評価額435億円の会社が、1株1円で売られた。Origamiの2018年は売上2.2億円に営業赤字25億円だった
- 2019年9月の調達後評価額
- 435億円
- 報道された譲渡価格。総額約259万円
- 1株1円
- 2018年の営業赤字は売上の11倍
- 11倍
スマホ決済のOrigamiは累計で少なくとも87億円を集め、2019年9月の調達後評価額は435億円とされた。4か月後、メルペイが全株式を取得する。報道によれば譲渡価格は1株1円、総額で約259万円。買い手の開示資料には、2018年12月期の売上2億2,200万円と営業損失25億4,400万円が載っていた。
435億円の会社が、259万円で売られた。
スマホ決済のOrigamiは、2019年9月の資金調達のあと、潜在株を含めた評価額が435億5,700万円とされていた。その4か月後の2020年1月、メルカリ傘下のメルペイがOrigamiの全株式を取得すると発表する。取得価額は非公表だった。ダイヤモンド・オンラインは複数の関係者の話として、譲渡価格は1株1円、発行済みの259万株で総額およそ259万円だったと報じた。
評価額から譲渡額までは、ざっと1万7,000分の1になる。数字の落差だけなら、伝説的な失敗はほかにもある。Origamiが違うのは、落ちる前の会社の中身が、買い手の開示資料にそのまま載っていることだ。2018年12月期の売上は2億2,200万円、営業損失は25億4,400万円。赤字が売上の11倍あった。
Origamiは事業会社と投資家から大きな資金を入れたスタートアップで、小さく始めた事業の記録を集める事例の掲載条件からは外れる。ここではコラムとして、評価額と売上と赤字を同じ表に並べて読む。
設立からアプリの全機能終了まで
| 時期 | 出来事 | 数字 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 2012年2月 | 株式会社Origami設立 | メルカリの開示 | |
| 2013年4月 | 第三者割当増資 | 5億円 | INITIAL |
| 2015年4月 | 第三者割当増資 | 16億円 | INITIAL |
| 2016年 | スマホ決済「Origami Pay」を開始 | 売上5,300万円、営業損失6億8,900万円(12月期) | メルカリの開示 |
| 2017年 | 売上1億7,800万円、営業損失13億600万円 | メルカリの開示 | |
| 2018年9月 | シリーズC、信金中金と資本業務提携 | 総額66.6億円 | INITIAL、メルカリの開示 |
| 2018年 | 売上2億2,200万円、営業損失25億4,400万円 | メルカリの開示 | |
| 2019年9月 | 調達後の評価額(潜在株含む) | 435億5,700万円 | INITIAL |
| 2020年1月23日 | メルペイが全株式の取得を発表 | 2,591,273株、価額は非公表 | メルカリの開示 |
| 2020年2月 | 報道された譲渡価格と人員 | 1株1円・総額約259万円、社員185人の約9割を削減 | ダイヤモンド |
| 2020年6月30日 | Origamiアプリの全機能を終了 | BCN+R |
調達額はINITIALの無料公開範囲にある3回の合計で、少なくとも87億6,000万円になる。これより後の調達があったかどうかは確かめていない。
3年で、売上は4倍、赤字も4倍
メルカリの開示資料に載ったOrigamiの3期分を並べると、形がはっきりする。売上は5,300万円から1億7,800万円、2億2,200万円へと、2年で4倍になった。営業損失も6億8,900万円から13億600万円、25億4,400万円へと、同じ2年で3.7倍になっている。
売上が伸びるのと同じ速さで、赤字も伸びていた。2018年は、売上1円を立てるのに営業費用が12円かかっていた計算になる。
決済の会社では、これ自体は珍しくない。加盟店を増やし、使う人を増やすまでは、手数料の収入はほとんど立たない。問題は、この形がどこまで続けられるかだ。Impress Watchで鈴木淳也は、Origamiが直近の収益の大半を決済の手数料に頼っていたと書いている。手数料は決済事業者どうしで最も競争が激しい部分で、ここで勝負する限り、売上の伸びは赤字の伸びと切り離せなかった。
評価額は、売上を見て付いていたわけではない
2019年9月の評価額435億円を、前年の売上2億2,200万円で割ると、およそ196倍になる。前年の営業赤字は25億円あった。
評価額は過去の売上ではなく、将来の取り分への期待で付く。2018年9月には信用金庫の中央機関である信金中央金庫と資本業務提携を結び、地域の中小事業者にキャッシュレスを広げる道筋もあった。評価額が売上の196倍だったこと自体は、スタートアップの値付けとして説明がつく。
編集部が言い切れるのは、その期待が値段として成立するのは、次の資金が入り続ける間だけだということだ。鈴木淳也の分析によれば、新規参入と競争の激化で企業価値が下がり、資金調達が難しくなって、最後は運転資金に限界が見えた。次の調達が止まった時点で、435億円という数字は、それを払う人がいない値段になった。
1株1円という値段の組み方
