Apple凍結・売上75%減から再起。アプリ30本の量産で月商$60,000
Viktor Seraleevは2022年、移住で売上の75%を一夜で失い、Appleに開発者アカウントを凍結され、銀行口座も凍結された。単発ヒット狙いをやめ「10本作りきる」縛りに切り替えた結果、30本超のアプリで月商$60,000超に到達している。
執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)
月商901.5万円は、月商を公開している掲載227件のうち上位26%。掲載全体の月商中央値は157万円です(データ集計)。
全部いっぺんに壊れた年
個人開発の事例で語られる困難は、たいてい「売上が伸びない」である。Viktor Seraleevの2022年は種類が違う。売上の75%が一夜で消え、Appleの開発者アカウントが停止され、会社の銀行口座が凍結された。この3つが同時に起きた。
彼はAppleを提訴したが敗訴している。アカウントの停止は契約上Appleの権利の範囲内、というのが結論だった。本人はこの時期を人生で最も強いストレスと痛みを伴った期間の1つだと語っている。
その状態から、現在の運営体はアプリ30本超、Appleの手数料を差し引いた後で月商$60,100超に到達している。ここで見るべきは復活の速度ではなく、壊れた後に彼が事業の形をどう作り替えたかである。
何が起きたのかを時系列で
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 〜2020年 | 妻とネイルサロンなどオフラインの事業を運営 |
| 2020年 | パートナーと別れ、単独でモバイルアプリへ転向 |
| — | 妻がInstagram動画の分割ツールを見つけられなかったことが発端。UIを自分で設計し、友人に実装を依頼 |
| 8ヶ月後 | そのアプリの純収益が**$34,000**に到達 |
| — | 未打診の買い手から**$410,000**のオファーを受け、売却 |
| 2021年半ば | 資金はあったが、やり方を考え直すため一度リセット |
| 2022年初 | ロシアからチリへ移住。ロシア市場を失い売上の75%が消失 |
| 2022年 | 元パートナーの登記社名との名称衝突を理由にAppleが開発者アカウントを停止(判明まで8ヶ月)。制裁の影響で銀行が資金を凍結。提訴するも敗訴 |
| 以降 | 「10本のアプリを作る」縛りに転換 |
| 2025年12月時点 | アプリ30本超、月商**$60,100超**(手数料控除後) |
3回、彼は事業をやり直している。2020年、2021年半ば、そして2022年。最初の2回は自発的なリセットで、3回目だけが外部から強制されたものだった。
いまの事業の中身
現在のポートフォリオは30本超。ジャンルは写真・動画、クリエイティブ系ツール、ユーティリティに寄っている。収益はすべてサブスクリプション(週次と年次のプラン)で、アプリ内広告は入れていない。広告を避けるのはユーザーの信頼を保つためという方針上の選択だ。
実装は主にiOSのネイティブSwift。最近はReact NativeやKotlin Multiplatformでクロスプラットフォームの検証も始めている。
集客チャネルは、本人が効果順に並べている。
| チャネル | 内容 |
|---|---|
| ASO | アプリ内検索から流入の約25%、競合ページ経由の露出から約10% |
| ローンチ時の勢い | 名称とキーワードを合わせる設計 |
| 個人のSNS発信 | Xの投稿が60万表示超 |
| Google広告 | 複数の広告媒体を試した末、採算の合う有料チャネル |
| ショート動画 | スペイン語と英語で1日6本を1ヶ月投稿。最高再生は120万回。ただし時間コストが重い |
| Apple Search Ads | 競争が激しくコストが合わず停止 |
| Product Hunt | 初期フィードバック目的で時々 |
流入の3分の1強がApp Store内の検索と競合ページ経由、つまりストアの中で完結している。これは後述するリスクの話に直結する。
転機は「1本を当てにいく」のをやめた瞬間
この事例の転機は、外部の事件そのものではない。事件の後に彼が選んだ方法論の変更である。
凍結前の彼は、1本のアプリを当てにいく型だった。実際それは一度うまくいっている。最初のソロアプリは8ヶ月で純収益$34,000を作り、$410,000で売れた。成功体験としては十分だ。
