menuの終了発表に数字は1つも無い — 買収は清算のため、市場のピークは2023年だった
KDDIは2026年8月19日、フードデリバリー「menu」を9月30日で終了し会社を解散・清算すると発表した。8月31日に完全子会社化してから畳む構造、2023年でピークアウトした市場、赤字を拡大させている生存者の決算を並べて読む。
執筆: Small Start 編集部(掲載事例の集計+公開情報の分析)
KDDIは2026年8月19日、フードデリバリーサービス「menu」を9月30日で終了し、運営会社であるmenu株式会社を解散・清算すると発表した。サービスはまだ動いており、終了は1ヶ月半先である。
このニュースを「また1社消えた」で片づけると、いちばん奇妙な部分を見落とす。KDDIは畳むと発表するのと同じリリースで、8月31日に残りの全株式を買い取って完全子会社にすると書いている。買ってから、畳む。しかもその理由が明記されている。
当メディアは個人や小さなチームの事業を数字で記録している。menuは資本の入った会社であり、掲載基準からは外れる。それでも取り上げるのは、この撤退が「数字を出す事業」と「数字を出さない事業」の差を、これ以上ないほどはっきり見せているからだ。
買収の目的が事業ではなく清算である
KDDIのリリースは、レアゾン・ホールディングスが保有するmenu株式の全部を取得し、完全子会社化したうえで手続を進める方針だと述べている。目的として挙がっているのは、サービス終了に伴うユーザー・加盟店・配送員への各種対応、および解散・清算の手続きを円滑に遂行することだ。つまり買収の目的は事業の獲得ではなく、後始末の実行体制を単独で持つことにある。
時系列はこうなる。8月19日に発表、8月31日に株式取得完了、9月30日にサービス終了、その後に解散・清算。持分を49.4%持つ相手と協議しながら1万件規模の加盟店対応と清算を進めるより、買い取って意思決定を一本化したほうが早い、という判断だろう。M&Aは通常、事業を続けるために行う。ここでは終わらせるために行われている。
終了理由の言葉が、主語によって違うのも印象的だ。KDDIは「フードデリバリー市場を取り巻く競争環境の変化や今後の事業見通しを総合的に検討した結果、経営資源の最適配分の観点から」と説明する。一方、menu社自身はITmediaの取材に「今後の持続的なサービス提供が困難であると判断した」と答えている。前者はポートフォリオの言葉で、後者は当事者の言葉だ。同じ出来事を、立場の違いがそのまま語彙の違いとして表している。
ピークは2023年で、その後の「回復」は値下げで買われたもの
コロナ需要で伸びた市場が、コロナ後に縮んだ——という粗い理解は正確ではない。Circana Japan(旧エヌピーディー・ジャパン)が毎年公表しているデリバリー市場規模はこう動いている。
| 年 | 市場規模 | 前年比 |
|---|---|---|
| 2021年 | 7,909億円 | +26% |
| 2022年 | 7,754億円 | -1.6% |
| 2023年 | 8,622億円 | +11% |
| 2024年 | 7,967億円(見込み) | -7.6% |
| 2025年 | 8,240億円(見込み) | +2.0% |
ピークはコロナ最盛期の2021年ではなく、行動制限が明けた2023年である。そして2024年に7.6%減った。同社は減少の理由として、節約志向と出勤の増加によって注文機会そのものが減ったことを挙げている。
問題は2025年の「+2.0%」の中身だ。同社はこの回復の背景を、2024年の減少を受けて店頭価格と同一価格での提供や配送料の無料化といった施策が増加し、競争が激化したためと書いている。つまり市場が自然に戻ったのではなく、事業者が単価と手数料を削って注文を買い戻した結果である。金額ベースの市場規模が横ばいに見えても、その1件あたりで事業者に残る取り分は薄くなっている。この構造の中では、規模の小さいプレイヤーほど先に息が切れる。
(2024年の見込み値と2025年の伸び率には整合しない部分があり、後から改定された可能性がある。ここでは各年の公表値と伸び率をそのまま並べている)
生き残った側の決算を見る
「撤退したのは負けた会社で、残ったのが勝った会社」でもない。国内で残る大手の一角である出前館の決算は、市場が持ち直したとされる年に悪化している。
2026年8月期の第3四半期累計(2025年9月〜2026年5月)で、売上高282.9億円(前年同期比6.2%減)、営業損失63.7億円。前年同期の営業損失30.7億円から倍以上に膨らんだ。同社は同じ7月15日に通期予想を下方修正し、営業損失の見通しを40億円から79億円へ引き上げている。理由は「オーダー数やGMVが期初想定より下回る見込みのため」。利益剰余金は▲269.7億円で、自己資本比率は76.2%(2024年8月期)→73.7%(2025年8月期)→67.8%と下がり続けている。四半期ごとに1回以上購入したユーザーは290万人から245万人へ減った。