メルカリの開示資料には、取引の手順が書いてある。株式を譲り渡す相手は創業者の康井義貴ひとりで、康井氏が譲渡日までにOrigamiの株式をすべて取得したうえで、メルペイに譲渡する。開示時点の大株主は康井氏が33.76%、クレディセゾンが14.74%で、ほかに22名の少数株主がいた。
つまり、投資家が持っていた株をいったん創業者が集め、まとめてメルペイに渡す形になっている。取得価額について開示資料は、秘密保持義務に基づき非公表としつつ、適切なデューデリジェンスを実施のうえ公正妥当と考えられる金額で取得した、と書いた。報道された1株1円は、その「公正妥当」の中身だったことになる。
ここからは推測だが、この値段は会社の価値を測った結果というより、会社を引き取る手続きの値段に近い。赤字が売上の11倍ある会社を、運転資金が尽きる前に引き取る。買い手が払ったのは、事業の将来ではなく、その引き取りに要る最低限の対価だったと読める。
買われたのは決済ではなく、加盟店だった
メルペイは発表時、Origami Payを一定の周知期間を経てメルペイに統合すると書いていた。実際には統合ではなく終了になった。BCN+Rによれば、2020年4月28日にコード決済などを止め、6月30日にOrigamiアプリの全機能を終えている。同じ記事は、メルペイの狙いは加盟店網にあったと伝えた。
社員も同じ道をたどった。ダイヤモンド・オンラインによれば、社員185人のうち約9割にあたる160〜170人が削減された。残ったのは加盟店との関係と、それを回す一部の人だった。
この形は、menuの終了と買収を扱ったコラムと同じ構造をしている。menuの買収も、事業を伸ばすためではなく清算のためだった。どちらも、買い手が欲しかったのはサービスそのものではなく、サービスが積み上げた取引先のほうだった。
前日に公開したダークストアのMeshの振り返りと並べると、違いもはっきりする。Meshは評価4.8のまま自分で事業を閉じ、買収の打診を断った。Origamiは運転資金が尽きる前に、売る以外の道が無くなっていた。
確かめられたことと、確かめられなかったこと
限界を書いておく。売上と赤字はメルカリの開示資料、評価額と調達額はINITIALの無料公開範囲で確かめた。譲渡価格の1株1円と社員の削減人数は、ダイヤモンド・オンラインが関係者の話として報じたもので、メルカリとOrigamiの公式な数字ではない。開示資料自体は取得価額を非公表としている。2019年以降の売上と赤字、Origami Payの利用者数と加盟店数、創業者本人の振り返りは、読めた範囲の出典に無い。評価額については、ダイヤモンド・オンラインが日本経済新聞社の調査として417億円という別の数字も挙げている。
435億円は、会社が持っていた数字ではなかった
Origamiの3期分の決算は、売上が伸び、それ以上の速さで赤字が伸びた会社の姿をしている。その上に、次の資金が入ることを前提にした435億円という値段が載っていた。
資金が止まった日、値段は1株1円になった。会社の中身が変わったわけではない。2018年の売上2億2,200万円も、営業赤字25億4,400万円も、評価額が付いていた時からずっと開示資料の表と同じ数字だった。変わったのは、その数字の上に値段を載せる人がいなくなったことだけだ。
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本コラムは、Small Startに掲載している事例(すべて出典付きの公開情報)の集計と、公開情報の分析にもとづく編集部の見解です。特定の事業・投資・副業を推奨するものではありません。
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出典
- 本人公開株式会社メルカリの適時開示(2020年1月23日)。Origamiは2012年2月22日設立、2016年にOrigami Payを開始、資本金50億5,502万円、大株主は康井義貴33.76%・クレディセゾン14.74%(他22名)。売上高は2016年12月期5,300万円・2017年12月期1億7,800万円・2018年12月期2億2,200万円、営業損失は6億8,900万円・13億600万円・25億4,400万円。取得株式数2,591,273株、取得価額は非公表、康井氏が譲渡日までに全株式を取得したうえでメルペイに譲渡
- 報道スタートアップ情報データベースINITIALの無料公開範囲。2013年4月に5億円、2015年4月に16億円、2018年9月のシリーズCで総額66.6億円を調達、2019年9月17日時点の調達後評価額(潜在株含む)435億5,700万円
- 報道ダイヤモンド・オンライン(2020年2月6日、田上貴大)の無料公開部分。複数の関係者の話として譲渡価格は1株1円、発行株数259万株で総額約259万円、社員185人のうち約9割の160〜170人を削減、日経のNEXTユニコーン調査での企業価値は417億円
- 報道Impress Watch(2020年1月28日、鈴木淳也)。運転資金に限界が見えたことが最後のきっかけとみられる、収益の大半を競争の激しい決済手数料に頼っていた、資金調達が難しくなり時間切れになった、との分析
- 報道BCN+R(2020年2月28日)。2020年4月28日にコード決済などを終了、6月30日にアプリの全機能を終了、メルペイへの統合ではなくサービス終了になったと報道