コラム

Pebbleは7億4,000万ドルの提案を断り、1年半後に4,000万ドル未満で売れた。創業者は「100%自分のせい」と書いた

2015年夏に断ったと報じられた買収提案
$740M
2015年の売上。目標は約1億ドル
$82M
2015年末に倉庫に残った在庫
$15M

Kickstarterの1,000万ドルで始まったPebbleは、4年で2億3,000万ドル超を売った。2015年夏にはCitizenの7億4,000万ドルの買収提案を断ったと報じられている。翌年に資金が詰まり、2016年末にFitbitへ4,000万ドル未満で売れた。創業者は失敗を自分の判断に帰している。

執筆: Small Start 編集部
Pebbleは7億4,000万ドルの提案を断り、1年半後に4,000万ドル未満で売れた。創業者は「100%自分のせい」と書いた

7億4,000万ドルの買収提案を断った会社が、1年半後に4,000万ドル未満で売れた。

スマートウォッチのPebbleは、2015年夏に時計メーカーのCitizenから7億4,000万ドルで買収を持ちかけられ、創業者のEric Migicovskyが断ったとVentureBeatは報じている。2016年初めにはIntelの7,000万ドルの提案もあったが、これも断った。同じ2016年の末、PebbleはFitbitにソフトウェアと人を売り、ハードウェアは手放した。価格は非公表で、Bloombergによれば4,000万ドル未満、しかも債務はそれより大きかった。

Migicovskyは2017年にこの顛末を書き、Kickstarterから10年の節目に公開した。その中に、何度も同じ種類の文が出てくる。いま思えば、これは愚かで明白で、100%私のせいだった。より確かな計画なしに会社を急拡大させるべきではなかった。それでも私はしくじった。

Pebbleはベンチャーキャピタルから資金を入れたハードウェアの会社で、小さく始めた事業の記録を集める事例の掲載条件からは外れる。それでも、創業者本人が売上と在庫の数字を年ごとに並べて失敗を書いた記録は多くない。ここではコラムとして、その数字を順に読む。

1,000万ドルのKickstarterから、Fitbitへの売却まで

時期出来事数字出典
2011年Y Combinatorを経てエンジェル投資を受ける約15万ドル本人
2012年4月Kickstarterで最初のPebble6万8,000人から1,000万ドル超本人
2013年売上約3,000万ドル、純利益900万ドル本人
2014年売上約6,000万ドル、収支均衡本人
2015年Pebble TimeのKickstarter2,030万ドルVentureBeat
2015年夏Citizenの買収提案を断ったと報道7億4,000万ドルVentureBeat
2015年目標を下回る売上8,200万ドル(目標約1億ドル)、粗利率27%本人
2015年末倉庫に在庫が残る1,500万ドル超本人
2016年初め資金難。Intelの提案を断ったと報道7,000万ドル本人、VentureBeat
2016年3月人員削減40人(25%)VentureBeat
2016年12月Fitbitへ売却(ハードウェアは対象外)4,000万ドル未満Bloomberg

本人の振り返りには、5年で200万台超、4年で2億3,000万ドル超を売ったとある。

黒字だった最初の年

最初の数字は小さい。Y Combinatorを出た2011年、エンジェル投資家から集められたのは約15万ドルで、同期の平均よりずっと少なかったと本人は書いている。翌2012年4月、Kickstarterに出したPebbleには6万8,000人が集まり、1,000万ドルを超えた。

ここからの2年は、ハードウェアのスタートアップとしては珍しいほど健全だ。2013年の売上は約3,000万ドルで、純利益が900万ドル出ている。2014年は売上が約6,000万ドルに倍増し、利益はゼロで収支が釣り合った。

この時点のPebbleは、自分たちと同じような技術好きの人が欲しがる時計を作り、その人たちに売っていた。売上が倍になっても赤字にならなかったのは、買う人が誰かを会社がよく分かっていたからだと読める。

1億ドルを見込んで、8,200万ドルだった年

崩れたのは2015年だ。本人によれば、この年の売上目標は約1億ドルだった。実際は8,200万ドルで、前年から35%伸びてはいた。それでも目標には届かず、粗利率は約35%から27%に落ちた。