同社は2026年3月1日から「お店価格」を全国47都道府県へ広げ、送料無料を開始している。6月時点で対象は約21,000店舗。前の節でCircanaが書いていた「店頭価格と同一価格での提供や配送料の無料化」とは、具体的にはこれのことだ。値下げで注文を取り戻し、その分だけ損失が増えているという関係が、市場調査と個社の決算の両方から同じ形で見える。
一方で新規参入も続いている。ロケットナウ(米Coupangの日本子会社が運営)は2026年8月7日、対応エリアを46都道府県420都市へ拡大したと発表した。menuの終了発表の12日前である。撤退と拡大が同じ月に並ぶ市場ということになる。
menuが最後に公表した数字は4年前のものだった
menuは2018年10月設立、2019年にテイクアウト専用アプリとして開始し、2020年4月にデリバリーへ広げた。KDDIとは2021年6月に資本業務提携(持分法適用関連会社化)、2023年4月にKDDI 50.6%・レアゾン49.4%のジョイントベンチャーへ移行している。
成長期のmenuは数字を出す会社だった。2021年4月時点で47都道府県・加盟店約53,000店舗、2021年6月のKDDIとの提携リリースでは60,000店舗、公式サイトには「全国91,000店舗突破 ※2022年8月時点」と掲げている。2024年10月には、2024年上期のデリバリーアプリ新規ダウンロード数で首位を取ったと発表した。
損失も、官報の決算公告で追える範囲は残っている。2021年8月期の当期純損失28.6億円、2022年1月期は26.3億円で利益剰余金は▲54.9億円、2023年1月期は純損失31.9億円・純資産5.0億円。毎年20〜30億円台を燃やしながら加盟店を増やしていたことがわかる。それ以降の決算公告は追えず、KDDIの2026年3月期決算短信にもmenuへの言及や関連する減損の記載は見当たらない。
そして今回のリリースには、利用者数も加盟店数も配達員数も、売上も損失も、数字が1つも書かれていない。公式サイトに残る最新の規模は2022年8月時点の91,000店舗、つまり4年前のものだ。終了時点で何店舗が影響を受け、何人の配達員が仕事を失うのかは、現時点では公表されていない。加盟店・配送員への対応も「影響を十分に考慮しながら順次進めていく」とあるだけで、補償や移行先の具体策は書かれていない。
撤退の言葉は4年間ほとんど変わっていない
日本のフードデリバリーからの退出は、menuで初めてではない。
| 時期 | サービス | 公式の理由(抜粋) |
|---|---|---|
| 2021年6月 | dデリバリー(NTTドコモ) | — |
| 2022年1月 | foodpanda | 競合他社の増加や配達員不足 |
| 2022年5月 | DiDi Food | 日本国内での事業環境の変化に直面し、時間と資源を最大限に活用できる事業へシフト |
| 2022年5月 | 楽天ぐるなびデリバリー | プラットフォーマー各社の競争の激化等…経営資源配分の見直し |
| 2023年5月 | Chompy | プラットフォーマー各社の競争激化など、競合環境や市場の成長性等に鑑み |
| 2026年3月 | Wolt | 持続的な規模拡大と長期的な優位性を実現できると判断した地域に投資を集中する |
| 2026年9月 | menu | 競争環境の変化…経営資源の最適配分 |
2022年の楽天ぐるなびデリバリー、2023年のChompy、2026年のmenu。4年の間隔があるのに、文がほとんど同じである。「競争激化」と「経営資源の配分」。この2語で説明できてしまう退出が5年間で7件並んだということは、個社の巧拙ではなく市場の構造の問題だと考えるほうが自然だろう。
Woltの終了だけは少し性質が違う。親会社DoorDashが日本・カタール・シンガポール・ウズベキスタンの4か国から同時に撤退する国際ポートフォリオの見直しの一環で、2026年2月25日に発表、3月4日に終了と、発表から終了までわずか8日だった。menuの1ヶ月半は、その基準では長いほうに入る。
掲載358件と並べて見えること
当メディアには2026年8月20日時点で358件の事例が載っている。月商を公開している216件の中央値は150万円、日本国内の事例に絞れば25万円だ。menuが1年で燃やしていた20〜30億円は、この中央値の事業の1,000年分を超える。比べる意味がないほど違う世界の話に見える。