しかし2022年に全部が同時に壊れたあと、彼が採ったのは「10本のアプリを作る」という縛りだった。ルールは3つ。品質を落とさないこと、本当に役に立つ機能であること、そして決めた本数を必ず作りきること。
before / after で見ると分かりやすい。以前は1本に賭けて$410,000の一括を得た(が、失えばゼロになる)構造だったのに対し、現在は30本超の合算で月$60,100が積み上がる構造になっている。単純平均すれば1本あたり月$2,000程度で、突出した1本に依存していない。
この縛りが生んだのは本数そのものではなく、判断材料だ。10本作りきると、どれを伸ばすべきか、どれを畳むべきか、どこに労力を置くべきかが実測で分かる。1本しか作らなければ、その1本が伸びない理由が「アイデアが悪い」のか「実行が悪い」のか永久に切り分けられない。
なぜこの型が効いたのか
理由の1つ目は、失敗の単価が下がったこと。 1本に全リソースを投じる型では、外れたときの損失が事業全体の損失になる。小さく多く作る型では、外れた1本の損失は全体の30分の1で済む。2022年の経験は、彼にとって「単一の点に依存した状態はいつか外部要因で消える」という実地の証明だった。ポートフォリオ化はその直接的な対処になっている。
2つ目は、ASOという再現可能な入口を持っていたこと。 流入の約25%がアプリ内検索、約10%が競合ページ経由という構造は、本数を増やすほど有利に働く。1本ごとにキーワードと名称を合わせて設計すれば、検索の網が本数分だけ広がるからだ。バイラルやメディア露出と違い、ASOは投入した本数に対して線形に近い形で効く。量産戦略とASOはセットで初めて機能する。
3つ目は、単発売り切りではなくサブスクにしたこと。 30本の小さなアプリを買い切りで売っても、収益は毎月ゼロから積み直しになる。週次・年次のサブスクにしていることで、本数の積み上げがそのままMRRの積み上げになる。ポートフォリオ型が成立する前提条件がここにある。
4つ目は、公開して信頼を集めたこと。 彼は凍結後、方針を「混乱とやり直し」から「安定・予測可能性・透明性」に置き換え、Xで進捗を公開する型に変えた。60万表示超の投稿はその産物だ。取り繕った見せ方より、開示のほうが信頼を集めるというのが本人の言である。
残っているリスクと、解けていない問題
数字が回復しても、構造的な問題は解けていない。
最大の依存先はいまだAppleである。 収益は手数料控除後で語られており、流入の3分の1強はストア内で完結している。2022年に彼を止めたのは市場でも競合でもなく、プラットフォーム側の判断だった。同じ判断がもう一度下される可能性は、本数を増やしても消えない。本人がこれを最も理解しており、だからこそ次の一手としてType.link(リンクインバイオとサイトビルダー)というWeb/SaaS側のプロダクトを開発している。アプリストアの外に売上の足場を作る、という明確な意図だ。
量産には時間コストの上限がある。 ショート動画を1日6本、1ヶ月続けて最高120万再生を出した施策は、効果はあったが「時間がかかりすぎる」として本人が効率の低い側に位置づけている。Apple Search Adsも競争激化でコストが合わず止めている。効いた施策と効かなかった施策が明確に分かれているのは、それだけ試した数があるということでもある。
再現できる条件、できない条件
移せるもの。 「1本に賭けない」という原則。本数を先に決めて作りきる縛り(検証を完了させる仕組みとして機能する)。買い切りではなくサブスクで課金し、本数の積み上げを収益の積み上げに変換すること。ASOを主軸に据え、名称とキーワードを設計段階から合わせること。そして単一プラットフォーム依存を能動的に減らしにいく姿勢。
移せないもの。 最初のアプリを$410,000で売却した資本と、それが与えた時間的余裕。30本超を維持できるだけの開発速度と、10年近い試行の蓄積。地政学的な事情による移住や制裁は、真似したい条件ではないが、彼の判断の背景としては切り離せない。また「絶対に諦めない」という育ち方や家族の支えを本人は要因に挙げているが、これは他人が調達できるものではない。
この事例が示す教訓は、単発のヒットが悪いということではない。単発のヒットは、それが消えたときに事業ごと消えるという性質を持っている、という一点だ。
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出典
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