記念日アプリ「365日記念日」、サブスク導入から2ヶ月で月1万円に到達
記念日管理アプリ「365日記念日」がサブスク機能のリリースから2ヶ月で月1万円に到達。転機は広告を消すのではなく常時表示に変え、その広告を有料プランの購入理由に転用した設計判断だった。
執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)
月商1万円は、月商を公開している掲載227件のうち下から4%。掲載全体の月商中央値は157万円です(データ集計)。
個人開発者のイノウエ氏(X: @tty215_dev)が運営する記念日管理アプリ『365日記念日』が、サブスクリプション機能のリリースから2ヶ月で月1万円の収益に到達した。本人が2025年5月17日にXで達成を報告し、同月25日に公開したnoteで、そこに至るまでの設計判断を開示している。
金額そのものは大きくない。それでもこの事例を取り上げるのは、開示されている内容が「何をいくら売ったか」ではなく「どの部品をどう組み替えたら数字が動いたか」に寄っているからである。バナー広告とサブスクリプションという相反しがちな2つの収益源を、意図的に1点で結び直したという話になっている。
開示されている情報の範囲
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 開発者 | イノウエ(tatsuya)氏。関西在住、1児のアラサーパパ、Flutterで個人開発 |
| 運営本数 | アプリ2本(今回の収益達成は主に『365日記念日』によるもの) |
| 収益源 | バナー広告 + サブスクリプション(プレミアムプラン) |
| 課金モデル | フリーミアム。機能は基本すべて無料で開放 |
| プレミアム特典 | 6項目 |
| 達成日 | 2025年5月17日 |
| 所要期間 | サブスク導入から2ヶ月 |
| 到達額 | 月1万円 |
先に限界を明示しておく。noteの無料公開部分で数字として書かれているのは「月1万円」と「2ヶ月」の2つだけである。ダウンロード数、月間アクティブユーザー、課金率、プランの価格、広告収入とサブスク収入の内訳はいずれも記載がない。有料部分は「年間プランを選んでもらうために工夫したこと」以降で、本稿はそこには踏み込まない。よって以下は金額の分解ではなく、意思決定の分解として読む。
何を売っているアプリなのか
『365日記念日』は記念日を管理するアプリである。noteから読み取れる機能構成としては、記念日にタグを付けて整理でき、カスタムタグを追加でき、通知が飛び、グループを作って他ユーザーを招待できる。つまり単なる日付リストではなく、共有と通知を持つ「関係性の管理ツール」に近い。
課金対象となるプレミアムプランの特典は6つ。広告の非表示、通知のカスタマイズ、カスタムタグ追加の制限解除、タグの並び替え/非表示、グループの参加無制限、グループへのユーザー招待無制限である。並べてみると分かるが、6つのうち5つは「無料でも使える機能の上限を外す」タイプであり、有料でしか触れない新機能はほぼない。
これは偶然ではない。イノウエ氏は方針として「機能はすべて無料で使えるようにしている」と明記しており、その理由を「個人開発では資金も限られていて広告出稿の選択肢が取れないので、不便さが起因するユーザーの流出を防ぎ、機能で価値を感じてもらう」ためだと書いている。広告予算がない以上、一度来たユーザーを失った時の再取得コストが実質的に無限大になる。だから機能制限で人を追い出さない、という順序で設計が組まれている。
潮目が変わった二つの判断
この事例の転機は2段階ある。
第一段階は、バナー広告の置き場所を変えたこと。 以前は「ユーザーの体験を損いたくないという気持ちが先行して特定の画面のみに表示していた」が、これをメイン画面への常時表示に変更した。本人の記述では、変更後に収益が増加し、しかもユーザーからのネガティブな意見は発生しなかった。増加幅の数字は公開されていないが、方向としては明確に「広告を減らす方向ではなく、増やす方向で正解だった」という結果になっている。
実装面の細部も書かれている。このアプリは横スワイプでページを切り替えるUIだが、バナーはページ切り替えの影響を受けず再読み込みされない位置に置いてある。表示のたびにリロードが走らない配置は、表示回数ではなく表示時間を稼ぐ設計である。
第二段階は、サブスクリプション機能のリリース。 これが月1万円到達の直接の引き金で、リリースから2ヶ月で目標に届いている。
なぜ効いたのか — 広告を「消す対象」に仕立てた構造
注目すべきは、この2つの判断が独立していない点である。
