コラム

ネットフリックスは赤字5,736万ドルの年に、5,000万ドルで売ろうとした。延滞料が嫌で作ったはずの会社は、最初は延滞料を取っていた

ネットフリックスは延滞料への不満から生まれたと語られるが、共同創業者は最初は延滞料を取っていたと書いた。上場届出書では月額制の開始は1999年9月。2000年にBlockbusterへ5,000万ドルで売却を持ちかけた年、純損失は5,736万ドルだった。

執筆: Small Start 編集部
ネットフリックスは赤字5,736万ドルの年に、5,000万ドルで売ろうとした。延滞料が嫌で作ったはずの会社は、最初は延滞料を取っていた

ネットフリックスの始まりとして、よく知られた話がある。リード・ヘイスティングスが『アポロ13』のビデオを返し忘れ、40ドルの延滞料を取られて腹を立て、延滞料の無いレンタルを思いついた、というものだ。

共同創業者のマーク・ランドルフは、2019年の著書でこの話を半分だけ認めている。延滞していた『アポロ13』は確かにあった。ただ、ネットフリックスの発想は延滞料とは何の関係も無く、それどころか最初は延滞料を取っていた、と書いている。この話は感情的には本当だが、全体ではない、と。

延滞料への怒りから生まれた会社が、最初は延滞料を取っていた。物語と書類のあいだには、この種のずれがいくつも埋まっている。2002年の上場届出書を開くと、その最初のずれが料金の欄にそのまま残っていた。上場した会社は掲載基準の外にあるので、事例ではなくコラムとして、上場までの5年を追う。

1997年8月の設立から、2001年末の45万6,000人まで

時期出来事数字
1997年8月29日設立記載なし
1998年4月ウェブサイトを始める1998年の売上133.9万ドル、純損失1,108.1万ドル
1999年2月〜10月1本ごとのレンタルが売上の中心記載なし
1999年9月月額制を始める月15.95ドルで4本まで、追加1本3.98ドル
1999年通期売上と損失売上500.6万ドル、純損失2,984.5万ドル
2000年2月本数無制限の定額へ月19.95ドル、同時に4本まで
2000年Blockbusterに売却を持ちかけ、断られる5,000万ドル
2000年10月同時3本までの定額を標準にする記載なし
2000年通期売上と損失売上3,589.4万ドル、純損失5,736.3万ドル、会員29万2,000人
2001年通期売上と損失売上7,591.2万ドル、純損失3,825.8万ドル、会員45万6,000人

Blockbusterの行だけが共同創業者の本から来ていて、残りは上場届出書にある。

延滞料の物語と、料金表の記録

上場届出書によれば、1999年の2月から10月まで、売上の中心は1本ごとのレンタルだった。月額制が始まったのは1999年9月で、最初は月15.95ドルで4本まで、それを超えると1本3.98ドル。本数無制限になったのは2000年2月で、月19.95ドル、同時に借りられるのは4本までだった。

ウェブサイトを始めた1998年4月から月額制までの約1年半、ネットフリックスは1本ごとに貸す店だった。ランドルフの言う延滞料も、その時期のものだ。延滞料の無い定額制は、創業の発想ではなく、1年半かけて料金の形を試したあとの結論として書類に出てくる。

ここで編集部が言い切りたいのは、物語の役割だ。延滞料40ドルの話は、定額制の利点を一文で伝える説明としてよくできている。ランドルフ自身も、感情的には本当だと認めている。ただ、それが創業の瞬間に置かれた結果、料金の形を試し続けた1年半が物語から消えた。

5,000万ドルで売ろうとした年、赤字は5,736万ドルだった

2000年、ヘイスティングスとランドルフはBlockbusterに会社を5,000万ドルで売ろうと持ちかけた。ランドルフの本によれば、CEOのジョン・アンティオコは笑いをこらえていた。この話は、のちのBlockbusterの没落と並べて、見る目の無い大企業の話として語られることが多い。

上場届出書の数字をその横に置くと、見え方が変わる。2000年のネットフリックスの純損失は5,736万ドルで、売上は3,589万ドルだった。持ちかけた値段は、その年1年分の赤字より小さい。会員は年末で29万2,000人、配送拠点はサンノゼの1か所だけだった。

ここからは推測だが、2000年の時点でこの値段を断ったことを、Blockbusterの判断ミスだと言い切る材料は書類の中には無い。1年で5,700万ドルを失っている会社を5,000万ドルで買うのは、その後を知らない立場から見れば、高い買い物にも見えただろう。値段より先に、赤字の大きさのほうが目に入る数字の並びだった。

赤字が縮んだのは、定額が標準になった翌年だった

2001年、売上は7,591万ドルに増え、純損失は3,826万ドルに縮んだ。会員は45万6,000人。同時3本までの定額が標準になったのは2000年10月で、その翌年に、売上が倍になりながら損失が3割以上減っている。

1本ごとのレンタルから月額制へ、4本までから無制限へ、そして同時3本の定額へ。上場届出書に並んでいるのは、料金の形を3回変えた記録だ。延滞料の物語が1つの思いつきとして語る変化は、書類の上では3段階の料金改定として残っている。

料金の形を変えた記録は、小さな定額事業にもある

月額制の形を何度も組み直す話は、桁の小さい事業にも記録がある。Trends.vcは、ペイウォールの引き方を変えて累計15ドルから1年で月2万4,000ドルに届いた。解約率が売上の天井をどう決めるかは、解約率を公開した10件を並べたコラムで数えている。

ほかの伝説的な会社と並べた一覧は、伝説の創業22社を出典まで遡ったコラムにある。

確かめられた範囲

限界を書いておく。延滞料の話の真偽は、共同創業者の本と、それを紹介した番組でしか確かめていない。もう一方の当事者であるヘイスティングスの、この点についての反論は読んだ範囲には無かった。Blockbusterへの5,000万ドルの話も、ランドルフの本を典拠とする紹介記事によるもので、当時の書類ではない。上場届出書の会員数は、有料会員だけを数えたものかどうかが、読んだ範囲では分からなかった。

物語は1つの思いつきを語り、書類は3回の改定を記録していた

ネットフリックスの創業を物語で読むと、延滞料への怒りという一瞬の思いつきに行き着く。書類で読むと、1本ごとのレンタルから始め、1年半後に月額制を試し、半年ごとに形を変えていった記録に行き着く。

赤字5,736万ドルの年に5,000万ドルで売ろうとしたことも、物語の中では大企業の失策として語られ、書類の中では、自分の値段を1年分の赤字より低く見積もった会社の判断として残る。編集部は、後者のほうがこの会社の創業期をずっと正確に描いていると考えている。

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本コラムは、Small Startに掲載している事例(すべて出典付きの公開情報)の集計と、公開情報の分析にもとづく編集部の見解です。特定の事業・投資・副業を推奨するものではありません。

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