事例 売却済み

レンタルスペース11店舗を累計6,050万円で連続売却——みつ氏が「相場の2〜3倍」を取れたのは物件ではなくノウハウの側だった

レンタルスペース運営者のみつ氏が、11店舗を累計6,050万円でM&Aプラットフォーム経由で売却。20平米前後が中心ながら「すべて相場の2〜3倍」、直近は30平米を1,200万円。集客の8割は自社HP。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

レンタルスペース11店舗を累計6,050万円で連続売却——みつ氏が「相場の2〜3倍」を取れたのは物件ではなくノウハウの側だった

個人が小さな事業を売るとき、値段は物件や設備の原価に引っ張られる。20平米のマンションの一室に鏡を貼ってスマートロックを付けただけの箱に、数百万円以上の値が付く理屈はふつう成り立たない。

ところがM&Aプラットフォームのトランビが2023年12月に公開した成約者インタビューで、レンタルスペース運営者のみつ氏はこう語っている。これまでにレンタルスペース11店舗を売却し、その総額は6,050万円。「大型ではなく、20平米くらいの部屋がほとんど」でありながら「すべて相場の2〜3倍で売れました」。直近の成約は30平米・25名収容のパーティールームで、譲渡額は1,200万円だった。

この記事が興味深いのは、高値の理由をみつ氏自身が身も蓋もなく言語化している点にある。曰く、自分は「レンタルスペースを売却しているというより、レンタルスペースで年間◯百万円の利益を出すための仕組みやノウハウを売っている」感覚なのだと。売っているのは箱ではない、という自己認識が、そのまま価格差の説明になっている。

経歴と数字の時系列

時期出来事・数字
大学卒業後システムエンジニアとして就職、2年で退職。営業職へ転職し約3年で退職
2016年(32歳)知り合いの紹介でレンタルスペース運営に着手。貯金500万円のうち150万円を立ち上げに投入
開業直後ポータルサイト掲載だけでは予約が入らず、自社HPを作りSEO・導線・リピーター施策を構築
詐欺①「全国展開しよう」と誘われ300万円を託して持ち逃げされる
詐欺②「消費者金融で350万円借りて預ければ2割増で返す」というアルバイト詐欺
詐欺③スマートフォンを預ける名目の転売スキーム。身の回りの被害総額は約4,000万円
その後会社設立、500万円の融資でコワーキングスペースを開業(家賃25万円・80平米)。初日・2日目とも来客ゼロで2日で閉鎖。うつ病と診断される
2019年ブログを立ち上げ、9か月引きこもって200記事以上を執筆
2020年前後X(Twitter)・YouTubeでも発信開始。第三者に取り上げられフォロワーとコンサル相談が急増
ピーク時最大13店舗を同時運営
2022年10月30平米のパーティールームを開業。初月から黒字化、12月は単月売上100万円超
2023年そのパーティールームを1,200万円で売却。マレーシアへ移住(3店舗は継続運営)
累計11店舗・総額6,050万円を売却

なぜ「相場の2〜3倍」が成立したのか

みつ氏の説明は明快だ。買い手候補は問い合わせの時点でみつ氏を知らない。しかし面談で経験と実績を伝え、発信しているコンテンツを見てもらうと「ぜひ買いたい」と言われる、という順序になっている。つまり信用は事前のブランドではなく、面談の場で発信物によって証明されている。

対比として彼が挙げるのが、他のレンタルスペース売却案件によくある「現在はポータルサイトに掲載して集客しています。自社集客を頑張れば、売上をもっと伸ばせる余地があります」という一文だ。これは伸びしろの提示に見えて、実際には売り手がその伸ばし方を知らないことの告白でもある。買い手からすれば、引き継げるのは物件と現状の予約だけで、改善の手順は自分で発明しなければならない。

みつ氏の側にはその手順がある。集客の8割が自社HP経由という運営実態そのものが、ポータル依存の案件との差分であり、引き継ぎで渡せる中身になっている。手数料を取られる外部プラットフォームへの依存度が低いことは、収益性の話であると同時に、譲渡時に「何を教えられるか」の在庫でもあったわけだ。時間貸し市場の相場観についてはレンタルスペース4店舗で月利益36万円という実測記事が手数料30〜35%という水準を示しているが、その手数料構造の外に出る技術がそのまま売却額に乗った、と読める。

売る前に「売れる状態」を作る、という順序

もうひとつの核心は売却タイミングの設計にある。みつ氏は「レンタルスペースを売却される方のほとんどは、うまくいかなかったから一刻も早く手放したいという心境だと思います」と述べたうえで、自分は安定して売上が上がるまで手元に持ち、成功して高値で売れるタイミングで売りに出す、と説明する。

そして端的にこう言う——「率直に言って、自分が手放したいと思っているものは、高値では売れません」。

赤字店舗を数十万円で誰かに譲りたくなる心理は理解できるが、相当の運営力を持つ買い手でない限り、次の買い手も同じ赤字に苦しんで手放したくなる「ババ抜きのような悪循環」になる、というのが彼の見立てだ。だから自分に不利な情報を隠して売ることはやめてほしい、と繰り返している。売却額6,050万円という結果より、この順序(黒字化させてから売りに出す)のほうが再現の要点に近い。実際、直近の1,200万円案件は初月黒字化・単月売上100万円超という実績を作った直後の売却である。

