Jammsworks、幼馴染2人の脱出ゲーム49作で累計売上6億円——起点は競合100作の低評価レビューだった
群馬の幼馴染2人が2016年10月から2024年8月までに脱出ゲームを49作リリースし、累計3,000万DL・累計売上6億円。出発点は競合100作の低評価レビューを読み込み、その逆を作ることだった。2作目で難易度を上げて収益が半減した失敗も公開されている。
執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)
スマホの脱出ゲームは、無料アプリの中でもとりわけ参入者が多いジャンルだ。その中で群馬県大泉町出身の幼馴染2人組「Jammsworks」は、2016年10月から2024年8月までに49作を出し、累計ダウンロード数3,000万を超えた。累計売上は2024年7月時点で6億円を突破している。いずれもレバテックLABのインタビューで、プログラマのAsahi Hirata氏が自ら語った数字だ。
収益源はゲーム内のバナー広告と、謎解きに詰まったユーザーがヒントを見る前に流れる動画広告の2つだけ。App Storeのデベロッパーページを見ると、公開中の全作品が価格0円で並んでいる。買い切りも、有料アイテムの物販もない。無料配布した作品に広告を貼り、それを8年間で49本積み上げた結果が6億円ということになる。
この6億円を、初作の公開から取材時点までの94か月で均すと月平均638万円になる。ただしこれは「今の月商」ではない。本数が最も増えたのは創業直後の1〜2年で、現在のリリースペースはむしろ落ちている。均した数字と実際の推移がずれていること自体が、この事業の性格をよく表している。
8年を数字で追う
| 時期 | 出来事・数字 |
|---|---|
| 2016年前半 | Hirata氏が工場勤務のかたわら独学。平日は出勤前後で計5時間、休日は8時間 |
| 2016年5〜9月 | 謎解き・脳トレ系アプリを先行してリリース。アプリ内広告で月数十万円規模に |
| 2016年 | Saito氏が設計事務所を退職(月100時間超の残業)。翌日から2人で開発開始 |
| 2016年10月5日 | 初作『脱出ゲーム 1K』公開。制作期間1か月、初月売上100万円 |
| 2016年11月3日 | 2作目『赤い部屋』。難易度を上げた結果、収益は1Kの半分に |
| 2016年12月6日 | 3作目『Christmas Eve』。低評価の原因を潰し評価が回復 |
| 2017年 | 法人化(株式会社Jammsworks)。Hirata氏が代表に。この年だけで脱出ゲーム12作 |
| 2019年5月 | 『The Little Prince 星の王子さま』がGoogle Play Indie Games Festival 2019のトップ20に選出 |
| 2021年3月 | 『サントリーニ』公開。コロナ禍の外出制限をきっかけに海外観光地シリーズへ |
| 2024年7月 | 累計売上6億円突破 |
| 2024年8月 | 49作・累計3,000万DL(取材時点) |
公式Instagramのプロフィールでは、その後「世界21カ国で配信中」「累計3500万ダウンロード突破」と更新されている。取材時点から数字がさらに伸びていることを、本人たちが自己開示している形だ。
低評価レビューを設計図として使う
初作を作る前、2人がやったのはアイデア出しではなく調査だった。App Storeのランキング上位100作ほどの脱出ゲームを片っ端からダウンロードし、2〜3週間かけてほぼ寝ずに全部プレイして、レビュー欄のコメントを一語一句読んだという。
そこで見えた低評価の傾向は大きく2種類だった。「雰囲気が不気味、怖い」と「難易度が高すぎる」。Saito氏の言葉を借りれば、「じゃあ、その逆をつくれば低評価がつかないゲームになるじゃん」。こうして「閉鎖感が薄く、謎解きが簡単なゲーム」というコンセプトが決まった。
注目したいのは、この調査が高評価ではなく低評価を見ている点だ。高評価レビューは作り手の個性や当たり外れに左右されるが、低評価は「どこで離脱したか」の記録に近い。競合が積み上げた不満のログを、そのまま自社の仕様書に変換したことになる。参入者の多いジャンルであることが、この方法にとってはむしろ有利に働いた。調べる対象が100作分あったからだ。
この習慣は今も続いていて、新着レビューはSlackに自動で流れ、毎朝8時に確認する運用になっている。ゲーム内で「糸」を切るギミックにクワガタムシを使ったところ「突飛でわかりづらい」という星1レビューが2件付き、翌日にはカッターナイフに差し替えた版を配信した、というエピソードも語られている。星1が2件で仕様を変える速度は、2人という規模でしか成立しにくい。
収益を増やそうとして収益が半減した2作目
2作目でつまずいている。ヒント表示前の動画広告のビュー数を増やすため、意図的に難易度を上げたのだ。狙いはユーザーが詰まる回数を増やすことだったが、実際に起きたのはプレイ途中での離脱で、2作目の収益は初作の半分になった。
この失敗はプラットフォーム上に痕跡として残っている。App Storeで2作目『赤い部屋』の平均評価は現在3.5、3作目『Christmas Eve』は4.5台で、インタビューでSaito氏が語った「前作は星3.5、3作目では星4.6」という記憶とほぼ一致する。初作『1K』も4.0台で、以降の作品(中央値4.7台)より低い。数字の上でも、序盤の2作でだけ評価の谷ができていることが確認できる。