目標と実績の差より重かったのは、その差が倉庫に残ったことだ。2015年の末、倉庫には1,500万ドルを超える在庫があった。営業費用は、成長を見込んで同じ年に倍に増やしていた。生産のリードタイムは4か月を超え、年末商戦の発注は小売の売れ行きが分かる前に決めなければならなかった。2016年の初め、Pebbleの資金は詰まる。

ハードウェアの会社では、在庫は現金が形を変えたものだ。売れ残った1,500万ドルは、そのまま使えない1,500万ドルの現金だった。編集部が一番重く見る数字はここにある。7億4,000万ドルの提案より、売上8,200万ドルより、年末の倉庫に積まれた1,500万ドルのほうが、この会社の行き先を決めていた。

「100%私のせい」と書いた判断

本人は、どこで間違えたかをはっきり書いている。2015年、Pebbleは時計を生産性の道具として売り出そうとし、その後フィットネスの時計に寄せようとした。技術好きの人が欲しがる製品から、人が欲しがってくれるだろうと期待した、定義のあいまいな製品へ移った。本人はこれを根本の原因と呼び、いま思えば愚かで明白で、100%私のせいだったと書く。フィットネスに絞るのが遅れたことも、もっぱら自分の責任だとしている。

人を増やしたことにも同じ言葉を使っている。より確かな計画なしに会社を急拡大させるべきではなかった。営業費用の倍増についても、それでも私はしくじった、と書いた。

ここからは推測だが、7億4,000万ドルの提案を断った判断も、同じ見立ての上にあったように見える。2015年の夏は、前年の約6,000万ドルから約1億ドルへ売上が伸びるという見込みが、まだ崩れていなかった時期だ。その見込みが正しければ、提案はまだ安かった。見込みが外れたのは年末で、外れたことが分かったのは倉庫の在庫を数えた時だった。断った判断そのものより、断った根拠になっていた売上の見込みが、在庫と費用の両方に先回りしていた。

売れたのは、時計ではなかった

2016年12月の売却で、Fitbitが取ったのはソフトウェアと知的財産と人だった。Bloombergによれば、社員の約40%に採用の打診があり、多くはソフトウェアのエンジニアで、ハードウェアのチームには打診が無かった。ハードウェアは売却の対象外で、発表していた新製品のTime 2とCoreは中止になり、Kickstarterの支援者には返金された。債務は売却額より大きく、Fitbitは引き受けなかった。

時計の会社が最後に売ったのは、時計ではなかった。

スタートアップの失敗がそのまま事業の終わりを意味しない例として、Gumroadの記録がある。創業者はVC調達後の失速を「10億ドル企業の失敗」として自ら公開し、その後は小さな高収益の会社として続いた。Pebbleは在庫を抱えたハードウェアで、その道は取れなかった。物を売る事業で在庫が転機になった記録は小さな会社にもあり、犬好き向けECのHappy Puppinはロボット型の貯金箱5,000個の出荷が転機になった。同じ在庫でも、売り切れた5,000個と売れ残った1,500万ドルでは、会社に残すものが逆になる。

確かめられたことの範囲

限界を書いておく。売上・利益・在庫・粗利率は本人の振り返りによるもので、会社の決算書では確かめていない。CitizenとIntelの提案額は、VentureBeatの報道によるもので、本人の振り返りにはこの2つの提案の額は出てこない。売却額は非公表で、VentureBeatは3,400万〜4,000万ドル、Bloombergは4,000万ドル未満と報じた。Kickstarterの金額は、本人の振り返りで1,000万ドル超、VentureBeatで1,020万ドルとあり、Pebble Timeについて本人は2,000万ドル超と書いている。ベンチャーキャピタルから集めた額は、どちらの出典にも書かれていない。

提案の額ではなく、倉庫の額が残った

7億4,000万ドルという数字は、Pebbleの失敗を語るときに必ず出てくる。断らなければよかった、という話になりやすい。

本人が振り返りに並べた数字は、別の場所を指している。目標1億ドルに対して8,200万ドルの売上、倍に増やした営業費用、年末の倉庫に残った1,500万ドル。創業者は「100%私のせい」と書いたが、その文が向いているのは提案を断った夏ではなく、売上の見込みに合わせて会社と在庫を先に大きくした判断のほうだった。

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本コラムは、Small Startに掲載している事例(すべて出典付きの公開情報)の集計と、公開情報の分析にもとづく編集部の見解です。特定の事業・投資・副業を推奨するものではありません。

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