店舗運営そのものの設計

高値の前提になっている運営面も、インタビューには具体的に出ている。

コンセプトは「多目的に使えます」という曖昧なものを避け、ダンスレッスンやレンタルサロン用途に特化してきた。壁に鏡を貼り床をフローリングにすればダンス用途になり、マッサージベッドを置けば店舗を持たないフリーランスのセラピストが使う。パーティールーム用途は単価を上げやすい反面、リピートが見込みづらく新規獲得を続ける必要があり、12月が繁忙期になるなど季節変動も大きい。という利害の整理まで語られている。

立地については、地方には出さず、あえてポータルサイトで調べて競合の多いエリアに出店することもあると言う。参入者が多いことは需要が見込めることの裏返しだから、という理屈だ。

そして撤退ではなく増店の判断基準が明快である。予約枠の7〜8割がコンスタントに埋まったら、次のスペースの立ち上げに移る。9〜10割まで埋めるのは非常に難しく、予約率をさらに上げる試行錯誤より新規開業のほうが費用対効果が高い、という理由だ。1店舗を磨き切らずに横展開するこの判断が、最大13店舗という規模と、売却在庫の連続供給を同時に成立させている。

効かなかったことと、代償の大きさ

この事例を成功譚として読むと重要な部分を落とす。インタビューの前半は失敗の連続である。

起業直後、1店舗だけでは収益が伸び悩むと考えて他事業に手を出そうとし、人脈作りのために人に多く会った。その動線の先で3度の詐欺に遭っている。300万円の持ち逃げ、350万円のアルバイト詐欺、そしてスマートフォン転売スキームでは友人・家族を紹介したことで身の回りの被害総額が約4,000万円に達した。警察に相談したところ「加害者として自首をしないと捜査に移れない」と言われ、自首して取り調べを受けている(結果として本人は逮捕されなかった)。

500万円の融資で開業したコワーキングスペースは、初日も2日目も来客ゼロで2日後に閉鎖した。家賃25万円・80平米の空間に一人という描写のあと、うつ病の診断を受けている。

本人の総括は「とにかく人にたくさん会って、人に乗っかって稼げたらいいなという気持ちだったから、全部失敗した」というものだ。効かなかった施策は、事業ではなく他人に依存する形の資金調達と拡大だった、という整理になっている。立て直しの起点が、9か月引きこもって200記事を書くという徹底的に単独の作業だったことは、この反省と対になっている。同じレンタルスペースでも、2店舗を29か月運営して赤字で撤退した記録が示すように、この業態は開業すれば回るものではない。

再現の条件と限界

業態をまたいで持ち帰れるのは、「売却額は資産ではなく引き継げるノウハウの量で決まる」という値付けの構造だ。買い手が本当に買っているのは、翌月から自分で回せる状態であり、その状態を作る手順を売り手が言語化できていれば価格は上がる。これはレンタルスペースに限らず、店舗型・オンライン問わず個人M&Aの多くに当てはまる。予約率7〜8割で次に移るという撤退・増店ラインの明文化も、業種を問わず持ち帰れる。

一方で、再現しにくい条件も三つある。発信力がその一つだ。みつ氏のノウハウ発信はブログ200記事とその後のSNS・YouTube展開に支えられており、しかも第三者に取り上げられたことで拡散が加速した。この「発信者としての実績」がなければ、面談での説得力は生まれない。売却対象が自分の黒字化させた店舗に限られる点が二つ目。赤字店舗をこの方式で高く売ることはできず、本人がそう明言している。三つ目はもっと根本的で、そもそも彼は運営益だけでなく、発信活動とコンサルティングを収益の柱にしたうえで、その利益で新しい店舗を立ち上げていた。売却在庫を作り続けるための元手が事業外から供給されていたという点は、レンタルスペース事業単体の再現性とは切り離して読む必要がある。

数字の限界も明記しておく。6,050万円は11店舗の累計譲渡額であり、単店の平均は約550万円。開業費用・運営期間中の損益・移転にかかったコストは公開されておらず、この事例から利益率や投資回収期間を計算することはできない。物件の確保が最初の関門になる点は転貸可能物件の交渉から始めた別の運営者の記録とも共通しており、公開された成約額だけを見て入口の難度を見誤らないほうがよい。

この記事、スゴいと思ったら

近い規模・近い業種の事例

よく読まれている記事

  1. 1

    Payout、14日で「バイブコーディング」した集団訴訟アプリが9ヶ月でARR $1,003,227。開発費は約$10、伸ばしたのはフォロワー1,000万人の相棒

    直近43人が訪問
  2. 2

    Starter Story、月$91.7Kの起業事例メディアがHubSpotに買収された。「買収すべき」と自分でツイートしてから数ヶ月

    直近35人が訪問
  3. 3

    Instatus、ステータスページ一本でMRR $48K。有料顧客ゼロの「Sup」を捨てて大企業向けに値上げ

    直近23人が訪問
  4. 4

    売上30円から8年。アプリ3本を並行運営して月20万円に届いた個人開発の記録

    直近20人が訪問
  5. 5

    プログラミング学習開始から5年で年461万円。教育系アプリ個人開発、3年分の損益と打ち手の全記録

    直近19人が訪問

新着記事

この記事は、出典として「Small Start(small-start.com)」の明記と本ページへのリンクがあれば、ニュース・ブログ・生成AIの回答などで自由に引用・転載できます(事前連絡は不要です)。 転載・引用について →
この記事が参考になったら、シェアで応援
Xでシェア