事例 売却済み

営業利益率55%のサプリ定期通販、希望8,000万円が3,530万円で成約。買ったのは月10〜15時間だけを見ていた会社員

ウイルス関連のサプリ定期通販が、当初希望の約8,000万円では買い手がつかず、3,530万円(仲介手数料込み約4,000万円)で成約。月営業利益約130万円・営業利益率約55%・リピート率9割・クレーム0件の事業に、約10件の申し込みのうち残ったのは1件だった。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

営業利益率55%のサプリ定期通販、希望8,000万円が3,530万円で成約。買ったのは月10〜15時間だけを見ていた会社員

TRANBIの成約事例インタビューによれば、この健康・美容サプリの定期通販は月営業利益が約130万円、営業利益率が約55%、リピート率が9割、5年間でクレーム0件という条件を備えていた。それでも当初の希望額だった約8,000万円では買い手がつかず、最終的な譲渡額は3,530万円まで下がっている。利益率の高い黒字サブスクだから値が付いた、と読めそうな数字だが、実はそうではない。値札を動かしたのは事業の側ではなく、買い手の側の事情だった。

数字で見た譲渡条件

項目数字
譲渡額約3,530万円(仲介手数料10%込みで約4,000万円)
当初の希望額約8,000万円
月営業利益約130万円(営業利益率約55%)
事業年数5年目
リピート率 / クレーム9割 / 0件
売上に占める定期購入90%超
月次の運営工数10〜15時間

売上額そのものは公開されていない。営業利益130万円を利益率55%で逆算すると月商は約236万円になるが、これは編集部の計算であって出典にある数字ではない。譲渡額を月営業利益で割ると27.2ヶ月分、仲介手数料込みの支出4,000万円で数えれば30.8ヶ月分で、Sさんが語る「2年半での回収」という見立ては後者の数え方と一致する。

売っているのは「悩みが消えない限り続く」サプリ

商材は、あるウイルスに起因する健康面・美容面の症状を改善するためのサプリメントで、主な購入層は40〜50代の女性。インタビューでは、日本国内の潜在的な対象者が1,000万〜2,000万人規模だという見立ても語られている。売上の90%超が定期購入で、単発購入ではほとんど成り立っていない構造だ。

この構成は、買う側から見ると二つの意味を持つ。一つは、引き継いだ翌月の売上が引き継ぐ前におおむね決まっているということ。定期購読者の名簿がそのまま収益の予測表になるので、店舗型の事業のように「客が来るかどうか」を毎月賭けずに済む。もう一つは、症状が続く限り購入理由が消えないということだ。季節商材でも流行商材でもないため、買い手が事業を理解しないまま数ヶ月運営しても、売上が急落しにくい。作業が月10〜15時間で収まるのは、新規獲得を広告に任せ、受注と発送の大部分が定型化されているからだと考えるのが自然で、実際にSさんが買収後の課題として名指ししたのもWeb広告の運用だった。

56%の値下げを説明できるのは、事業の外側だけ

買い手のSさんは33歳の会社員で、本業は企業向けのコンサルティング。案件を探し始めたのは2022年6月で、毎日掲載を確認する日々を約3ヶ月続けている。選定の基準は本人の言葉で「副業でできるかどうかが大きなポイント」であり、作業時間の短さ、従業員がいないこと、固定費の低さ、定期購入型の安定収益を並べて見ていた。この条件表と、月10〜15時間で回る利益率55%のサプリ通販は、ほぼ一対一で対応している。

ではなぜ8,000万円では売れず、3,530万円なら売れたのか。インタビューで語られている売り手側の条件が一つある。融資ではなく全額自己資金での購入を望んでいた、というものだ。個人が自己資金だけで出せる金額には天井がある。8,000万円を現金で用意できる個人は、3,530万円を用意できる個人よりはるかに少ない。銀行を外した瞬間、この案件の買い手候補の分布は切り縮められ、値札は候補者の財布の大きさに合わせて降りてくる。

率直に言えば、この値段を決めたのは事業の質ではない。利益率55%でもリピート率9割でも、現金で払える人の数が少なければ値は半分になる。Sさん自身は成功の要点として「リスクをコントロールすること」を挙げているが、数字の並びを追う限り、彼が勝てた最大の理由はリスク管理ではなく、大学時代から続けた米国株の長期取引で3,400万円の現金を持っていたことだ。コロナ下で全資金の半分にあたる1,200万〜1,300万円を投じた判断が、数年後に3,500万〜3,600万円の資産になり、そのまま買収原資になっている。足りない600万円は父親から借り、銀行借入は0円だった。

残ったのは10件中1件、しかも辞退したのは向こうではない

この事例で編集部が最も価値があると見ているのは、成約した1件ではなく流れた9件のほうだ。Sさんが交渉を申し込んだのは約10件で、内訳はこうなっている。7件は自分から辞退、1件は先客に取られて失敗、1件はWeb広告の運用に課題を見つけて見送り、残る1件が本件。つまり9割は成約に至っておらず、しかもそのうち7件は相手に断られたのではなく、中身を見た本人が引いている。

譲渡が動き出してからの時間も短くはない。交渉に約3ヶ月、契約からクロージングまでにさらに約3ヶ月かかっている。勤務先の副業規定を避けるために株式会社を設立し、退職した父親を代表取締役に据え、自分は給与を受け取らないまま実務を担う体制を組んだ。経営コンサル会社に勤める弟をアドバイザーに置き、契約前には個人保証の有無、簿外債務、係争の有無、財務数字の正確さ、月次の作業時間を確認して回っている。約10件の申し込み、6ヶ月の手続き、法人設立と家族の動員が、月10〜15時間で回る事業の後ろにある実際の負荷だ。

公開されていない数字

売上高、定期購入者数、解約率、広告費、原価率、商品の調達先は出ていない。Sさん自身が買収後の最大の課題に挙げているのはWeb広告の運用で、定期通販の解約と新規獲得の差引きがどこで釣り合っているかは、外から検証できない。リピート率9割という数字も、どの期間のどの母数で測ったものかは書かれていない。5年目でクレーム0件という記載も、記録の取り方が分からない以上は額面どおりには読めない。

売り手側の情報も薄い。譲渡理由は新規事業への注力とされているだけで、誰がどう立ち上げた事業なのかは公開されていない。金額の根拠を語っているのは買った側だけであり、この記事の数字はすべて買い手の視点を通った数字である。

どこまで真似が効くか

  • 「副業で回せる案件を買う」が成立するのは、月次の運営工数が出品情報に書かれていて、従業員も固定費も無い型のときだけ
  • 希望額から半分以下まで下がった案件が買い得になるのは、値下げの理由が業績の悪化ではなく、売り手が課した支払い条件の側にあると確認できたときだけ
  • 全額自己資金という条件を満たせるのは、買収とは無関係な場所で先に現金を作り終えている買い手だけ

限界も書いておく。3,400万円の自己資金は買収活動で作ったものではなく、株式市場という別の場所で10年以上かけて積んだ結果で、これは案件選びの巧拙とは無関係だ。父親が退職していて代表になれたこと、弟が経営コンサルに勤めていたこと、本業のコンサル経験で財務資料を読めたことも、いずれも本人固有の前提にあたる。そして最大の限界は時点で、この成約は2023年3月に公開された事例であり、その後この事業が伸びたか縮んだかを示す数字は出ていない。

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