運営記録③|277コミットと17言語、それでも止まった — アプリ2本が動かなくなるまで
同じ月に始めたモバイルアプリ2本の停止記録。片方は51日で277コミット・17言語まで作り込み、片方は17日で全面的に作り直して公開した。どちらも需要を確かめる工程を挟まないまま、コミットが来なくなって止まった。
執筆: Small Start 編集部(掲載事例の集計+公開情報の分析)
2026年5月の終わり、4日ちがいでモバイルアプリを2本始めた。1本は家族やカップルが日々の連絡を共有するアプリ、もう1本は水族館を経営するシミュレーションゲームである。どちらも個人開発で、どちらもストアに出した。そして両方とも、いまは更新が止まっている。
この回では、2本の停止までの過程をリポジトリの記録から並べる。止まり方がまったく違ったので、対比としてまとめて扱う。
2本の履歴
| 共有アプリ | ゲームアプリ | |
|---|---|---|
| 着手 | 2026-05-31 | 2026-05-27 |
| 最終コミット | 2026-07-21 | 2026-06-13 |
| 稼働日数 | 51日 | 17日 |
| コミット数 | 277 | 40 |
| 到達バージョン | 1.14.0(ビルド49) | 1.2.0(ビルド10) |
| 対応言語 | 17言語 | 多言語対応あり |
| 配信状況 | iOS配信、Androidはクローズドテスト止まり | iOS配信、Androidは未提出 |
51日で277コミットは、1日あたり5.4回。うち244回が6月の1か月に集中している。同じ期間に走らせていた情報サイトは1日2.4コミットだったので、手を動かした量だけを見ればアプリのほうが倍以上速かった。
作り込みで止まったほう
共有アプリのほうは、51日でここまで作った。
3つのタブ(共有リスト・取り決め・立替金の精算)、匿名認証、複数グループの所属と切り替え、プッシュ通知、Webでの読み取り専用共有リンク、サブスクリプション課金、紹介プログラム、季節ごとの一斉通知の配信スクリプト。バージョンは1.14.0まで刻んだ。
そして17言語に対応した。日本語と英語から始めて、韓国語・中国語・ドイツ語・スペイン語・フランス語・イタリア語・ポルトガル語を足し、7月には インドネシア語・ベトナム語・タイ語・ロシア語・トルコ語・ヒンディー語・アラビア語を一度に追加している。UIの全キーだけでなく、プッシュ通知の文面もストア掲載文も、その言語数ぶん用意した。
ここで、この作業が何をしていたのかを冷静に書く。**使う人が何人いるかを確かめないまま、供給側の面積を17倍にした。**日本語圏でどれだけ使われているかも分からない段階で、アラビア語のプッシュ通知文面を書いていた。翻訳を足すのは技術的には気持ちのいい作業で、進捗が数えられ、コミットが積める。需要が増えたかどうかは、そこには表示されない。
リポジトリのロードマップには、設計まで済ませて着手していない項目が並んだまま残っている。参加の承認制、ロールごとの権限分離。設計は増え続けたのに、使われているかを見る作業だけが一度も入らなかった。
7月21日のコミットは、ストア掲載情報の細かい修正だった。決意して終わらせたのではなく、そこで手が止まった。
作り直しで止まったほう
ゲームのほうは、まったく違う止まり方をした。
5月27日にSwiftとSwiftUIで着手して、5月31日に「moved to flutter」というコミットが入っている。**4日で、それまでの実装を捨ててFlutterに移した。**iOSだけでなくAndroidにも出したかったからで、判断そのものは筋が通っている。ただ、この時点で17日間の稼働のうち4日を作り直しに使ったことになる。
そこから6月13日までの2週間で、多言語化、ガチャの調整、来場者数のバランス調整までやって、バージョン1.2.0に到達した。40コミットで一通り遊べるところまで持っていったのは、速いほうだと思う。
止まったのは、次に何を作るかが分からなくなったからだった。遊んでいる人が何を面白がっているかを知る手段を用意していなかったので、バランス調整の良し悪しを判断する基準が自分の主観しかない。「満員の来場者数を基準値の4.5倍に再調整」というのが最後のコミットで、その4.5が正しいかどうかを確かめる方法が、そもそも無かった。
公開すると、直せなくなるものがある
このゲームには、いま直せない箇所がひとつ残っている。
iOS版のBundle ID(アプリを識別する文字列)に打ち間違いがあり、本来入るはずの2文字が抜けている。Android側の識別子は正しい綴りなので、同じアプリなのにプラットフォームで識別子が食い違っている。App Storeに公開したあとのBundle IDは変更できないので、これは修正できない。リポジトリのガイドにも「typo。App Storeに公開済みのため変更不可」と書き残してある。
実害は大きくない。それでも、この1行は自分にとって象徴的だった。**急いで公開したことによって、あとから直せない形で固定された判断が存在する。**リリースを早めることには利点があるが、早めた分だけ、確定してしまうものもある。
もうひとつ、リリース手順書には「主対象はAndroid、配布の主軸はGoogle Play」と書いてある。実際に配信できたのはiOSだけで、Play Console側の事前準備の表は、ほとんどの行が未着手のまま残っている。書いた戦略と、実行した順番が食い違っていたことに、止まってから気づいた。
2本に共通していたこと
止まり方は違うのに、抜けていた工程は同じだった。どちらも、需要を確かめる工程が一度も入っていない。
作り込んだほうは、機能と言語を増やし続けた。作り直したほうは、土台を入れ替えて公開まで走った。どちらも供給側の作業で、どちらもコミット数として数えられる。使う人がいるかどうかは、コミット数には現れない。
このメディアで扱っている個人開発の事例を見ると、伸びた事例には共通して「外から反応が返ってくる導線」が最初期からある。Product Huntやコミュニティに出して反応を見てから作り込む型や、1週間で$150Kを稼いだあとに自ら畳んだAvatar AIのように、数字が出たうえで撤退を選ぶ型である。**畳む判断ができるのは、数字がある側だけだ。**数字がない側には、決断ではなく停止しか起きない。
本業のかたわらPython自動化の副業を続け、累計15万円の時点で撤退を決めた事例は、金額としては小さいが、撤退の判断に数字を使えている点で、この2本より進んでいる。
出していない数字について
ダウンロード数と課金額は、この記事では出さない。手元に、後から検証できる形で揃っていないからである。数えられる形で持っていなかったこと自体が、この2本の性格をよく表していると思う。揃えられたら、この記事に追記する。
出せるのは、コミット数と日付とバージョン番号だけだった。**作った側の努力量は完全に記録されていて、使われ方は何も記録されていない。**そういうリポジトリになっていた。
この連載
- 第1回 4つ始めて、3つ壊れた
- 第2回 2人で始めたSaaSは、資本の配分で壊れた
- 第3回(この記事) 277コミットと17言語、それでも止まった
- 第4回 3か月で月間9,103人 — 情報サイトの実数
出典
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