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The Water Coolest、登録者10万人でBarstoolへ売却し、2年後に自分で買い戻した往復

金融ニュースレターThe Water Coolestは2017年創刊、登録者10万人でBarstool Sportsへ売却。しかし親会社の交代を機に2023年10月、創業者が自ら買い戻した。転機はいずれも「誰の声で書くか」の防衛だった。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

The Water Coolest、登録者10万人でBarstoolへ売却し、2年後に自分で買い戻した往復

事業を売った人の記事は多いが、売った事業を自分で買い戻した人の記事は少ない。米国の金融ニュースレター「The Water Coolest」の創業者Tyler Morin氏は、2021年に登録者10万人まで育てた媒体をBarstool Sportsへ売却し、約2年後の2023年10月、それを買い戻して独立運営に戻した。売却額も買戻し額も非公開だが、この往復の過程には、購読者ゼロから始めた個人媒体が「何を資産として持っていたのか」がはっきり表れている。

7年間の出来事を並べる

時期出来事数字
2017年9月12日The Water Coolest 創刊(平日毎日配信)登録者0
2018年Barstoolが金融ライターMichael McCarthy氏を採用し金融領域へ拡大
2020年登録者が5万人を突破50,000人
2021年Barstool Sportsへ売却。Morin氏はHead of Newsletter Opsとして残る10万人
2023年8月Dave Portnoy氏がPenn EntertainmentからBarstoolを買い戻し、人員削減
2023年10月4日Morin氏がThe Water Coolestを買い戻し、独立運営へ
現在独立運営を継続13万人

金額は売却・買戻しとも開示されていない。ただしMorin氏はNewsletter Circleのインタビューで、Barstoolへの売却時の評価が「売上倍率(multiple of revenue)」ベースだったと述べている。無料ニュースレターであっても、購読者数そのものではなく、そこから発生している収益に倍率をかけて値が付いたということだ。

何を配信し、誰が作っていたか

The Water Coolestは、ビジネスと市場のニュースを平日毎日届ける無料ニュースレターである。特徴は情報そのものではなく口調にあり、Morin氏自身が「The Water Coolestの変わっている点/独特な点/いい点のひとつは、これがきわめて自分の声そのものだということだ(好きか嫌いかは別として)」と語っている。彼の出自は金融であってメディアではない。「自分は金融の人間で、メディアのことは何も知らなかった」というのが本人の自己紹介だ。

体制は一貫して小さい。売却時点でも創業者本人と複数の業務委託という構成であり、現在も基本はソロ運営で、広告枠の販売はエージェンシーへ外注し、Morin氏自身は直接手を動かしていない。収益はスポンサー広告と有料購読(有料会員向けの深掘り記事)の二本立てである。

最初の90日で決めたこと ―― 配信面を「借りる」

伸びた理由をMorin氏はひとつに絞っている。立ち上げ直後の意思決定だ。

「最初にやった最も大きなことのひとつは、大量のInstagramインフルエンサーと組んだことだ」

金融系のミーム・アカウント、TwitterでいえばGSElevatorのような口の悪い金融アカウント群と、創刊直後から提携した。「彼らは本当に協力的で、私たちのことを広めるのを助けてくれた」とも述べている。その後、FacebookとInstagramの有料広告、ブランドとの共同キャンペーンやコレジ(共同登録)、大学生アンバサダープログラム、紹介プログラムと手段は増えていくが、順番として最初に来たのはインフルエンサー提携だった。

ここが転機である。ゼロから読者を集める方法は大きく分けて二つしかない。検索や口コミが効き始めるまで待つか、既に読者が集まっている場所に自分を置くか。The Water Coolestは後者を選び、しかも「金融のミームで笑っている人たち」という、自分の口調とほぼ完全に重なる集団の前に置いた。無料広告枠を買うより、読者層の一致した媒体の推薦を得るほうが、開封してくれる読者が増える――この一致が効いた。

