DropCommerce、3年でMRR 7.8万カナダドル。広告を捨ててShopifyアプリストアに賭けた理由
Patrick Kelly氏が2018年10月に出したShopifyアプリDropCommerceは、2019年8月にMRR $3,000、2020年5月に$46,000、2021年末に78,000カナダドルへ。有料広告のROIは悪く、伸ばしたのはアプリストアの自然流入だった。
執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)
月商858万円は、月商を公開している掲載227件のうち上位27%。掲載全体の月商中央値は157万円です(データ集計)。
金額は原則カナダドル建て(1カナダドルで換算)。本文中の「$」はAMA本文の表記に合わせた米ドル表記を含むため、通貨を明示して記載する。
3年で何が起きたのか
DropCommerceは、Shopifyストア向けのドロップシッピング・アプリである。特徴は「海外(主に中国)の安価な商品ではなく、米国国内の質の高いサプライヤーにつなぐ」という一点に絞った差別化にある。
創業者Patrick Kelly氏は2018年に共同創業者と2人で開始し、2021年12月のAMA時点でMRR 78,000カナダドル(年商換算で約1億300万円)、チームは10人(うちフルタイム8人)に達している。外部調達なしのブートストラップだ。
この事例で検証したいのは、成長の主因である。結論から言えば、有料広告でも営業でもなく、Shopifyアプリストアの自然流入だった。
収益とチームの推移
| 時期 | 出来事 | MRR |
|---|---|---|
| 2018年7月 | 米国ブランドにメールを送り、需要を検証 | — |
| 2018年10月 | Shopifyアプリストアで公開。初日から1日18インストール | — |
| 2018年12月 | 初のサブスクリプション売上 | 発生 |
| 2019年8月 | 創業者がフルタイム化 | $3,000 |
| 2019年10月 | 初の従業員を採用(学生。採用助成金で人件費を補助) | — |
| 2020年2月 | — | $12,000 |
| 2020年5月 | コロナ禍のEC需要で急伸 | $46,000 |
| 2021年頃 | $46,000到達から約1年で10人体制(フルタイム8人) | — |
| 2021年12月 | AMA実施時点 | 78,000カナダドル |
2019年8月の$3,000から2020年5月の$46,000まで、わずか9ヶ月で約15倍。ここにコロナ禍のEC需要爆発が重なっているのは事実であり、この事例を語る上で外せない前提条件だ。
検証を「作る前」に済ませている
ローンチ前の2018年7月、Kelly氏がやったのは米国ブランドへのメール送付だった。ドロップシッピング用に商品を卸してくれるサプライヤーが実在するかを、コードを書く前に確かめたことになる。
これはマーケットプレイス型事業の本質を突いている。ドロップシッピング・アプリの価値は、アプリの機能ではなくサプライヤーの質と数にある。供給側が集まらなければ、どれだけ良いUIを作っても価値はゼロだ。先に供給を検証した順序は、この構造から逆算されている。
そしてリリース初日から1日18インストール。これはアプリストアという既存の需要プールに乗った結果であり、ゼロから集客した数字ではない。
決定打はアプリストアの自然流入だった
Kelly氏の言葉は明快だ。「Shopifyからのオーガニックトラフィックがすべてだった」。
対して、有料広告と、Shopifyユーザーのリストへの直接メール営業は、いずれもROIが悪かったと明言している。ドロップシッピング市場は競合過密で広告単価が高騰しており、CAC(顧客獲得単価)が月額$10〜$20のサブスクリプションと釣り合わなかった、という構造である。
では自然流入をどう伸ばしたのか。彼が挙げた要因は「優れたカスタマーサポートを提供すること」と、アプリストアの評価を4〜4.6の星で維持することだった。この二つは無関係ではない。Shopifyアプリストアの露出はレビュー評価とインストール数に強く依存する。サポートを厚くする → レビューが良くなる → ストア内順位が上がる → インストールが増える → さらにレビューが増える。この循環が回り始めると、獲得コストは実質的にサポート人件費に置き換わる。
広告費が競合との入札で消えていくのに対し、サポートへの投資は評価という資産として蓄積する。同じ金額を使っても、流出する支出と蓄積する支出がある。これがこの事例の核心のメカニズムだ。
安いプランを残した価格設計
料金はフリーミアムの段階制で、無料プラン(サプライヤー3社まで、注文処理は不可)、月$10プラン、より多くのサプライヤーにアクセスできる月$20プランという構成。そして収益の約3分の1が安価なプランから来ている。
MRRを最大化するなら高単価プランに集中するのが定石だが、DropCommerceは安いプランを残した。ドロップシッピングを始める層は、月商が立つ前の個人がほとんどである。彼らを月$10で受け入れておけば、成功した一部が上位プランに移る。無料と$10のプランは収益源であると同時に、レビュー数とストア順位を支える母数でもある。
うまくいかなかったこと
AMAで否定されている施策は具体的だ。ひとつは有料広告。市場が飽和し、獲得コストがLTVに見合わなかった。もうひとつはShopifyユーザーリストへの直接メール営業で、これも成果が出ていない。
構造的なリスクも残る。売上のほぼ全量がShopifyアプリストアという単一チャネルに依存している。ストアのアルゴリズム変更、審査ポリシーの変更、Shopify自身による機能の内製化。いずれもコントロール不能な要素だ。加えて、2020年の急成長にはコロナ禍というEC全体の追い風が含まれている。
競合についてKelly氏は「市場が十分に大きく、速く成長しているなら、競合がいることは落胆する理由にならない」と語っている。実際、AMAの約半年前には彼自身が一歩引いて新しい事業に取り組み始めており、DropCommerceは創業者が現場を離れても回る組織になっていた。
技術面の情報も残されている。フロントエンドはReact、バックエンドはDjango REST FrameworkとPython、ホスティングはHerokuとAmazon RDSで、規模が拡大した段階でも月額約$1,000程度。MRR 78,000カナダドルに対するインフラ費としては極めて軽い。
再現の条件と限界
再現しやすいのは、プラットフォームのアプリストアを主戦場に選ぶという判断だ。Shopify、WordPress、Notion、Slack。いずれも既存ユーザーの需要が集まっており、レビューと評価が露出に直結する。広告費を買えない個人・少人数チームにとって、サポート品質を通貨に変えられる数少ない場所である。
もうひとつは、供給側を先に検証する順序。マーケットプレイス型の事業では、需要より供給の確保が難しいことが多い。
再現しにくい要素は三つある。まず2020年のコロナ禍という外部要因。$12,000から$46,000への3ヶ月での伸びを、平時の実行力だけで説明することはできない。次に採用助成金で初期の人件費を軽くできたカナダの制度環境。そして「米国内サプライヤー」というポジショニングは、中国発の格安ドロップシッピングが支配的だった当時の市場に対する差分として機能したものであり、現在の市場でそのまま成立するとは限らない。
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出典
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