コラム

2億円を集め、評価4.8を取り、それでも閉じた。ダークストアのMeshを止めたのは隣町の客単価だった

シードで調達。当時の相場の4倍以上
2億円
App Storeの評価。満足率は99.1%
4.8
広尾の1回の注文。隣の恵比寿では再現せず
5,000円

シードで約2億円を集め、App Storeの評価は4.8、売上は月次で140%ほど伸びていた。それでもMeshはダークストアを閉じた。広尾で1回5,000円を週に何度も買う客が、隣の恵比寿にはいなかったからだ。閉鎖を発表した日、3社から買収の打診が来て、Meshはすべて断った。

執筆: Small Start 編集部
2億円を集め、評価4.8を取り、それでも閉じた。ダークストアのMeshを止めたのは隣町の客単価だった

「VCから2億円調達して全て溶かした話」。2026年10月21日、株式会社Meshの代表、佐藤峻は、閉じた事業の振り返りにそう題を付けた。

題とは裏腹に、本文に並ぶのは良い数字ばかりだ。App Storeの評価は4.8。アプリ内レビューの満足率は99.1%。売上は月次で140%ほど伸びていた。サービス開始の初日から注文が入り続け、翌日には人手が足りなくなってエンジニアが倉庫に入った。

普通なら、ここまでの数字は続ける理由として読まれる。Meshはこの数字のまま事業を閉じた。決め手として本人が書いたのは一点だけだ。広尾には1回5,000円の注文を週に何度も入れる客が大勢いたのに、同じ都心の恵比寿ではそうならなかった。

Meshはベンチャーキャピタルから資金を入れた会社で、小さく始めた事業の記録を集める事例の掲載条件からは外れる。売上も伸び率でしか書かれておらず、金額は出ていない。それでもこの振り返りを取り上げるのは、数字の並べ方そのものに読むべきものがあるからで、事例ではなくコラムとして書く。

調達から撤退、開発会社への転換まで

時期出来事数字出典
2021年11月株式会社Mesh設立INITIAL
2022年3月16日シードラウンドで資金調達約2億円(当時の相場は3,000万〜5,000万円)本人、INITIAL
2022年4月報道では「東京都区部で今夏にも開始予定」BRIDGE
調達から約1年後倉庫の物件が決まり、アプリを公開最短10分配達、全員に2,000円クーポン本人
運営中アプリの評価とレビューApp Store 4.8、満足率99.1%本人
運営中売上の伸び月次で140%ほど本人
運営中広尾のカート単価1回5,000円、週に何度も本人
クローズ発表日買収の打診3社本人
その後企画・開発の依頼を受け、開発会社へ転換本人

事業を閉じた日付、ピボットした日付、恵比寿の客単価、累計の注文数、そして題にある「全て溶かした」額は、振り返りの中に書かれていない。

相場の4倍を集めた年

Meshがシードで約2億円を集めたのは2022年3月だった。本人は、当時のシードの相場を3,000万〜5,000万円と書いている。相場の4倍以上だ。

この金額だけを見ると強気に見えるが、同じ月の業界を並べると印象が変わる。BRIDGEによれば、翌4月には同じダークストアのOniGOがシードで7.2億円を調達し、創業からの累計は約11.8億円に達していた。本人も振り返りの冒頭で、米国のGopuffの評価額が8か月で3.8倍になったことを引いている。お金が流れ込んでいる業種で、Meshは控えめな側にいたことになる。

当時の予定と実際にも差がある。BRIDGEの2022年4月の記事は、Meshが東京都区部で今夏にもサービスを始める予定と書いていた。本人の振り返りでは、物件が決まって事業が始まったのは調達から約1年後で、ベータ版アプリの公開は2023年1月だった。倉庫の通路幅すら決められなかったという節の見出しが、その半年分の遅れの中身を語っている。

誰も、スーパーの経験が無かった

振り返りの中ほどに、こういう場面がある。在庫管理はどうするのか。商品はどこから仕入れるのか。倉庫の物件はどう探せばいいのか。メンバーの答えは、どれも「わからん!」だった。誰もスーパーマーケットの事業をやったことがなかった。

出資を募る段階では、投資家から「個体差がある生鮮食品を、品質にうるさい日本人の消費者がデリバリーで買うのはイメージが湧きませんね」とも言われている。結果から言えば、この懸念は外れた。注文は初日から入り、アプリは4.8の評価を得た。生鮮をネットで買う客は確かにいた。