二つ目の転機は、売る相手を一社に絞ったこと

2018年に金融領域へ拡大していたBarstoolは、口調と読者層が自社と重なるThe Water Coolestに気づき、McCarthy氏経由で接触した。McCarthy氏はMorin氏を「人を眠らせずに賢くする不思議な能力がある」と評し、他の金融ニュースレターより「刺激的で、より正直だ」と述べている。

Morin氏の側の判断は明快だった。

「Barstoolは、自分が売りたいと思った唯一の場所だった」

彼は積極的に売り先を探していたわけではなく、交渉自体は「交渉の集中講座だった」と振り返っている。ここで最も注意を払ったのは金額ではなく編集権だ。「編集権を手放すのが怖かった。幸いBarstoolでは100%の自律性があった」。売却後もHead of Newsletter Opsとして残り、The Water Coolestの編集判断は自分が持ち続けた。

そして2023年8月、Portnoy氏がPennからBarstoolを買い戻し、人員削減が起きる。同年10月4日、Morin氏は「Barstoolでのおよそ2年を経て、The Water Coolestは(再び)独立する」と発表し、「何ひとつ変わらない」と付け加えた。

なぜ買い戻せたのか ―― 構造から見た解釈

ここからは編集部の見立てである。買い戻しが成立した背景には、この事業の資産構造がある。The Water Coolestの中核資産は購読者リストと、Morin氏の口調そのものだった。前者は譲渡できるが、後者は譲渡できない。買い手が本人を雇用し続ける限り媒体は機能するが、本人が離れれば同じものは再現できない。この非対称性は、売り手側にとっては売却後も交渉力が残る構造であり、親会社の方針が変わったときに「では自分が引き取る」と言える余地を作る。

裏を返せば、これは属人性を排除しきれなかった事業の限界でもある。10万人の読者を抱えながら体制はほぼソロのままで、広告販売は外注、スケールの手段は限定的だった。売上倍率での評価が付いたということは、買い手が見ていたのは購読者数ではなく既存の収益であり、その収益は結局のところ一人の書き手の稼働に紐づいている。

効かなかったこと、書かれていないこと

出典で確認できる範囲では、有料広告(Facebook・Instagram)は施策として使われているものの、Morin氏が「最も大きなことのひとつ」として挙げたのはインフルエンサー提携であってペイド広告ではない。また、買い戻し後の彼は指標の置き方を変えており、購読者数のような虚栄の数字よりも「クリック率や、返信のようなエンゲージメントの別の形」を重視すると述べている。13万人という現在の登録者数は、伸び方としては売却時の10万人から2年強で3万人増――創刊から売却までのペースに比べれば緩やかだ。

売却額・買戻し額はいずれも非公開であり、収益の実額、スポンサー単価、有料購読者数も公開されていない。ここは推測しない。

どこまで真似できるか

再現しやすいのは、立ち上げ期に「自分と読者層が完全に一致する既存メディアの前に置いてもらう」という配信設計である。金融ミームのアカウント群と金融ニュースレターのように、口調と関心が重なる相手を選べば、紹介の説得力が高い。有料広告のようにクリエイティブを工夫して興味を作るのではなく、既に興味を持っている集団に、信頼済みの発信者の口から届ける構造だ。

もうひとつ再現しやすいのが、売却交渉で金額の次に置くべき条件を先に決めておくことだ。Morin氏の場合それは編集権であり、100%の自律性を確保したことが、結果として買い戻しの土台にもなった。

一方で再現できない条件も明確にしておく。2017年という時期はニュースレター市場が本格的に混み合う前であり、Barstoolが2018年から金融領域を強化していたという買い手側の事情も偶然に近い。何より、買い手が「口調」に価値を見出したという評価軸は、書き手の個性が突出している場合にしか成立しない。同じ内容を丁寧に書く媒体では、この売却も買戻しも起きなかった可能性が高い。

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出典

本記事は上記の公開情報の要約と独自分析です。 詳細は必ず出典をご確認ください。

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