海外事例 売却済み

The Formula Mom、広告費ゼロでフォロワー17.5万人・年商6桁ドル。2年で粉ミルク会社に合流するまで

元教師のMallory Whitmore氏が2020年8月に始めた粉ミルク育児の発信は、広告費ゼロでInstagram17.5万人・メール3万人に到達。年商は低6桁ドル、うち80%がデジタル商品と個別相談。約2年で粉ミルク企業Bobbieへアクハイアされた。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

The Formula Mom、広告費ゼロでフォロワー17.5万人・年商6桁ドル。2年で粉ミルク会社に合流するまで

「低6桁ドル(low-6 figures)」は年商10万〜30万ドル台、日本円でおよそ1,500万〜5,000万円の幅を指す表現で、正確な額は開示されていない。

The Formula Mom(ザ・フォーミュラ・マム)は、粉ミルクでの育児に関する情報を発信するInstagramアカウントとして2020年8月に始まった。運営したのはMallory Whitmore氏。元教師で、パンデミック前は連邦資金による学校研究に従事していた人物である。約2年後の2022年、彼女はこの事業を米国の粉ミルクメーカーBobbieへアクハイア(人材獲得型買収)の形で譲渡し、自身は同社の教育責任者として社内に入った。買収額は非公開である。

2年間の推移

時期出来事
パンデミック発生従事していた学校研究プロジェクトが終了。「COVIDが起きて、すべてが崩れた」
2020年粉ミルク会社のフリーランス業務を受注。「この分野の実務経験はなかった。情熱で十分だと相手を説得した」
2020年8月Instagramで粉ミルク育児の発信を開始
発信開始後乳児栄養テクニシャンの認定を取得
パートタイム契約者3名(カスタマーサポート/コンテンツ制作/SNS運用)を採用
2022年7月Whitmore氏側からBobbieへ接触
その後約4ヶ月デューデリジェンス
2022年アクハイア成立(現金)。Bobbieの教育責任者に就任

売却時点の規模は、Instagramフォロワー17.5万人、メール購読者3万人、年商は低6桁ドル。売上構成は、デジタル商品と保護者向けの1対1相談が80%、アフィリエイトとブランドとのタイアップが20%である。この比率は後述する通り、この事業の性格をほぼ言い切っている。

なぜ粉ミルクだったのか

母乳育児の情報は世の中に大量にあるが、粉ミルクで育てる保護者向けの、罪悪感を煽らない実務情報は相対的に手薄だった。Whitmore氏はまずそこに発信を置いた。彼女自身が語る通り、この領域に入る前段としてあったのは粉ミルク会社でのフリーランス業務であり、当時の彼女には「この分野の実務経験はなかった」。持っていたのは、教師として、また研究者として「人に教える」訓練を積んできた経歴だ。

発信を始めてすぐ、彼女は「これは収益化できるとすぐに気づいた」と述べている。ただし収益化の順番が重要で、最初に来たのはアフィリエイトやタイアップではなく、自分が作ったデジタル商品と個別相談だった。

転機は「資格を取った」こと

この事例の軌道が変わった地点は特定できる。発信開始後に乳児栄養テクニシャン(infant feeding technician)の認定を取得したことだ。

これは肩書きの飾りではない。SNSで育児情報を発信する人は無数にいるが、その大半は「経験者の共有」の域を出ない。認定を取ると、発信者は「経験を語る人」から「有資格の相談相手」に変わる。前者に払える金額と後者に払える金額は桁が違う。実際、売却時点で売上の80%はデジタル商品と1対1相談――つまり自分が値付けした商品――が占め、アフィリエイトやタイアップという「他人の商品の紹介料」は20%にとどまっている。フォロワー17.5万人という規模なら、タイアップ中心の構成にすることもできたはずだが、そうはならなかった。

もうひとつの転機は2022年7月、彼女の側からBobbieに声をかけたことである。売り込まれたのではなく、自分から動いた。理由は明快で、事業が capacity(処理能力)の上限に当たっていた。

「本気でフルスタッフを雇うことに踏み切るか、あるいは粉ミルク会社に社内で入るか、どちらかしかなかった」

効いた理由を分解する

広告費ゼロで6桁ドルに届いた構造。 彼女は「マーケティングに一切お金を入れずに6桁ドルの事業を作れた」と述べている。これが成立したのは、扱っている主題が「今まさに困っている人が、毎日検索し、毎日SNSで探している」性質のものだったからだ。乳児の授乳という課題は、当事者になった瞬間に緊急性が最大化し、当事者でなくなった瞬間にゼロになる。この種の主題では、広告で認知を作る必要が薄い代わりに、読者は数ヶ月で入れ替わる。フォロワー数の積み上げより、新規の当事者に見つけてもらう回転のほうが効く。

利益率が高く、そのぶん出口の選択肢が狭い。 広告費ゼロ、パートタイム契約者3名という体制は、低6桁ドルの年商に対して手元に残る比率が高い。しかしその高い利益率は「本人が相談に出ている」ことで成立していた。だからこそ上限に当たったとき、選択肢は「人を雇って自分を薄める」か「自分ごと買い手に入る」の二つに絞られた。アクハイアという出口は、資産が本人に集中している事業の必然的な帰結でもある。

買い手にとっての価値。 Bobbie側から見れば、17.5万人のフォロワーとメール3万人という到達手段だけでなく、粉ミルク育児の保護者に対して罪悪感を与えずに語れる語り手を、社内に持てることに意味があった。Whitmore氏は現在、Bobbieの教育責任者として社内教育と社外向けコミュニケーションの両方を担当している。オーディエンスだけを買うなら媒体を買えばよいが、語り口は人にしか付いていない。

楽ではなかった部分

Whitmore氏は二つの困難を挙げている。ひとつは、自分の事業が「ニッチ」な領域であることへの自己不信――これは本当に正当な事業なのか、という疑いを抱え続けたこと。もうひとつはデューデリジェンスの負荷である。

「デューデリのプロセスは、実質的にもう一つの仕事を抱えるようなものだ」

約4ヶ月のデューデリジェンスの間、事業は止められない。ソロに近い体制でこれを同時に回すコストは、売却の話が出たときに見落とされやすい。なお彼女はBobbieとのやり取り自体は「とても協働的で、その点はありがたかった」と評価している。

売却額、デジタル商品の単価、相談の料金、契約者への支払額はいずれも公開されていない。これらは推測せずに空欄のままにしておく。

再現できるもの、できないもの

再現しやすいのは、発信の途中で「資格または検証可能な専門性」を取りに行き、売上構成を他人の商品の紹介料から自分の商品へ寄せるという順序である。認定の取得自体はコストが読める投資であり、フォロワー数を追うより効率が高い局面がある。

また、買い手候補に自分から接触するという動き方も再現可能だ。この事例では、買い手は「同じ課題を扱う事業会社」であり、遠くのファンドではない。日々仕事で接している業界の中に、自分の事業と読者を最も高く評価する相手がいる、という構図はよくある。

再現できない条件も明示しておく。パンデミックで研究プロジェクトが終了し、時間が空いたという状況は選べない。粉ミルク会社でのフリーランス業務を通じて業界の内部を見ていたという前提も、外から真似できるものではない。そして最大の非再現要因は、価値観の合う買い手が同じ時期に存在したことだ。アクハイアは、買い手が「その人を社内に置きたい」と思わなければ成立しない。事業の数字が良いことは条件のひとつに過ぎない。

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出典

本記事は上記の公開情報の要約と独自分析です。 詳細は必ず出典をご確認ください。

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