編集部がこの振り返りで一番重く見るのは、懸念が外れたあとに事業が止まっている点だ。疑われていた「買うかどうか」には答えが出た。答えが出なかったのは、「どこで、いくらで買うか」のほうだった。

満足度は買った人の数字で、事業を決めるのは買わなかった街の数字だ

4.8の評価も、99.1%の満足率も、月次140%ほどの伸びも、すでに注文した人から生まれた数字だ。注文した人は満足していて、注文する人は増えていた。ここまでは事実として揃っている。

本人が決め手として書いたのは、その外側の数字だった。都心で始めたのは、配達料を払ってでも使う、比較的裕福な子育て世帯がいるという仮説からだった。広尾では、1回5,000円のカートを週に何度も入れる客が大勢いた。けれども同じ購買は都心のごく狭い範囲に限られ、恵比寿ではそうならなかった。本人は、都心の一部では成り立ってもそれ以外のエリアでは成り立たないという結論にならざるを得なかった、と書いている。

ダークストアは倉庫を置いた場所の周りにしか配達できない。だから、1つの倉庫がどれだけ稼げるかは、そこから届く範囲に何人の広尾がいるかで決まる。アプリの出来は、その人数を増やさない。ここからは推測だが、評価と伸び率がどれだけ良くても、それは倉庫の数を増やしてよい理由にはならなかった。増やした先の街が恵比寿なら、同じ倉庫が同じだけ稼がないからだ。

買い手が欲しがったのは、事業ではなく、事業のために作ったものだった

クローズを発表した当日、Meshには3社から買収の打診が来た。全国規模の小売企業、大手のECプラットフォーム、そしてスタートアップの雄。本人が書く評価の理由は4つで、アプリの評価4.8に表れたUX、すべてのシステムを内製していたこと、重大なインシデントがゼロだったこと、売上やKPIが伸びていたこと。システムを作ったのは、フルタイム3名と副業2名のエンジニアだった。

Meshはこの打診をすべて断った。理由として本人が書いているのは、自分たちで事業を作っていきたい気持ちを捨てきれなかった、ということだけだ。その後、コンビニのローソンなどから企画と開発の依頼が届き、Meshは開発会社に転換した。

打診の理由を並べると、買い手が見ていたのは、ダークストアという事業そのものより、それを回すために作った仕組みと、それを作れる人のほうだったと読める。事業を閉じたあとに残った価値が、事業の中ではなく、事業の作り方の中にあった。

この形は、フードデリバリーのmenuの終了を扱ったコラムと並べるとよく分かる。menuの終了発表には数字が1つも無く、買収は事業を清算するためのものだった。Meshの振り返りには、評価、満足率、単価、エンジニアの人数まで書かれていて、買い手は事業ではなく作る力に値を付けようとした。同じ配達の事業でも、閉じ方の記録の残り方がまったく違う。

書かれていない数字

限界を書いておく。題にある「全て溶かした」額は、本文のどこにも書かれていない。2億円をいくら使い、いくら残して転換したのかは分からない。恵比寿の客単価も、累計の注文数も、閉じた日付も出ていない。「売上は月次で140%ほど伸びていた」は、どの期間の、前月比なのか別の基準なのかが文面から読み取れない。調達日と株主は第三者のデータベースINITIALで確かめたが、売上と単価は本人の振り返りでしか確かめられていない。

閉鎖の理由を数えたものとしては、閉鎖11事例の死因を分類したコラムがある。そこでも、資金切れより多かったのは「黒字なのに続かない」型だった。また、β版の初日に1,000人が来て、そこから落ちるだけだったSEOツールの記録は、初日の数字が続く理由にならなかったもう1つの例として読める。

良い数字のまま閉じた記録は、少ない

事業を閉じたあとに振り返りを書く人は多いが、たいていは数字が悪かったことの説明になる。Meshの振り返りは逆で、評価も満足率も伸び率も良いまま、それでも閉じた理由を書いている。

決め手になったのは、広尾の5,000円が恵比寿で再現しなかったという、地図の上の差だった。アプリを使った人の数字はすべて良く、使わなかった街の数字が事業を決めた。題には「全て溶かした」とあるが、記録として残ったのは、溶かした額ではなく、その差を見つけるまでに積んだ数字のほうだ。

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本コラムは、Small Startに掲載している事例(すべて出典付きの公開情報)の集計と、公開情報の分析にもとづく編集部の見解です。特定の事業・投資・副業を推奨するものではありません。

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