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Bank Statement Converter、銀行明細PDFの変換だけでMRR $16,000。広告$5,000もコールドメールも空振りだった一人SaaS

香港の元金融エンジニアAngus Cheng氏が2021年4月に開始した、銀行明細PDFをExcel/CSVに変換するSaaS。初年度の総売上は約$10,000、広告$5,000は赤字、コールドメールは1,000通に1件でGmailも凍結。残ったブログと検索だけでMRR $16,000まで伸びた。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

Bank Statement Converter、銀行明細PDFの変換だけでMRR $16,000。広告$5,000もコールドメールも空振りだった一人SaaS

銀行明細のPDFを表計算ファイルに変換する。機能はそれだけのBank Statement Converterが、Founder Reportsのインタビューによれば一人でMRR $16,000を回している。月のコストは約$500、広告費はゼロだ。Small Startに載っている同じ「地味な変換ツール」系だと、HTML→PDF変換APIのPDFShiftが月$6.5Kだから、その2.5倍弱にあたる。個人開発のSaaSは「広告を回してスケールする」姿を想像されやすいが、この事例の実際は逆で、広告$5,000は赤字のまま終わり、コールドメールはGmailアカウントの凍結で幕を閉じた。生き残った集客装置は、本人が暇を見て書いたブログ記事と、そこから来る検索流入だけだった。

怒って辞めた元銀行系エンジニアの、初年度$10,000

創業者のAngus Cheng氏は香港の元金融エンジニアで、Credit SuisseやBullish.comでの勤務歴がある。2020年末に「猛烈に頭にきて」仕事を辞め、自分の支出を分析しようとしたところ、香港の銀行が取引データをPDFでしか提供していないことに突き当たる。自力で抽出コードを書いたら「信じられないほど難しかった」。同じ苦労をしている人がいるはずだと、これを製品化した。

2021年4月、フロントエンド開発者の友人とビールを飲みながら構想を固め、約1週間でMVPを公開。初期投資はドメイン代とAWSのサーバー代で$100未満だった(友人は約1ヶ月で円満に離脱し、以後は一人)。初年度の売上はこう推移した。

時期月売上(香港ドル)
2021年4月(公開月)HK$0
2021年7月HK$2,397
2021年12月HK$7,490
2022年3月HK$11,671
初年度合計約HK$77,000(約$10,000)

フルタイムで1年やって総売上約$10,000。これを続けられたのは、金融エンジニア時代の高給を意図的に貯め、不動産も買わずに滑走路を確保していたからだと本人は語っている。

空振りだった2つのチャネル

Cheng氏は当初「クリック課金広告だけが現実的なチャネル」と考えていた。2021年4月から10月までGoogle広告にHK$40,000(約$5,000)を投じたが、採算は合わないままで停止。広告を止めると1日150人来ていた訪問者は30人まで落ちた。買った流入は、買うのをやめれば消える。

コールドメールはさらに分が悪かった。成約は1,000通あたりおよそ1件。しかも送信量が原因でGmailアカウントを凍結された。単価$30の製品にとって、1,000通書いて1件の成約では作業コストが回収できない。この2つの空振りが示すのは、低単価・ニッチ・検索起点という製品特性と、プッシュ型チャネルの相性の悪さだ。

残ったのはブログと検索だけ

効いたのはコンテンツだった。Cheng氏は「人が読みたくなるものを書こう」という方針でブログを始め、コンテンツは「永遠に残りうる」から最も費用対効果の高いマーケティングだと位置づける。効果の定量化は難しいと本人も認めつつ、現在のトラフィックは週約4,200ユーザーで、その主な出どころはGoogle検索。広告費はゼロだ。「銀行 明細 PDF 変換」のような検索は、まさに困っているその瞬間の会計士や中小事業者が打つクエリで、「Twitterヘッダー作成」のようなユースケース検索をLP化して$62K MRRに達したSnappaと同じ、用途起点SEOの構造にある。

製品の改善も検索と同じく引き寄せ型だ。本人の最大の教訓は「ユーザーと話せ。彼らが問題を教えてくれる」で、スキャンされた紙の明細が変換できないという苦情から、その対応機能を実装した。サポートへの問い合わせが、そのままロードマップになっている。

本人ブログの実数と、都合の悪い予感

この事例の検証可能性は高い。Cheng氏は自身のブログで収益を定期公開しており、2023年2月の記事にはこうある。

月MRR決済件数
2022年11月HK$43,914195件
2022年12月HK$48,959216件
2023年1月HK$50,408226件

転機はその前の2022年7月にあった。大口プランの成約で月約HK$20,000に跳ね、翌月はHK$63,000。ただし本人は8月の入金HK$59,507について、HK$40,000の単発案件が含まれる特殊値だと注記している。さらに同じ記事でこうも書く。「MRRは停滞し始める気がする。毎月、解約する人と新規登録する人が同じくらいの数になりつつある」。伸びている月にも、頭打ちの予感まで公開しているのがこのブログの誠実さで、その後Founder Reportsのインタビュー時点でMRR $16,000まで伸びたことを考えると、この不安は杞憂に終わった形になる。

「地味ツール」の実数の階段

一人〜少人数で回す実用ツールSaaSを金額順に並べると、PDFShiftが月$6.5K、Bank Statement Converterが月$16K、7年かけて一人でMRR $60Kに達した学習動画のGoRails、そしてSnappaの$62Kと続く。派手さのない題材ほど、競合も参入しないまま検索資産が積み上がる。広告で採算が合わない低単価ニッチでは、検索に置いたコンテンツだけが積み上がる集客資産になる。Bank Statement Converterは、その階段の2段目にいる。

ブログの実数は2023年1月分で止まっている

MRR $16,000という現在値はFounder Reportsのインタビューでの本人回答で、ブログの実数公開(2023年2月の記事が出した1月分まで)より後の推移は同じ粒度では検証できない。その2023年2月の記事で、本人は解約と新規登録がほぼ同数になりつつあると書いていた。その予感が外れたことを示すのはインタビューの数字1つだけで、HK$50,408からの伸びが新規の積み上がりによるものか、2022年7月のような大口プランによるものかは分からない。

週4,200ユーザーがほぼGoogle検索から来ているという構造にも、時点の制約がある。「広告が全滅でも検索で育つ」という経路は2021年当時の検索環境で成立したもので、AI検索が要約を返す今、「銀行 明細 PDF 変換」のようなクエリが同じ量のクリックを運ぶかは別の問題だ。香港の銀行明細という題材は本人の居住地と職歴に根ざしており、対応銀行を広げる作業は見た目より重い。苦情から機能を作る開発も、サポートを本人が受けている規模のあいだの仕組みである。

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