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買い切り2,000円のiOSアプリ「MT」、公開初月に5桁・3ヶ月累計10万円超

本業エンジニアのガジェットブロガーが自作した買い切り2,000円のターミナルアプリ「MT」。2026年4月7日の公開初月に売上5桁、3ヶ月累計10万円超。転機は「レビューする側が対象そのものを作った」ことにある。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

買い切り2,000円のiOSアプリ「MT」、公開初月に5桁・3ヶ月累計10万円超

外出先からサーバーに接続するためのターミナルアプリを、本業エンジニアの個人開発者が買い切り2,000円でApp Storeに出した。公開日は2026年4月7日。開発者のじゃが氏(屋号「Jaga Studio」)は公開から3ヶ月後、自身のnoteで「初月から売上5桁」「3ヶ月累計で10万円を超えた」と開示している。

3ヶ月で起きたことの時系列

時期出来事・数字
開発期間既存アプリへの不満から自作を決断し、約1ヶ月半で開発
2026年3月8日freee開業を使い開業届を提出。屋号は「Jaga Studio」
3月〜4月App Store審査で7往復、実質10日間
2026年4月7日「MT — Mosh Terminal」公開。買い切り2,000円
公開初月売上が5桁(1万円台〜9万円台)に到達
2〜3ヶ月目「一度も落ちることなく伸び続けた」
公開3ヶ月時点累計売上10万円超

開業届の提出から公開まで30日。3ヶ月で10万円を単純に3で割れば月あたり3万円強で、金額そのものは大きくない。ただしこの事例で見るべきは絶対額ではなく、売上の「形」である。買い切り型アプリの売上は公開直後に跳ね、その後急速に減衰するのが通例だ。本人の記述ではその減衰が起きていない。

何を売っているのか

MTはSSHとMosh(Mobile Shell)に対応したiPhone・iPad向けターミナルアプリである。じゃが氏が自作に踏み切った動機は、本人の記事によればきわめて具体的だ。外出先でClaude CodeやCodexを使う機会が増えたが、既存のiOSターミナルアプリには「サブスク前提で毎月お金がかかる」「日本語入力が崩れる」「tmuxの並列化が面倒」という不満があった。

そこで実装されたのが、通信が切れても復帰の速いMoshの独自実装、iPadでの画面分割とブラウザ風のタブ管理、⌘長押しでのショートカット一覧、日本語変換の確定時の文字化け対策、tmuxの分割・パネル切替・ズームなど15種の操作のワンタップ化である。「全てキー操作できる」設計で、タッチ操作を前提にしていない。

価格は買い切り2,000円。本人は既存アプリとしてBlink Shell(年額19.99ドル)とTerminus(月額10ドル)を挙げ、「1年もせず元が取れる」と説明している。つまり価格そのものが競合との差分になっている。

転機は「レビューする側が、レビュー対象を作った」瞬間

この事例の転機は、資金でも広告でもない。じゃが氏はもともとガジェットブロガーであり、iPhoneからClaude Codeを操作できるターミナルアプリのレビュー記事を書く側の人間だった。その人物が、レビュー対象のカテゴリそのものを自分で作った。ここが軌道の変わった点である。

これがなぜ効いたのかは、開発前後の意思決定コストを見ると分かりやすい。通常の個人開発では「誰が欲しがるのか」「いくらなら払うのか」の検証に時間と金がかかる。じゃが氏の場合、その検証は自作を決める前にすでに終わっていた。自分自身が既存アプリの課金対象であり、不満点を3つ具体的に言語化できていた。さらに、そのカテゴリに関心のある読者が普段から自分の発信を読んでいる。作る前から、需要・価格帯・到達手段の三つが揃っていたことになる。

本人も収益記事のなかで「売上の大半を作った『ある1つの導線』」があったと書いている(導線の中身は同記事の有料部分であり、本稿では特定しない)。売上の大半が単一の導線に集中していたという構造自体は、広く薄く集客したのではなく、既存の接点を一点に絞って効かせたことを示唆している。

もう一点、売上が落ちなかった理由として構造的に説明できるのが、アプリの用途と課金タイミングの近さである。ターミナルアプリを探す人は「いま外出先からサーバーに入りたい」という明確な作業の直前にいる。検索や紹介記事に触れる瞬間と、支払ってよいと判断する瞬間の距離が短い。娯楽アプリのように「気が向いたら買う」層を相手にしていないぶん、公開直後のお祭り需要が引いた後も、同じ動機を持つ人が毎月一定数流入し続ける。買い切りでありながら初速の後に減衰しなかったという観測は、この需要の性質と整合する。

効きにくかったこと、そして残ったリスク

順調な部分だけの事例ではない。App Store審査は7往復し、実質10日を要した。却下理由として本人が挙げているのは、SSHターミナルをVPNアプリと誤認識されたこと、買い切り課金を「期限切れのサブスク」と指摘されたこと、そして審査用デモサーバーを3回作り直す羽目になったこと(最終的にDigitalOceanを使用)である。レビュー端末がiPad Air 11インチ(M3)・iPadOS 26.4だと判明した、という粒度まで記録されている。

本人は価格設定について「大きめの反省がある」とも書いている。3ヶ月で10万円という水準は、買い切り2,000円なら累計50本強の販売に相当する計算だ。単価を上げるか下げるかで到達点が変わるレンジであり、初期の価格決定が後から効いてくる典型例といえる。

構造的なリスクもある。買い切りモデルは新規購入が止まれば売上も止まる。サブスクのような積み上げがない以上、機能追加とOSアップデート対応のコストは、将来の新規購入で回収するしかない。さらに開発者アカウントとApp Storeという単一チャネルへの依存も残る。開業届を出したこと自体にも、本人が指摘するとおり退職時の失業手当に影響しうるという副作用がある。

どこまで真似できるか

再現しやすいのは手続きの部分である。開業届はfreee開業で当日中に完了しており、屋号を持つこと自体のコストはほぼゼロだ。審査で詰まる論点(通信系アプリの用途説明、買い切り課金の扱い、デモ環境の用意)も、先行事例として言語化されているぶん、後続は同じ壁で10日を失わずに済む可能性が高い。

再現しにくいのは前提条件のほうだ。本業エンジニアであり、Moshの独自実装やtmux統合を1ヶ月半で作り切る技術があること。ガジェット領域ですでに読者を持っていること。自分自身が課金ユーザーとして不満を言語化できるだけの使用頻度があったこと。この三つは、資金ではなく積み上げてきた時間で買われたものであり、後から短期に用意できない。

裏を返せば、この事例が示す再現条件は「自分が金を払っている道具の不満を、自分がすでに人を集めている場所で解決する」という重なりの有無に尽きる。重なりがある人にとっては、必要な初期投資は開業届と審査の忍耐だけだった。重なりがない人が同じ手順だけをなぞっても、売上が3ヶ月落ちない形にはなりにくい。

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