通常、アプリ内広告とサブスクは互いに食い合う。広告を増やせば体験が悪化してサブスクどころか離脱を招き、広告を減らせば広告収入が落ちる。多くの個人開発アプリはこのトレードオフの前で身動きが取れなくなる。
イノウエ氏の設計はここを外している。バナーを常時表示にした狙いとして、本人は2つ挙げている。ひとつは「表示時間を長くして収益を上げるため」。もうひとつが決定的で、「広告が非表示になるという特典に魅力を感じてもらうため」である。
つまり広告は、広告収入を生むと同時に、プレミアムプランの購入理由そのものを生産する装置として置かれている。広告の露出を増やせば広告収入が増え、同時に「消したい」という需要が増えてサブスク収入も増える。トレードオフだったはずの2軸が、同じ方向を向くように接続し直されている。これが、たった2ヶ月という速度の説明になっている部分だろう。
ただしこの構造は、無料版が十分に使えることが前提になる。機能制限で不便を与えたうえに広告も見せれば、単に去られて終わる。「機能は全部無料」と「広告は常時表示」はセットでしか成立しない組み合わせであり、片方だけを真似ると逆に効く。
課金画面に投じた手数
もう一点、開示が具体的なのが課金画面の作り込みである。本人は「いつものように勢いで実装せず、事前にFigmaでデザインを固めた」と書いている。実装された工夫は4つ。
特典をアコーディオンで表示し、閉じた状態で全体像が一目で分かり、開くとアイキャッチ画像付きで各メリットが伝わるようにした。金額表示では円の単位と数字でテキストサイズを変え、数字だけを大きくした(この点はアプリマーケティング研究所の記事を参考にしたと明記している)。不安要素を潰すためのQ&Aと注意点を置き、特に無料期間中に解約できることと、その解約手順をプラットフォーム別に案内している。そして画面自体をボトムシートで実装し、アプリ内のどの導線からでも既存画面の上にスッと出せるようにした。
ここに共通しているのは、購入を迷う理由を減らす方向にしか手を入れていないことである。値引きも期間限定もない。解約方法をわざわざ丁寧に案内するのは、短期の課金率だけを見れば不利にすら見えるが、返金要求やストアの低評価という後工程のコストを先に潰している。
効かなかったこと、そして分からないこと
本人が「以前は特定の画面のみに表示していた」と振り返っている通り、ユーザー体験への配慮を優先して広告を絞っていた期間は、収益面では機能していなかった。配慮それ自体が悪いのではなく、配慮の掛け先が間違っていた——絞るべきは広告の露出ではなく機能の制限だった、という順序の誤りである。
一方で、この記事から確認できないことも多い。月1万円のうち広告とサブスクがそれぞれいくらなのかは不明で、極端に言えば「サブスクはほとんど売れておらず、広告常時表示化の効果が2ヶ月遅れで現れただけ」という解釈も、公開情報だけでは排除できない。課金率も価格も出ていないため、単価×人数の検算もできない。月1万円という水準は、個人開発アプリとしては到達者が一定数いるレンジであり、この設計だから到達したと断定できる材料は揃っていない。
どこまで持ち帰れるか
再現しやすいのは、広告とサブスクの関係を「食い合い」ではなく「連動」として設計し直す発想である。有料プランの特典の筆頭に広告非表示を置く構成自体は珍しくないが、それを本気で機能させるには広告を目立つ位置に常時置く必要がある、という逆説まで踏み込んでいる点は流用できる。課金画面をFigmaで先に固める、解約手順をプラットフォーム別に明記する、ボトムシートで導線を増やす、といった実装も難度は高くない。
再現しにくいのは前提条件のほうだ。この設計は「毎日または定期的に開くアプリ」であることに強く依存している。記念日管理は通知起点で繰り返し起動されるカテゴリであり、だからこそバナーの表示時間が積み上がり、広告が邪魔になるほど使い込まれる。年に数回しか開かないアプリで同じ構成を組んでも、広告収入も「消したい」という動機も溜まらない。またグループ参加や招待といった特典が価値を持つのは、アプリが複数人で使われる設計になっているからで、単独利用前提のアプリには移植できない。
そしてもっとも真似しにくいのは、資金がないことを制約ではなく設計原理に変換している点である。「広告出稿ができない → だから流出は致命傷 → だから機能で締め付けない」という筋道は、資金があるチームからは出てこない。
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出典
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