14%。掲載全体の月商中央値は157万円です(データ集計)。

新規就農の記事で「1年目の所得」が出てくることは珍しくない。だが、そこに自分と配偶者の労働時間を最低賃金で換算した人件費まで足して、マイナスを表示している記事はほとんど無い。

農業メディアSMART AGRIで連載された「さわちんの『リアルタイム新規就農日記』」は、それをやっている。徳島にUターン移住して2021年から就農した「さわちん」氏(コケチンファーム代表)が、四半期の粗利・経費・人件費、そして通期の収支表を、連載のなかで実額のまま出している。

まず四半期の数字を見る

第8回で公開されたのは2021年第1四半期(4〜6月)の内訳である。本人が第2四半期ではなく第1四半期を選んだ理由も明記されていて、「第2四半期にほとんど売上がないため」——就農1年目に長い夏休みを取っていたからだという。

項目(2021年4〜6月)金額
粗利(売上−出荷手数料)436,027円
経費−206,665円
人件費(最低賃金換算)−469,680円
所得−240,318円

人件費の内訳はこうだ。4〜6月の夫婦の稼働は合計574時間。平均190時間/月だが、本人の稼働が妻の約2倍と見て、さわちん氏120時間/月・妻70時間/月と配分している。これを徳島県の最低賃金824円(2021年10月現在)で計算すると、本人296,640円・妻173,040円、合計469,680円になる。

人件費を除けば所得は229,362円、月あたり76,454円。本人は「これでは生活が難しいなぁ、どうしようかなぁと凹み気味になってしまいました」と書いている。

転機は、値付けの根拠が入れ替わった瞬間だった

この連載で軌道が変わった一点を挙げるなら、売上でも面積でもない。「120円」という価格の根拠が、家計の願望から原価計算に置き換わった瞬間である。

そもそもチンゲンサイ1袋を120円(税抜)に設定した理由を、本人はこう書いている。「4人家族の副菜一品になる程度のボリューム=120円」という、さわちん一家の家計から考えた願望が反映されているから、と。買う側の財布から逆算した値付けであって、作る側の原価は入っていない。

第8回では、その120円が正しいのかを自分で検算している。月収30万円を目標に置くと、補助金加算後の月収263,954円に対して36,046円足りない。四半期に出荷した4,187袋を分母に、出荷手数料30%を前提として上乗せ額xを解くと、

4,187袋 ×(1−0.3)× x = 36,046円 × 3か月 → 0.7x ≒ 26円 → x = 37円

結論として、必要な価格は1袋154円(税抜)。120円 → 154円、約28%の値上げが必要だったというのが、原価から出てきた答えである。

数字の上でこの日から何かが急変したわけではない。変わったのは判断の土台だ。以後、この連載は「いくらで売れるか」ではなく「いくらで売らなければ成り立たないか」を先に置いて書かれるようになる。本人の言葉でいえば「こうやって振り返って計算してみると、自分にとって適正な価格というのがわかりますね」であり、同時に「しかし、適正価格が売れる価格かどうかは、別の話」という留保もその場で付けている。

通期の収支表が示したもの — 稼ぎの66%は雑収入

第12回では2021年の通期収支が公開されている。

収入の部金額構成比
売上1,240,597円34%
雑収入2,417,300円66%
合計3,657,897円100%
経費の部金額構成比
諸材料費842,088円40%
荷造運賃198,609円10%
肥料費136,123円7%
その他903,325円43%
合計2,080,145円100%

所得は3,657,897円−2,080,145円=1,577,752円。

ここで一つ引き算をしておきたい。売上1,240,597円から経費2,080,145円を引くと、−839,548円になる(本サイト試算)。つまり作って売る活動だけを取り出すと、1年目は約84万円の赤字だった。表示された所得157万円は、雑収入241万7,300円が丸ごと支えている。

その雑収入の柱として記事に挙がっているのは、「農業次世代人材投資資金〜経営開始型〜」(夫婦で年間225万円のうち112万5,000円が10月に給付)、「就職氷河期世代の新規就農促進事業」(2021年10月と2022年2月に75万円ずつ)、そして11月に計上された地域の設備補修交付金である。第8回でも、年225万円を月ベースに直した18万7,500円を所得に加算して、月収263,954円という数字を出している。