それでも1つだけ、はっきり比較できるものがある。畳むときに数字を出すかどうかだ。
当メディアに載っている閉鎖・撤退の10件は、いずれも当事者が数字を公開して終わっている。レンタルスペース2店舗を29か月運営して約220万円の赤字という記録は、売上73万円・予約95件という内訳まで本人が書いた。月間UU100万・アクティブ1万人の二次創作プラットフォームが閉じた経緯も、月$3,000で5年続いたロゴ生成サービスを畳んだ理由も同じだ。失敗を書く義務など誰にも無いのに、彼らは書いた。
一方で、5年間で数百億円規模の資本が投じられたはずの事業は、終わるときに1つも数字を残さない。開示の量は事業規模ではなく、開示する動機の有無で決まる。上場企業の子会社には、畳む事業の実績を細かく書く動機が無い。個人には、自分の4年間を記録として残す動機がある。この非対称が、フードデリバリーという巨大な産業について「いくら使って、何店舗を失ったのか」が誰にもわからないまま終わる状況を作っている。
どこまで一般化できるか
この事例から引き出せるのは、「値下げでしか注文を維持できない市場に入ってはいけない」という単純な教訓ではない。もう少し限定的な形でしか言えない。
他の業種に持ち出しても崩れないのは、成長の維持に補助金(クーポン・送料無料・店頭同一価格)が要る事業は、補助金を止めた瞬間に需要が消えるという一点だ。Circanaの市場データと出前館の決算は、これを別々の角度から裏づけている。当メディアの事例で言えば、単価を上げて客層を絞ることで小さいまま黒字を保つ選択をした運営者が何人もいるが、彼らが避けているのは同じ罠である。
逆に、この事例の外に持ち出せない部分も多い。まず、これは三者(店・配達員・利用者)を同時に抱えるプラットフォーム市場の話で、あらゆる業種に当てはまるわけではない。次に、menuの直近の決算は確認できておらず、債務超過の有無を含めて現在の財務状態は不明である。「資本が入っていたから失敗した」と読むのも早い。同じ市場でUber Eatsは2023年から3年連続の黒字を公表しており、資本の有無ではなく単位あたりの経済性の問題だと考えるべきだろう。
そして、この記事の数字自体にも限界がある。市場規模は調査会社の推計であり、menuの規模は4年前の自己申告で止まっている。終わった事業の本当の姿は、当事者が書かないかぎり永久に残らない。当メディアが個人の失敗記録を集めているのは、まさにそこが空白だからだ。
サービスは9月30日まで動いている。加盟店と配達員への対応が今後どう公表されるかは、この撤退の評価を変えうる部分として見ておきたい。
出典
- 本人公開KDDI「フードデリバリーサービス「menu」の提供終了およびmenu株式会社の解散・清算について」(2026年8月19日)。終了日・完全子会社化・解散清算の方針と、その理由の原文
- 報道ITmedia NEWS「フードデリバリー「menu」終了へ 「持続的なサービス提供が困難」 9月末まで」(2026年8月19日)。menu社側の説明
- 本人公開Circana Japan(旧エヌピーディー・ジャパン)「2023年のデリバリー市場規模」(2024年2月20日)。8,622億円・前年比11%増
- 本人公開Circana Japan「2025年のデリバリー市場規模見込み」(2025年12月17日)。前年比2.0%増と、その背景にある値下げ競争の記述
- 本人公開株式会社出前館 2026年8月期 第3四半期決算短信(2026年7月15日)。営業損失63.7億円、通期予想の下方修正、利益剰余金▲269.7億円
- 報道官報決算データベース(catr.jp)「menu株式会社」。2020年8月期〜2023年1月期の決算公告(一次資料は官報)
- 本人公開menu公式サイト。「加盟店は全国91,000店舗突破 ※2022年8月時点」の表示
- 本人公開Wolt「Woltの日本におけるサービスの終了について」(2026年2月25日)。撤退理由の原文
- 本人公開株式会社Chompy「Chompyフードデリバリーアプリのサービス終了のお知らせ」(2023年4月13日)。撤退理由の原文
- 本人公開Small Start データ集計(掲載事例の月商中央値・状態別の内訳。定義は「数字の読み方」)
本記事は上記の公開情報の要約と独自分析です。 「報道」は他メディアが取材・整理した記事で、数字はその報道時点のものです。 詳細は必ず出典をご確認ください。
本コラムは、Small Startに掲載している事例(すべて出典付きの公開情報)の集計と、公開情報の分析にもとづく編集部の見解です。特定の事業・投資・副業を推奨するものではありません。
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