広告収益型のアプリでは、広告接触の機会を増やす改修は短期的には合理的に見える。だが脱出ゲームの場合、ユーザーが詰まる時間はそのまま離脱の時間でもある。広告在庫を増やそうとして在庫を見る人ごと減らした、という構図だ。同じ広告収益でも、8年でアプリ10本を出して月3万円、ピークの2021年から下降に入った個人開発者の記録のように、外部要因で単価が落ちていく側のリスクとは性質が違う。
止まるときはプラットフォームの都合で止まる
Hirata氏は「アプリ配信や広告プラットフォームの都合次第で、明日いきなり収益がゼロになってもおかしくない」と述べており、実際にそれに近い事態も起きている。App Store側から「同じような内容のゲームを、短期間に何本も出すな」と指摘され、3か月間、新作が全部リジェクトされた時期があった。粗製乱造とみなされたためらしい。特別な対策が効いたわけではなく、3か月経つと突然また審査が通るようになった。理由は今も不明だという。
量産を武器にする事業は、量産そのものが審査上のリスクになる。診断アプリ90本・累計820万DLで収益2,000万円のように本数で当たりを引きにいく型や、10年で68本を出しヒット作ゼロのまま累計200万DLに届いた個人開発の記録と並べると、Jammsworksは本数型でありながら1作あたりの評価が高い珍しい位置にいる。App Storeに並ぶ脱出ゲーム56作の評価件数は合計で約107万件、平均評価の中央値は4.7台だ。本数と満足度のどちらかを捨てなかったことが、リジェクト明けに事業が戻れた条件でもある。
実際、ペースは意図的に落ちている。創業当初の1〜2年は月1作だったが、現在は年4作ほど。App Storeの配信開始日を数えると、2017年の12作に対して2021年以降は年3〜4作で推移している。1作あたりのボリュームを厚くする方向に切り替えたことが、そのまま数字に出ている。
再現の条件と限界
一般化できるのは、レビューを「感想」ではなく「仕様の入力」として扱う運用だ。競合が多く、レビューが大量に蓄積しているジャンルであれば、業種を問わず同じことができる。低評価に共通項がある領域ほど効く。
一方で、再現しにくい条件も多い。まず、この事業は日本語がUIとヒントにしか出てこないという脱出ゲーム固有の性質に支えられている。Saito氏が「ローカライズの手間がほとんどない」と語る通り、翻訳コストなしで21カ国に配れる商材はそう多くない。にもかかわらずユーザーの約8割は日本人で、海外での本格的なヒットは本人たちが今後の課題として挙げている段階だ。
次に、2人の役割分担が最初から噛み合っていた。Saito氏が設計事務所出身で背景画像を作れ、Hirata氏がプログラムを書ける。静止画中心の脱出ゲームは、この2職種だけで完結する数少ないジャンルだった。技術的ハードルの低いジャンルを選んだのは、Saito氏が両親から「2か月以内に結果を出せなければ再就職」と言われていたという制約の産物でもある。
そして最大の限界は、6億円という数字が8年分の累計であって、月次の安定収入を保証するものではないという点だ。3か月のリジェクトは、収益が事業側の努力とは無関係に止まりうることを実際に示している。本人たちが「安泰だとはまったく思っていない」と繰り返していることは、この事業を読むうえで数字と同じくらい重要な情報だと言える。
なお本記事の売上・ダウンロード数はレバテックLABのインタビューにおける本人発言に基づく。作品数・配信日・評価はApp Storeの公開データで裏づけを取ったが、売上そのものを外部から検証する手段はない。
出典
- 報道レバテックLAB「人生を“脱出ゲームアプリ”に託した理由。群馬の幼馴染コンビ・Jammsworksのシンプルな「バイブル」」(2024年8月19日公開)。累計売上6億円・累計3,000万DL・49作・初月100万円などを本人が語ったインタビュー
- 本人公開Jammsworks公式サイト ABOUT US。iOS/Androidアプリの開発・運営、プログラマ Asahi Hirata / デザイナー Naruma Saito の2人体制であることの自己開示
- 本人公開Jammsworks公式Instagramのプロフィール。「脱出ゲームをメインに世界21カ国で配信中!累計3500万ダウンロード突破」「Google indie Game festival 2019 top20 Finalist」と自己開示
- 本人公開App Storeのデベロッパーページ(Jammsworks Inc.)。各作品の配信開始日・価格・評価件数・平均評価というプラットフォーム公開データ
- 報道Google Developers Japan「Google Play Indie Games Festival 2019 トップ 20 決定!」。『脱出ゲーム The Little Prince 星の王子さま / 株式会社 Jammsworks』が選出された一次発表
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