もう一つ、粗利から単価を逆算しておく。4,187袋 × 120円 = 502,440円に対し、記載の粗利は436,027円。差額66,413円は出荷手数料にあたり、率にすると約13%(本サイト試算)。値上げ額を求めた計算では手数料30%を前提に置いていたので、実際の手数料率とは前提が違う。仮に13%で解き直せば必要な上乗せ額はもう少し小さくなる。自分の事業の数字であっても、前提の置き方ひとつで答えが動くことの実例として読める。

効いたのは「記録があったこと」

この事例で本当に効いた要因は、栽培技術でも販路でもない。記録が残っていたことである。

574時間という稼働時間、4,187袋という出荷数、費目別に割れた経費。この3つが揃っていたから、人件費を最低賃金で換算するという計算も、1袋あたりの必要価格を解くという計算も成立した。連載第5回のタイトルが「新米農家は記録が肝心!『アグリノート』を使ってみた」であることからも、記録は就農直後から意識的に取られていたとわかる。

裏を返すと、記録が無い状態では「なんとなく安すぎる気がする」で止まる。120円が正しいか間違っているかを判定する装置が、初年度から手元にあったことが決定的だった。

もう一つ効いているのが、単一品目に絞っていることだ。チンゲンサイ1袋という単位が固定されているため、経費総額を袋数で割るだけで単位原価が出る。品目が10種類あれば、この計算は一気に面倒になる。

第10回で本人は2021年を自己採点し、収穫量70点(害虫被害で何回も大量のチンゲンサイを廃棄、8〜10月はほぼ収穫がない)、労働時間80点(コンテナ数あたりの作業時間が減ってきている)と振り返っている。そのうえで「誰がやっても同じ結果が出るような基準を見つけられたら、いろいろ楽になるのになぁ」と書く。作業を属人技能から基準に落とそうとする姿勢は、記録を取る習慣と同じ根から出ている。

うまくいかなかったこと、と限界

一方で、この1年目には明確な失敗も残っている。8〜10月にほぼ収穫が無かったこと、害虫被害で大量廃棄が繰り返されたこと、ネットショップは第7回で計画を立てながら第8回時点でも開業できていないこと。本人が挙げる開業できない理由は「受注管理や商品管理、顧客管理など、商品の売買には直接関係ないところまで決めなければいけない」からだ。自由な価格設定という値付け問題の出口が、事務作業の重さで塞がっている。

圃場面積は約12aから20aへ拡大した。移住直後に師匠をはじめとする先輩農家から「2反(20a)は必要だぞ」と言われていた水準に、ビニールハウス付き農地を新たに借りることで到達している。ただし本人も「いろんな縁あって達成することができました」と書くとおり、農地の確保は努力より縁の要素が大きい。

どこが再現でき、どこが再現できないか

再現できるのは計算の型のほうである。自分と家族の稼働時間を記録し、地域の最低賃金で換算して原価に載せる。単位(1袋、1件、1時間)を1つ決めて、経費総額をその数で割る。目標所得から逆算して必要単価を出す。この3手順は農業以外のどんな個人事業でも同じ手つきで使える。

再現できない条件も、はっきりしている。

第一に補助金である。1年目の収入の66%を占めた雑収入は、「新規就農」「就職氷河期世代」という要件を満たす人にしか出ない。この2つが無ければ、1年目の所得は−84万円のままだった。副業や独立を検討する人がこの事例から「所得157万円」だけを持ち帰ると、判断を大きく誤る。

第二に、人件費の換算に使われた徳島県の最低賃金824円(2021年10月現在)という水準である。都市部の賃金水準で同じ計算をすれば、赤字幅はさらに広がる。移住先の物価と賃金がセットで効いている。

第三に、農地と師匠の存在。20aへの拡大も、2反という目標水準の設定も、地域の先輩農家との関係の上に乗っている。

数字を出す誠実さと、その数字が誰にでも当てはまるわけではないという事実は、両立する。この連載の価値は、前者を守りながら後者を隠さなかったところにある。

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